MOTHER [強制起訴シリーズ]
起訴者: 元店主
強制起訴シリーズ47弾
日本における恐怖マンガのパイオニアであり、「ママがこわい」や「赤んぼ少女」で多くの子供たちにトラウマを与え続けたのみならず、「漂流教室」「わたしは真悟」「14歳」などの傑作SFにて日本文化にも大きな影響を揮ってきた天才漫画家・楳図かずおの初映画監督作品。それも80歳を前にしての“初”である。
一応自伝作品・・・という事になっているが、本人が“嘘に嘘を重ねた”と公言している様に、フィクションという嘘を使って描いた妄想の“自伝”。漫画家・楳図かずお(片岡愛之助)の所に、彼の伝記を作りたいという編集者・若草さくら(舞羽美海)が訪ねてくる。その時に、死んだ母の象徴である赤い皿が突然割れた。と、それ以降、楳図の母イチエ(真行寺君枝)の亡霊が現れ、楳図の親戚たちを殺して廻る事に・・・しょこたんも友情出演しているのら。グワシ!
- ヤマネ
- うーん、まー、なんていうかー、いやはやなんとも・・・ま、こんなもん?楳図っぽさは出てるんだけど・・・難しい・・・。
- 元店主
- そう?私は極単純に“面白い”と思ったけど。
- ヤマネ
- うう、ま、それはそうです。ボクも面白かったです。でも、なんつーか、下らない所が面白い、というか、壊れてる所が面白い、というか・・・。
- マツヤマ
- 確かに、映画としては素人監督が撮った珍品にしか見えないよ。でも、そういう較べ方は無意味なんじゃない?あの楳図かずおが撮ったんだぜ。彼の新作、という見方でいいんじゃないか。
- ヤマネ
- それはそうなんですが・・・でもやっぱマンガではなく、映画として作ってる訳で、そこはちゃんと映画として評価するべきかと・・・。
- 元店主
- 私は映画として観ても、割とちゃんとできてると思ったけど。だって・・・前半とか恐かったもん!!
- ヤマネ
- ですよねー!ボクも恐かったです!え、うそ、恐いの?なんでーって。
- マツヤマ
- そうかぁ?オレはちっとも恐くなかったぞ。むしろ可笑しかった。爆笑しそうになったけど・・・場内に観客はオレひとりで貸し切り状態だったからな。かえって遠慮しちゃったよ。
- ヤマネ
- おろ?マツヤマさんって、Jホラー大丈夫なんですか?ならボクたちの“あへこは(あへてこはい映画を観る会)”に入って・・・
- マツヤマ
- はいらねーよ!オレはホラーはダメなんだよ、絶対!大体、まだやってるのかよ「あへこは」・・・この映画はいわゆるホラー映画とは違うだろ。なかば「まことちゃん」みたいなもんだよ。恐怖マンガの絵で描かれたギャグマンガっつうか。かなり笑えたよ。
- 元店主
- うーん、恐かったけどなぁ。特に、廃屋の二階で女の子の泣き声がして、そこにビデオ撮影しながら登っていくとこ・・・うわ、なんでいきなりビデオ撮影やねん!ブレアウィッチプロジェクトか?って、「ブレア・・・」観てないんですけど。
- ヤマネ
- あそこ恐かったですよねー。他にも、何気ない本棚のアップとか、山村の風情とか、道とか、そんな何気ない所になにか不気味な雰囲気が宿っていて・・・そういう所は割と上手だったかも。
- 元店主
- そうだよ、結構工夫して撮ってたと思うよ。さっきのビデオ映像もそうだし、異形のものはちゃんと映さない、とか、よく見えない視覚から撮る、とか。なんか黒沢清っぽい所もあったし。
- ヤマネ
- CGのチープな使い方とか、好感もてましたよね。凄く、頭使ってる感じがする。
- マツヤマ
- マンガ的な発想で撮ってるんだと思うぞ。なんかマンガのコマみたいな画、けっこうあったし。真行寺君枝が愛之助の部屋に入ってくるシーンなんか、あまりにマンガっぽくて、思わず吹き出したよ。
- 元店主
- 編集者の若草さくらを出迎える親子が、家の前に棒立ちになってるシーンとかですね。あれも楳図マンガまんま。
- マツヤマ
- それとか、田舎の風景を引きで撮って、だだっ広い所にさくらがひとりでポツンと立ってるとことか。なんかあんな画、観たことがある様な・・・。
- 元店主
- もしかして、さくらが人差し指を伸ばしながら片手をあげたシーンですか。あそこはさくらの腕に包帯が巻いてあって、あ、おろち!・・・と、ファンなら嬉しくなるシーンですね。
- マツヤマ
- ああ、あれ「おろち」なの。オレ、読んでないから。ふむ、つまりはファンサービスか。でもそんなこと知らないオレでも、あの画はいいと思ったから、普遍的にいい画なんだろうな、あれ。いい感じだったよ。
- ヤマネ
- でもねぇ、ボクは真行寺君枝がイマイチだったんですよー。もっと美しくないと、恐くもないですよー。
- マツヤマ
- オレは結構よかったけど、真行寺君枝。楳図マンガの世界をずばり表現してたんじゃないか。後半の走る所とか最高だよ。美少女の絵に囲まれて「ギャー」とか。はまりすぎ。
- 元店主
- 私も真行寺君枝は良かったけどね。あまりに足首が太くてビビったけど・・・。それより問題は若草さくら役の舞羽美海だよ!あの役は楳図ワールド的には絶対的な美少女じゃなきゃダメでしょう。まぁ、舞羽美海も別に普通に綺麗な人だけど、美少女って感じじゃない!楳図ワールドの最重要ファクターは絶対的美少女なんだから。あれではダメ。そこが一番残念だったー!!!
