ひるね姫 [強制起訴シリーズ]
起訴者: 元店主
強制起訴シリーズ76弾
ココネは岡山県は倉敷に住む高校三年生の女の子。自動車の改造ばっかやっとーお父さんのモモタローとの二人暮らし。お母さんはココネが赤ちゃんの時に亡くなっている。そんなココネちゃんは、なぜかよく同じ夢を見る。それはお父さんが、ココネの小さい時によく話してくれた、「エンシェンと魔法のタブレット」というお話の夢。その夢の中では、ココネはエンシェンというお姫様で、魔法が使えて、ぬいぐるみのジョイとも喋ることができるのであった。
ところがそんなある日、お父さんが警察に捕まってしまった!謎の悪い奴もあらわれて、ココネはジョイと幼馴染みのモリオと一緒に逃げるはめに。その途上、ココネは自分の夢がなにか重大な意味を持っている事に気付き始める・・・。
「攻殻機動隊S.A.C」の神山建治による劇場オリジナルアニメ。
- ヤマネ
- 酷い、と思いましたね。ボクはこんなに酷いアニメを観るのは久しぶりです!
- マツヤマ
- オレは、普通に面白くなかったな。別にアニメだから、という訳ではなく、単に面白くない作品だったな。
- 元店主
- ・・・そうですか。やはり、二人ともそう来たんですね・・・。私も、そこまで面白かった訳ではないし、色々と問題の多い、むしろ失敗作と言ってもいいんじゃないか、とも思う訳ですが・・・どうにも嫌いになれない、否定したくない作品、といった感じなんです。
- ヤマネ
- へー、そうなんですか?一体この作品のどこが良かったんですか?どこかグッとくる様なところ、ありました???
- 元店主
- ・・・う~ん・・・まぁ、魔法とか。
- ヤマネ
- なんですかそれは!・・・もうね、この作品は絵がダメ、絵の動きがちっとも気持ちよくない。人が走ってる速度と背景の速度がずれてる所がちょくちょくあったし、背景をカメラが舐め回す様に動くのも無駄に早過ぎてイライラする。空を飛ぶシーンも、せっかく瀬戸大橋をバックにしてるのに、急に背景がチープなCGみたいになって・・・20年前のゲームかと。
- 元店主
- それは多分、デジタルで作画した事に一因があるんじゃないかな。神山建治は、常に作品を作る時に新技術を導入してるみたいで、今回は「Storyboard Pro」を使ったデジタル作画。タブレットの上に作画をしていくの。日本のアニメは非常に優秀だけれど、今のままの体制ならいづれ潰れるんじゃないか、とはみんなが持ってる危惧で・・・つまり優秀なアニメーターを大量に、安く、使い潰して作品を作る、という今の体制。だから新技術を取り入れるなりなんなりして、状況を変えていかなくちゃならない。神山建治はそういった視野を持ちつつ作品を作ってるんだな。それは、この作品のテーマにも繋がるよね。新技術で体制を変えていこうとするものと、それに抵抗する勢力、と。
- ヤマネ
- まー、それは分からなくはないですけどー。でも実際にできてきた作品がこれでは・・・。井上俊之、安藤雅司、西尾鉄也、と最高峰の原画マンを揃えていながら、これですよ。みんな、デジタル作画では実力を発揮できなかったんじゃないかなー。
- 元店主
