メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬 [☆☆☆☆]
約束は必ず守る。ババーン!! 『メン・イン・ブラック』のトミー・リー・ジョーンズ主演かつ初監督作品でございます。
メキシコ国境ほど近いテキサス。トミー・リーは牧場ではたらくカウボーイ、友人=メルキアデス・エストラーダの射殺死体が埋められていたと知らされる。メルキアデスはメキシコからの不法入国者、トミー・リーにとって、お互いが唯一の友人と言ってよい存在。以下ネタバレですが、メルキアデスは、「オレが死んだら家族が暮らすメキシコのヒメネスという村に埋めてくれ」と言っていたのであった…というお話。
脚本は『アモーレス・ペロス』『21g』のギジェルモ・アリアガ。時間軸がずらされており、上記メルキアデスとの約束も、映画がだいぶ進んでから明かされるのであった。と、いうと、わざわざ話をわかりにくくしてる単館系インテリゲンチャ向き難解な作品みたいですけど、トミー・リーの演出は単純明快、簡にして潔、見晴らしのよい映画になっており、話の流れを見失うことはないのでご安心ください。
じっさいトミー・リーの演出は素晴らしく、ちょっと(だいぶ?)クリント・イーストウッド演出術に影響を受けている印象、きっとほとんどのシーンはぶっつけ本番、リテイクなしでオッケーだったのでしょう、俳優さんの演技に強靱な力がみなぎっているのであった。やはり、監督自らが演技者である場合、俳優さんのベスト演技をひきだすコツをわかっているのでしょう。か?
メルキアデスを撃ったのは、人間の屑バリー・ペッパー国境警備隊員であった。国境警備隊員や保安官たちは結託して事件をうやむやにしようとします。「不法就労移民が死んだとして、なぜに合衆国公僕われわれが面倒を引き受けねばならぬのか?」というわけです。こういう、仕事で手抜きするヤツが批判的に描かれ、彼らの妻(と愛人)が寝取られるのもイーストウッド的ですね。
物語の後半、トミー・リーはバリー・ペッパーを拉致、メルキアデスの死体を掘り出させ、馬に乗せて国境越え、一緒にヒメネスの村へ向かいます。この道中、馬に乗って山を越えるシーンのマルボロカントリーっぷりもよい感じ。
道中、バリー・ペッパーはガラガラヘビに噛まれたり殴られたり散々な目にあう。そしてラスト、トミー・リーはバリー・ペッパーに、メルキアデスを丁重に埋めさせます。バリー・ペッパーは泣きながら許しを乞う。この瞬間、これは“復讐”の物語ではなく、バリー・ペッパーの“贖罪”の物語だったのだ! と、私は茫然と感動したのでした。トミー・リーは「Son(息子)」と呼びかける。人間の屑バリー・ペッパーはそのとき、“男”と認められたのであった。
死体と一緒に旅をする、ちょっとグロテスクですが笑えるシーンもあり、ユーモア演出もお見事、イーストウッドの西部劇同様、神話的な雰囲気あり、トミー・リー初監督にして巨匠の風格。マスターピース。バチグンのオススメです。
☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)
- 公式サイト
- http://3maisou.com/
Comments
投稿者 お姉ーさん : 2006年06月03日 20:30
こんないい映画、どーしてコメントがないの?
★
人は真っ平らな一本道を歩いて生きているわけではない。
「このことは後で考えよう」「これはなかったことにしよう」と穴を掘って埋めてきたこともある筈だ。
ところが思いがけない時に、そのことが地表に現れたりもする。そして「風化していない」「解決していない」ことに、また慌てて埋め直したりしたこともあった筈だ。少なくとも私はそうだった。しかしいつかは自身で解決しなければならない時が来る。のではないでしょうか。
メルキアデスの写真とは何か。 地図とは? ヒメネスとは?
4頭の馬で出発した旅が、途中1頭は崖下へ転落。
この旅には持って行けない余分な荷物だったような気がします。
☆
この映画を男の物語としてだけで見るのは惜しい。
保安官、マイクの妻ルー、レイチェル、マリアナ、盲目の老人にもボーダーは介在し、留まるにしても行くにしても、それはやはりそれぞれに越境なのだったと思いました。
投稿者 BABA : 2006年06月05日 23:51
>お姉ーさん
コメントありがとうございます!
いやまったく、色々考えが広がる素晴らしい映画でした。
>「このことは後で考えよう」「これはなかったことにしよう」と穴を掘って埋めてきたこともある筈だ
なるほど!
過ちを知らんぷりして埋めてしまうのでなく、しっかり解決せよ! ということですね。
もう一回見たかった…と思ったのでした。
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