- ヤマネ
- そうですよねー!口が小さすぎます!美少女の持つ存在感が感じられませーん!!!
- マツヤマ
- 別に絶叫しなくても・・・、これだからアニメを観てる奴らは恐ろしいんだよ・・・。で、愛之助はどうだった?オレは映画を観る前は、なかなかいいキャスティングだと思ってたんだけど、実際に観ると・・・あまりに体型が・・・。
- ヤマネ
- ははは。ボクも体型は気になりましたけど、なんか柔らかくてちょっとズレてる感じとか、割と楳図っぽくて良かったんじゃないですか。それより、あの楳図の着ている赤白のボーダーの太さって、気分によって変わるんですよね。ボク、気がつかなくて・・・でも、それ本気で面白い!
- マツヤマ
- オレはずっと気になってたよ。ザッと観たところ3着あって、なんとどれも既製服だよ!襟刳りの形とか違うし。衣装として揃える事とか出来なかったのかねぇ。・・・ちなみに、オレは最初の襟刳りにリブのない奴が好き。で、2番目の細いボーダーは、多分セントジェームスとかオーチバルのバスクシャツだろう。で、常にブルゾンを着ていたのは、ボートネックだとか、袖にロゴが入ってるとか、そんな理由でそれを隠すためじゃないかと邪推してたよ。
- ヤマネ
- さすがマツヤマさん!オシャレさんですねー、観てる所が違う!・・・ま、そんな所ばっか観てるから恐くなかったのかも。・・・で、なんだかストーリーとかよく分かんないし、恐いんだか可笑しいんだかもよく分からないんだけど、やたら面白い!!という訳で、これは楳図かずおの作ったアートムービー、というまとめでどうでしょうか!唐突ですが。
- マツヤマ
- ま、それでいいんじゃない。最後のマンガ原稿が真行寺君枝の顔になる・・・というのも、意味はないんだろうけど面白いし、その後のウエー!もいい。意味はなくとも、面白ければいいと思うよ。
- 元店主
- ちょっと待って下さい。私は最後のシーンは重大な意味がある、と考えていますが。
- マツヤマ
- え?そうなの。どんな意味?
- 元店主
- あのマンガ原稿、「洗礼」の奴なんですよ。で、あの顔は若草いずみ。つまり、真行寺君枝は若草いずみだった、という事なんです!
- ヤマネ
- はぁ。それで?
- 元店主
- だーかーらー、となれば、編集者の若草さくらは梅図イチエ=真行寺君枝の娘だった、という事になるじゃないですか!
- マツヤマ
- ?????・・・いや、あの二人、赤の他人だろ?
- 元店主
- 違います!だから、あの二人は親子なんです。つまり、亡霊のマザー=真行寺君枝=楳図イチエは、若草さくらの産んだ妄想の産物なんです!
- ヤマネ
- ええ?あれ、愛之助=楳図かずおの産んだ妄想なんじゃないですか?
