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2012年10月23日(Tue)

「アシュラ」 強制起訴シリーズ

起訴者:マツヤマ

強制起訴シリーズ22弾
「アシュラ」
さとうけいいち監督

「人肉食」という現代社会における最大のタブーを描いたということで、1970年に第一話の掲載誌「週刊少年マガジン」が有害図書に指定され、未成年を対称に発禁処分になったというジョージ秋山原作の漫画をアニメ化。日本全土を洪水と旱魃(かんばつ)が交互に襲いかかった15世紀の半ば、飢えが極限に達し発狂した母親に食われかけながらも生き長らえ、ケダモノのように育った少年アシュラが、法師の教えや、若狭(わかさ)という女性の母性に触れ、次第に人間性が備わっていく様が描かれる。

ヤマネ
けっこう楽しめましたね。強制起訴されなければ自分では観に行かない、というか残酷そうだったから絶対に観たくないタイプの映画でしたが、作品としては意外と良く出来てると思いました。
元店主
私もそれなりに面白いと思ったよ。でも自分のなかでアニメというものの位置づけができてないから、映画としてどう?って言われると、ちょっと難しい所かなあ・・・
マツヤマ
あ、そう。2人ともまあまあってことね? オレはかなり良かったよ。アニメは好きじゃないけど、いわゆるジブリ系みたいなキレイごとで済まさずに、究極的な問題を提起してると思うし、アニメの部分にあまり興味がないだけにメッセージが直接伝わった感じだね。
元店主
そうですか。私は子供のときにジョージ秋山の漫画をいくつか読んでいて、人間の負の面を容赦なく描いていくというイメージが強烈に焼き付いているから、それに較べるとちょっと生温いかな、なんて思ったんですが。
マツヤマ
でもこれ“R指定”が付いてないから、誰でも観られるんだよ。幼児でも。
元店主
なるほど、そう考えると、まあ十分なのかもしれないけど、そうなるとやっぱりアニメは子供の観るもの、という位置づけになってしまうなあ。
マツヤマ
ヤマネくんはアニメファンの立場から観てどうだったの?
ヤマネ
ちょ、ちょっと待ってください! ボクがいつアニメファンだって言いました?
マツヤマ
確かにそう聞いたわけじゃないけど、なんとなくそんなイメージが・・・
元店主
でもヤマネくんは宮崎駿ファンだよね? 以前、ヤマネくんとババさんから「千と千尋の神隠し」を猛烈にプッシュされて観に行った、というか観させられたという方が正しいかなアレは。でも主人公の女の子が、特に努力も葛藤もないままに周りに助けられたり、自分の強い想いが通じちゃったりして、物事が全て良い方向に収まる、という世界観がどうにも気持ち悪くてねえ。他にも何本か観たけど、絵も含めて未だに良さが分からないままだよ。
ヤマネ
ああそうでしたかー。それは残念ですね。っていうか、ハッキリ言いますが、ボクはアニメファンでも、ジブリファンでもないですからネ! でも、あえて言いますが、特に最近のCGではなくアニメーターに力量を負っていた時代は、立体を二次元で表現するのってけっこう当たり外れが多かったんですよね。そんな中で宮崎駿の頭の中の立体モデル能力はずば抜けてたんですよ。建築の仕事をしている人間からすると、そういう手書き能力を見るだけですごく感動するし、気持ちいいんですよ。いろんな角度から見せるカメラアングルや、実写では出せないスピード感が嘘くさくともカッコいいと思ってしまう。「千と千尋〜」にしてもそういう部分があるからケンタロウさんにも伝わるかな、って思ってたんですが・・・
元店主
それはやはり建築家やグラフィック・デザイナーの特化した見方だよ。私の場合、そっちの方は素人だから映像表現だけで評価することは出来ないんだよね。でもヤマネくんは宮崎作品のお話自体も好きだったりするわけだよね?
ヤマネ
いや、ぜんぜんですよ。特にジブリ作品は子供向けですからね。ただ表現技術として大人が感嘆するレベルのものが多々あったということです。最近のジブリ作品にはそういうのないですけどね。でも「未来世紀コナン」とかは子供の頃好きだったな。マツヤマさんも「カリオストロの城」とかだったらOKでしょ?
マツヤマ
ノー、ノー! あれこそ最悪だったよ。うろ覚えだけど、最後にお嬢様だかお姫様だかと一緒にいるおじさんが、ルパン一味と銭形らの追っかけっこを見て「なんて心のキレイな人たち」みたいなこと言うよね? でもあれセリフにしちゃったら野暮でしょ。それ言うなー!やめてー!って思っちゃうよ。「心がキレイね」とか「目がキレイね」とか、ああ、あの人はルパンたちに好感持ってるな・・・とかはその作品を観る人がそれぞれ心の中で思うことだと思う。実写の場合はそれを演技で見せてくれるわけだけど、やっぱりアニメは心を映すのが無理ってことなんだよ。
ヤマネ
なるほど、確かに細かな表情とかは難しいかもしれませんね。あと、アニメに限らず日本の映画って社会的なテーマやメッセージ性を盛り込まれた作品が少ないけど、「アシュラ」はビジュアル的には今ひとつでしたが、テーマ性を持つ映画作品としていきいきとしているな、と感じました。