- う~ん、確かにココネが走ってるシーンがあまり走ってる様に見えなかったり、妙に背景から浮いてぎこちないシーンも散見したけど・・・でも私はヤマネくんが言う程は悪くなかったと思う。ココネの動きとか、可愛かったよ。あと、妙にリアルなのになんかぎこちない・・・ッて感じも、最初は違和感だけど、慣れてくればそんなに悪くもない。まぁ、まだ過渡期って感じはあるけど。
- ヤマネ
- 確かに、ココネは可愛かったですけどね。歌も上手かったし。倉敷の景色も良かったかなー。あと、新大阪駅。あんまとりあげられない所だから、新鮮だった。
- マツヤマ
- オレはアニメファンじゃないから絵とかその動きの方にはそんなに拘りはないな。まぁ、あんなもんなんじゃないの?と思った。別に悪いとは思わないよ。ただ、話が下らない。敵も味方も、双方とも目指してるのが東京オリンピック開会式の成功って、どんだけお目出度いんだよ!しかも社長が自動運転に拘るのは、娘への贖罪って・・・そんな事で大勢の社員を振り回していいのか?そもそも自分なりに自動運転の意義を納得してないのか?納得してたら、別にオリンピックの開会式に拘ることないだろ、社会の役に立つんだしさ。たんなる意固地としたら、ただのバカだぞ、この社長。結局、みんなでオリンピックを成功させましょう、という日テレ的なメッセージ映画じゃないの、これ。
- 元店主
- いや、別にみんなオリンピックの成功を目指してる訳ではないので、それは違うと思うんですが・・・。オリンピックは作品世界を現実世界と関連づける指標のひとつとして扱われている程度でしょう。倉敷が舞台、というのと同じですよ。でも別に、倉敷の宣伝映画として作られている訳ではない。まぁ、結果として倉敷の宣伝にはなると思いますが・・・。そういった意味で、日テレからお金を引っ張ってくるために、オリンピックを使った、という面はあるかもしれません。
- マツヤマ
- だいたいIT化、AI化が進む事が無条件で善とされていて、そこに非常に偏ったものを感じて、気持ち悪かったんだよ。
- 元店主
- そこらは難しい問題で・・・IT化の流れ自体は止めようがないし、止めるべきでもない。すでに出来たものをなかった事でにはできないので・・・だからIT化の進展自体はいいも悪いもないと思うんです。むろん、その過程で色々と問題は発生するでしょうが、それはそれとして対処していくべきで・・・でもそのためにも、IT化に反対する側の理論をもっとはっきりと描くべきだったかもしれませんね。そもそもハーツランド(機械の王国)でなんで魔法(IT・AI)が禁止されてるのか、よく分からなかったですもんね。
- ヤマネ
- そうなんですよ。この話、敵がなんなのかよく分からないんですよー。一見、渡辺が敵みたいんですけど、でも渡辺だってオニと闘ってた訳じゃないですか。そりゃ、最後に自分が負ける・・・と思ったら、自暴自棄になってオニに加担したけど、それまでは自分でオニを倒すために、エンシェンの魔法を手に入れようとしてた訳で。謎ですよ、渡辺。顔は庵野にそっくりだし。あまりに古くさい、類型的な悪役だし。モモタローによるオニ退治の話なのに、オニがなんだかよく分からないって・・・それじゃ、話は成立しません!