- 元店主
- まー、普通に観てたらそうだわね。でも、ラストのあの「洗礼」原稿シーンで、実は全て若草さくらの妄想によって引き起こされていた、という事が明らかにされるんです。そもそも事件が起き始めたのって、若草さくらが楳図かずおの所を訪ねて、その時に皿が割れてからでしょ。で、さくらが楳図かずおの自伝を書くために、色々と楳図家の事を調べるにつれて、楳図イチエ(母)の亡霊が暴れ始める。
- マツヤマ
- なんだ若草さくら、お前がみんなを殺して廻ってたのかよ!
- 元店主
- 「洗礼」って、そういう話ですから。娘のさくらが、母のいずみの亡霊を妄想で作り上げて、人々に様々な悪事を働いていく、という。自らの欲望のままにね。だから、山の中でさくらが若き日のイチエを幻視するシーンがありましたが、あれは実際には彼女が妄想で作り上げていたものなんです。だから、自分もその中に入っていって干渉できる。
- ヤマネ
- なるほど・・・なら、最後の奈落に落ちそうになっている若草さくらをイチエが髪の毛を引っ張って(結果として)助け、代わりに自分が奈落に落ちていくシーンは、「洗礼」の親子で抱き合っているラストシーンに相当する訳ですね。・・・ん?でも待って下さい。なら、イチエが死んだ時に持っていた髪の毛って何なんですか?あれは若草さくらが楳図かずおに接触する前のエピソードでしょ?
- 元店主
- うーん、あれは・・・、前々から楳図の事を想っていた若草さくらの妄念が、あらかじめ送られたものじゃないかなぁ、ちょっと強引だけど。だって、自分の名前が若草さくらで、楳図かずおの大ファンで、おろちのマネまでしてる娘なんだよ。もうずーっと前から楳図かずおの事を想っていたんだよ。強力な想いが現実を改変する、というのは楳図マンガの主要テーマだし。
- マツヤマ
- ふーむ、ファンは恐い、という話だったのか。
- 元店主
- ええ。・・・で、さらにちょっと深読みをしてみますと・・・、これは単なる噂で真偽の程はさだかではないんですが・・・楳図かずおが現在19年に渡って休筆をしているのは、表向きは腱鞘炎が原因とされていますが、実は編集者と揉めたから、という話があるんです。若い編集者が、楳図かずおの作品に干渉しようとして、それで揉めた、という噂。あくまで噂ですけど。もしそれに幾ばくかの真実があるのなら・・・これは編集者が自らの妄念によって楳図作品に干渉・変更を加えようとする事の告発、あるいはその恐怖、というテーマが込められているんじゃないかと・・・。
- マツヤマ
- なんか、えらい所まで来ちゃったな。もしそれが本当なら、ラストの「ウエー!」の意味合いも変わってきちゃうよ。
- ヤマネ
- にしても、ケンタロウさんもよくそんな事を考えますねー。普通、「MOTHER」なんだから、母と息子の話だと思いますよ。それを、ファンと作家、あるいは編集者と作家、の話に読み替えるんだから。それこそ、ファンの妄想は恐い!って話ですよー!
- マツヤマ
- ははは、オレは深読み上等だからな。つまり妄想上等だ!・・・で、来月の起訴映画だが・・・「デビルズ・ノット」だ。エゴヤンの新作ね。
- 元店主
- あぁ、あの冤罪事件を扱った奴ですね。個人的にはホラーの次ぐらいに苦手なジャンルです、冤罪もの・・・。
- ヤマネ
- いやー、ケンタロウさんもバカ映画ばっかり観てないで、たまには重い映画を観てシリアスになりましょー。みなさんも御一緒に、では!
Comments
投稿者 uno : 2014年10月31日 15:56
楳図かずおの漫画を読んだことがなくて。。。
レビューの内容もイマイチ(というかかなり)分からない。。。
この作品を途中まで見て、もしかして主人公は楳図かずおではない、若草さくらばかり出ているじゃないか、ということは思ってました。しかしレビュー後半で書かれているような読みは思いもよらず。そこでつながった部分もあり。
私が猛烈に意味が分からない、って思い始めたのが、楳図かずおが病院で捕らえられて電流を流される場面。なんじゃこりゃ!って。
レビューを読んで、この場面は若草さくらによる楳図かずおの洗脳を表しているのかな、なんて思うようになりました。
真行寺君枝の不気味さは楳図マンガを知らない私でも、楳図っぽい!って感じるもので、特に高速?で走る場面が私の持っているイメージそのもの。あと、ほうれい線。
愛之助はどうかな~、なんて思っていたのですが、独特のモッタリした感じが良かった。あと、ちょっと目が血走ってるんですよね。そこも作品に合ってるかなって。
ボーダーに複数種類あったなんて(笑)見落としたのが悔やまれます。
うーん、でもやっぱりワケがわからん!
