「その土曜日、7時58分」 [☆☆☆★★★]
兄は弟に禁断の企てを持ちかけた。それは両親が営む宝石店を襲うこと。最悪の誤算をきっかけに、次々に暴かれる家族の闇。
とはこの作品の宣伝コピーです。原題は「死んだのが悪魔に知られる前に」といって、アイルランドの古い乾杯の音頭の引用だといいます。
ひとつの事件の前後数日の登場人物それぞれの真実がカットバックとなって、ジグゾウパズルのピースのように時間を埋めてゆき、物語は悲劇的なラストへと導かれます。
内容はいたってシンプル。余計なことも、私たちが知りたいと思うこともずいぶん削られて、事件の前後とその中で知ることのできる真実だけが描かれ、会話に出てくる過去の真相やある疑問の答えは語られず終い。私たちの想像に委ねられるわけですが、それこそが監督からのメッセージと受け止め、違う現実に置き換えてみると妙に納得いくのであります。
以降、物語の核心部分に触れている可能性がありますが、あくまでも主観で進めてゆきますので、パンフレット、他のレビューでは(的外れだから)語られていないかもしれないことを書きます。鑑賞予定の方も参考にしていただければこの作品に対する視野もグッと広がるのでは、と思います。まぁ本来ネタバレを嫌う人はレビューなんて読まないと思いますが。
それではースタンリー・キューブリックの遺作「アイズ・ワイド・シャット」(1999年) は、人類史上最大のウソといわれる“アポロ月面着陸はヤラセだった(自分が撮った)”ことを告白(告発)した作品と方々で語られております。撮影から編集、予告編制作に至るまで、キューブリックの意思により秘密裏に進められ、彼は試写会の5日後に心臓発作で急死しております。
さて、キューブリックと同じくポーランド系ユダヤ人のシドニー・ルメットは84歳。キューブリックが生きていれば同世代です。この作品が遺作となる可能性もないわけではない、ということをご本人が自覚しているかどうかはわかりませんが、それを意識しているならば、この作品はルメットの最後のメッセージだとして私は鑑賞に挑んだのであります。
経済的に行き詰まった兄弟は両親の経営する宝石店、つまりは身内の襲撃を企てます。商品には保険がかけられているから両親にも損失はなく、店員として店にも出ていないから危険にさらされることもないから大丈夫だ、というのが禁断の企てです。 誤算から母親を死亡させ失敗に終わったこの襲撃事件は兄弟の経済的破滅と共に、それぞれの夫婦、家族の絆が断たれてゆきます。国家権力である警察は非協力的で、父は独自の追求で長男を疑いだします。 すでに人生破滅同然の兄弟は生き延びる道を模索するうち、兄は次々と殺人を繰り返し悲劇的なラストへと向かいます。 この一連の流れは、やはり近年起こったあの重大事件とそれ以後のアメリカの姿と重なります。
長男は幼い頃から父に愛されてなかったと思ったことから、実の子ではないのでは、という疑いを持ちながら生きてきたのですが、その真相ははっきりと示されません。また、ニューヨークの宝石商の暗部にまで精通している父の過去というのも真相は証されません。
この作品のラストからストレートに推測すると、父親の宝石商のスタートは盗品ビジネス、もしくはもっと凶悪な犯罪ではないかと思うのです。 長男の幼い頃の記憶になんとなく父の汚れた姿があったのではないでしょうか。 父親が事件の真相を知ったとき、同じ血が流れていることの皮肉を悟ったのだと思います。しかし、それが語られることがないとすれば、やはり別の事象に置き換えてみるのが先決だと思うのです。
それでは、それを解くヒントは何かというと、父親が宝石商であるということ以外ないのであります。宝石商の発祥といえばユダヤ人の歴史です。この物語の登場人物がそれぞれ誰である(ロックフェラーとかロスチャイルドとかネオコンとか)ということではなく、宝石、貴金属、金融、資源、を牛耳って、世界を経営し途上国から搾取し続けるユダヤ人富裕層に対して、ルメットは映画の中でその歴史に終止符を打ったのだと私は思うのです。
長男は内面・外見共に劣等感のカタマリで、父の実子ではないと思ったのも、排他的なユダヤ人財閥系の優生思想に基づいているのではないかと思うのです。
これ以上の深読みは控えますが、ルメットの過去44作品のどれかを観ていれば、また新たな真相が掴めるのかもしれません。 ちょっと気になったのはキモノを羽織った麻薬売人の男娼?の役者。クレジットを見逃してしまいました。どなたか詳細(しょうさい)を教えてください。
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