- 元店主
- まぁねぇ、私もそこがこの作品の失敗点だと思う。私としては、オニはココネのダークサイドとして描いたら良かったと思う。思春期の女の子が持つダークサイド。もともとココネの夢に現れたもんだし。それを最後は克服して(倒して)成長する、と。ベタだけど、それならカタルシスもある。でも・・・ココネちゃん、最初から最後までカラッと明るいんだよなー。ダークサイドの欠片もない。故に、あんだけ派手な戦いを繰り広げても、カタルシスはないんだよなぁ。代わりに、お父さんのモモタローはちょっと明るくなってたけどね。でも、お父さん、完全に脇役だし・・・。
- ヤマネ
- あと、ボクは夢の世界と現実世界を行き来するのが、うまくいってなかった様に思うんです。なにがなんだか、よくわからない。この二つを対比させる意味ってあるのかなぁ。
- マツヤマ
- オレはそこはいいと思ったけどな。実は最初はオレも違和感アリアリだったけど、観てるうちに、そうか、これ実写映画ならとても映画的な表現としていいかも、と思って。そういった意味で、なんとなくアニメの見方が分かったような・・・ゴニョゴニョ。
- 元店主
- 私もそこはいいと思ったよ。私はむしろ、非常にアニメ的な表現だと思った。というのは、アニメでは夢の世界だろうが、現実世界だろうが、どちらも絵として描かれるので、実質等価なんだよね。だから、それら二つが混じり合って区別がつかなくなる、どっからが夢でどっからが現実とは割り切れなくなる、というのは、とてもアニメ的な表現でいいと思った。また、この夢の材料はモモタローがココネに話してくれたココネのお母さんの人生が元な訳で、そういった意味で、時間的にも過去と現在が混じり合ってる。それはアニメの起こす事のできる魔法なんだよ。それはちょっと感動的。ただ、オニの扱いがなぁ・・・。
- マツヤマ
- そういえば声の問題はどうなんだよ。この作品は声優ほとんど使ってないだろ。二人とも、いつもそれでブーブー言ってるじゃないか。
- ヤマネ
- 釘宮理恵ぐらいでしたね、まともな声優。ジョイ。でも、まー、そこまで気にならなかったですよ、別に。そりゃ、そんなに上手くはないですけど、俳優のみなさんは。ココネ役の高畑充希は良かったですよ。
- 元店主
- そうだね。やっぱ方言、というのが大きいんじゃないか。アニメの声って、やっぱ抽象世界のものだから、独自の法則がある。すでに確立されている。声優じゃない人はそれが出来ないからイマイチなんだけど・・・方言となれば、スタンダードから外れて構わない。だから、そんなに気にならないのかも。『君の名は』の時もそう思ったけどね。
- ヤマネ
- あ、そうだ、ボクはこの作品を観て、あらためて『君の名は』はいい作品だったんだなー、とか思ったんですけど、ケンタロウさんは『君の名は』と較べて、どうです?『ひるね姫』。
- 元店主
- んんー、そりゃ、『ひるね姫』の方がいいよ、個人的には。
- ヤマネ
- ええー!うっそー!・・・って、ケンタロウさんならそう言いかねないとは思ってましたが。むむむ、でもそれは理解できないな・・・。
- 元店主
- そりゃヤマネくんは、アニメの絵の動きの気持ち良さを一番に評価するからさ。私だってアニメの動きの気持ち良さは大事だと思うけど、それだけを重要視する訳じゃないから。動きの気持ち良さやグルーブ感では、確かに『君の名は』の方が優ってるかもしれないけど・・・、でも私にとって『君の名は』は“雑”なんだよ。
- ヤマネ
- ええー、とても丁寧に作られた作品だと思いますけどー。
- 元店主
- いや、丁寧には作られてるんだけど、作品そのものが“雑”というか・・・。ちゃんと演出すべき所をPV的なノリで誤摩化してるとか、お話の辻褄が色々と合わな過ぎるとか、キャラが曖昧とか・・・まぁ、全体的に“雑”という感じなんだな。それに対して『ひるね姫』は・・・“不器用”かな。頭でっかちな感じで、やりたい事や志の高さは伝わるんだけど、なんか上手くいってない。グルーブ感に欠ける、というか。で、私は“雑”より“不器用”の方が評価できるという訳。
- ヤマネ
- ふーん。ケンタロウさんは、天才より努力型の秀才を評価するという事ですか。
- 元店主
- いや、新海誠は別に天才ではないでしょ。私は天才は好きだよ。幾原邦彦とか。
- マツヤマ
- おいおい、アニメ談義はその辺にしようぜ。全く、二人ともアニメの話になったらいつまでも喋り続けるんだから・・・。
- ヤマネ
- はーい、すいません。では、そんなアニメ嫌い・・・じゃなくて、別にアニメが好きという訳ではないマツヤマさんが次の課題を決める番ですね。何ですか?