投稿者 元店主 : 2014年11月01日 03:49
ええー!うのぴ、楳図かずお読んだ事ないのー!
そら、いかん。是非読んで下さい。・・・まぁ、私が貸してもいいんだけど、いま、みんなに貸してるからな・・・。
私がやった“読み”は、あくまで私個人の独自なものだから。そこまでの普遍性はないと思うよ。いや、さ、この映画、わけがわからーん!って言う人が多いんだよ。確かに、論理的に考えればおかしな所や、あれなに?って所は多々あるけど、それでも私は「わけわからん!」とはちっとも思わなかったんだ。メチャクチャだけど、なんかわかる!って感じ。
だから、私なりにひとつの“読み”を提示してみたわけ。こうやってみれば、少しはわかった様な気になるんじゃないですか、と。表面には現れていない深い所まで読み解くのが、ファンの務めじゃないか?なにせ、これは楳図かずおの19年振りの新作なんだから。
ファンの愛情だよ。そして、愛情はいつだって恐いんだよ。イアラー!
投稿者 オーソン : 2014年11月01日 10:52
オープニングのボーダー柄の床を歩くシーンが好きですね。全体的にVシネを思いおこさせるような絵で、逆に今の映画館でこんな映画を観たということがとても新鮮でした。
ホラー映画では論理的に飛躍した話が多いので、あまり気にならなかったです。
恐怖描写が思ってた以上に正統な演出だったので安心して観ることができました。観る前はすごい身構えてたので(汗)
若草さくら役の人、そんなに悪いとは思わなかったです。全体的にもっさりしてて、おとなしい人に見えるけど、内面に狂気が宿っているっていう印象を受けたので。
梅図かずおのヒロイン役とは思わずに観ていたのが良かったのかもしれません。
投稿者 元店主 : 2014年11月02日 01:55
そういえばオーソンはホラー映画ファンだったね。
で、そんなオーソン的には、この映画、恐かった?・・・っていうか、そもそもホラー映画ファンの人って、ホラー映画が恐いの?
あと、私には、若草さくら(舞羽美海)の内面に狂気が宿っている様には見えなかったんだけど・・・どこら辺りでオーソンはそう感じたのかな?
いや、私の“読み”では、若草さくらに狂気が宿ってないといけない訳。でも、私にはそれが感じられなかったので、そこらに不満があった故、オーソンがそう思ったのなら、それは是非きいてみたい。どこらへん?
投稿者 オーソン : 2014年11月03日 00:45
最初のほうの、本棚を物色してるシーンで一癖あるなこのキャラは、と思いました。
許可なく他人の本棚を探るのは駄目です!しかも初対面ですよ!この映画で本棚を探るのは他にはアクの強い家政婦さんだけなんですから。楳図先生も部屋を勝手に触られるの嫌がってましたし。
あと、楳図先生のことが好きだという以外の人間的な要素が全く感じられなかったのが、逆に不気味でした。主役級の役なのに、全然存在感が感じられなかったですから。まあ、演技力がないというだけなのかもしれないですけど。
それと、ちゃんと編集長の許可とって、山奥まで取材にきてるの?大丈夫?とかそんなこと考えてました。
ホラー映画好きもホラー映画は怖いですよ。たまに眠れなくなったりします(汗)。でも、観てしまいます…
投稿者 元店主 : 2014年11月03日 01:34
ふーむ、なるほど。
でも、まぁ、確かに勝手に他人の本棚を探るのはよくないけど、ファンならやりかねん、と思うけどなぁ。そこまで突飛な行動とも思えないんだけど・・・にしても、
>楳図先生のことが好きだという以外の人間的な要素が全く感じられなかった
というのは、感じられなさすぎじゃない?そこまで???
・・・いや、しかし、考えてみれば、オーソンは若草さくらがちゃんと編集長から取材許可をとってるのかどうかという事まで心配してるぐらいだから・・・気になるんだね、彼女の事が。もしかして好きなのか。そうか、オーソンの好みのタイプか・・・。すまん、彼女の事を貶したりして。
投稿者 オーソン : 2014年11月04日 11:46
そうか、好きだったんですね…全然気がつかなかったです。今後とも、彼女の事を見守っていきたいと思います。
…いやいや、そんなことは意識上ではないはずなので(汗)
この女優さん、宝塚の女役だった人みたいですね。すごい受身な存在だなあと思っていたので、なんだか納得しました。
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