- マツヤマ
- ああ、次の課題映画は・・・『レゴバットマン/ザ・ムービー』だ。
- 元店主
- アニメじゃないですか!
- マツヤマ
- いや、レゴだよレゴ。
- ヤマネ
- はーい、では次は『レゴバットマン』で、ではー。
Comments
投稿者 オーソン : 2017年04月10日 21:49
神山建治監督の作品は初めてみたのですが…。面白くない訳ではないけど、面白かった訳でもない。でも嫌いじゃない。そんな映画でした。現実と夢の世界がどんどんとシームレスになっていくのは面白かったですね。しかし、主人公の女の子は何もせずに寝てばっかりだったなあ…。もう少し能動的に行動をしてほしかったです。
最後の歌はいいと思います。最後、ありし日のシーンで終わらせるのも好きです。ただ、自動運転をめぐる家族間騒動に感情移入する事ができなかったので、最後のシーンに没入できませんでした。
個々にはいいなあと思うシーンはあるけど、全体としては駄目なんじゃないかと思う映画でした。
かなり感想の書きにくい映画です。消化不良感が凄い…。
でも、興味は持てたので、この監督の過去作を観ていこうかと思っております。
投稿者 uno : 2017年04月10日 23:31
この作品を見ているときは、どうにも消化不良で、世界に入り込めませんでした。
夢と現実が「えっ、どっち?」ってなる不思議な感覚に途中から慣れて、面白いな、とは思ったんですが。。。
あのオニは何なんでしょうか。IT・AI化しなければ解決が出来ない抽象的なもの?例えば高齢化や労働力の問題なのかなあ。今はそんな風に考えてますが、見ているときは、あー戦ってるなあ、程度にしか思えなかった。そこんとこ上手く表現できていたら、もっと面白くなっていたかも。
あと、ココネが見ている夢って何なんだろうと、見終わってから考えてました。夢は子供の頃にモモタローから聞かされた話ってことですが、その話はモモタローがイクミと実現したかったことの物語化なんですよね。そして両親が成し遂げたかった物語をココネが魔法で具現化した。そこんところが、映画を見てるときにモワ〜っとしてつかめず、整理が出来なかった。そこも消化不良の原因なのかも。
グッときたのはココネとモリオの2人がハーツの中で居眠りして夢を共有する場面(もしかしてココネしか夢を見てなかった?)。あそこは良かったなあ。気が付いたら大阪にいたってところも含めて。あと、ハーツがかわいい。
作画に関しては、特に背景がなんだか3Dの設計図みたいだなって思いました。図形としては正しいんだけど、違和感がある。ベタッとしていて躍動感やスピード感が出ていない印象。ただ、鼎談で元店主さんが触れている監督の新技術に対するアプローチを読むと、まだまだ過渡期らしいので、今後どのような表現を作り上げていくのかが楽しみです。
投稿者 元店主 : 2017年04月11日 03:29
二人とも、モヤモヤ〜としたみたいだね。うん、確かにモヤモヤする作品だよね・・・。
おーそんへ
確かにココネは眠ってばかりだけど、夢の中で活躍してる訳だからさ・・・。
あと、最後の歌ね。タイマーズだな。あのシーンは良かったね。あれだけで小さな話になってるし。でも、私的にはあの歌はないな。歌詞はばっちり内容とあってるんだけど・・・セブンイレブンじゃあるまいし・・・。
うのぴへ
ココネとモリオが夢を共有するシーンは良かったね(間違いなく、あれは夢の共有だったよ)。夢の共有って、エロチックだしね・・・。目覚めたら道頓堀、ってのも笑えた。
ハーツがかわいいのか!それは珍しい意見。さすが理系、なのか?あのハーツをデザインした人は、コヤマシゲトと言ってディズニーの『ベイマックス』のコンセプトデザインをした人らしい。だから『ベイマックス』そっくりらしい、マツヤマさんによると。『ベイマックス』観てみたら?
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