元店主
それは私も感じたことで、極限状態で人肉を喰うことはいいことなのか悪いことなのか、自分なら食べるか食べないか、とか、きちんと葛藤を描いていて、観ている我々にも葛藤が生まれるように、普段は見たくないもの、考えたくないことを正面から突きつけてる感じが良いと思うよ。
ヤマネ
そうですね、ジブリ作品なんかは葛藤が一切ないですからね。
元店主
そうなんだよ。最近文庫化された島田裕巳の「映画は父を殺すためにある」の中で「魔女の宅急便」が原作から如何に葛藤の要素を抜き取って映画化がなされているか、が分析されていてとても参考になったよ。「アシュラ」の中で特に私が注目したのは、アシュラを導く法師が「南無阿弥陀仏」を唱え、それをアシュラにも唱えさせる場面で、それが宗教的にどうということではなくて、浄土真宗というものが相対主義に塗れ無責任に微睡むニッポンに唯一突きつけられた絶対主義だったということなんだよ。もちろん今の形骸化された浄土真宗ではなくて、当時の一向宗とか呼ばれてた時代のやつね。
マツヤマ
法師が自分の腕を斧で切り落として「コレを喰え」ってアシュラに差し出したところは、さすがにこっちが身構えちゃったよ。これを保育園児の息子と観に行けるか?というとかなり戸惑ってしまうなあ。かといってジブリみたいなのばかり観せたり、ディズニーランドに連れて行くのはオレの信念に反するし・・・
ヤマネ
でもどちらも一般的には「子供に夢を与えるもの」として認識されてますよね。
マツヤマ
そのようだね。それらに批判的なことを言うとまず驚かれるもんね。「汚れた心」みたいに思われてんだろうか?
元店主
そんなことありませんよ。なんでも無批判に受け入れてしまう方が問題だと思いますよ。ジブリやディズニーランドなんかはもう権威的な存在になってしまっていて、それらに対する反射的従順性や、“願うだけで叶う”というような妄想こそ、典型的な“ニッポン・イデオロギー”だと思います。そんな日本に固有の自己欺瞞的な精神構造が先の敗戦や3.11の人的災害をもたらしたと・・・
マツヤマ
つまりはジブリを無自覚に好きな人にも3.11の責任はある、ってことだよな。語弊はあるかもしれないけど。
ヤマネ
2人ともジブリ破壊しまくりやなー。ところでピクサーとかドリームワークスとかハリウッド系のアニメだったらどうなんですか? ボクはストーリー的には社会的な要素も必ず盛り込んでて大人でも楽しめるように出来てると思うんですが、画的にはあまり感動できるものがなくて、CGがリアルになるほど「もう実写にしたらええやん」と思ってしまうんです。
元店主
私は元々アニメはほとんど観ないのでまったく分からないねー。
マツヤマ
オレも元々アニメは行かなかったんだけど、一昨年くらいから息子と行くようになって、向こうのアニメはけっこう社会問題や権力構造が描かれているから面白いと思ってるよ。でも吹き替えで観てて、エンドロールに声担当のハリウッド豪華キャストがズラッと並んでたりすると、すごーく損した気分になるんだよね。日本語吹き替えは若手のお笑いタレントとか駆出しのアイドルだったりするからなあ。
ヤマネ
向こうでは声優という職業がありませんからね。でも「アシュラ」は声優陣がかなり豪華でしたよね。アシュラの声の野沢雅子もさすが、という感じでした。
マツヤマ
アシュラの声はイメージに合ってたよな。「わかさ」って呼ぶ度に「ブルーベリーアイ」を思い出したけどね。
ヤマネ
それは「わかさ生活」じゃないですか。劇場CMでよく見るから「ドラゴンボール」とか「ど根性ガエル」の声よりも、今は「ブルーベリーアイ」の方が確かに馴染みがありますよね。
マツヤマ
でも宮崎駿に限らず、原恵一なんかも、いちいち「職業声優のアニメ声が嫌い」とか言ってテレビタレント使うのは最低だと思うね。単にハリウッドを真似てるだけだろ!
元店主
そうです、そもそも私はテレビを見ないのでタレントの顔なんか分からないから、宮崎作品をいくつか観て「セリフ下手くそやなぁ」って思うだけですから。それに較べると「アシュラ」は法師の北大路欣也以外はプロの声優さんばかりで、とても自然に感じましたね。画的なところでは背景が実写かCGか分からないけど、やたらキレイなのが気持ち悪かったですが、アシュラのキャラはオリジナルに忠実で変に美化されていないのが良かったですね。
マツヤマ
全編にわたって極度の飢餓状態が描かれてたのも強烈で、人肉を食えるかどうかという以前に、この極限状態を見て、改めて自分の生命力とか生への執着とか考えてしまったね。
ヤマネ
そうですね、今の日本は「絆」とか「子供たちの未来」とか言葉だけが浮遊してて、ほんとのところ命の重さなんてどこでも語られていないような気がしますよね。「アシュラ」の時代の方が明らかに生きることに意識的だったような気がします。
元店主
今の子供は変に大切にされ過ぎているからねえ。アシュラの例は極端だけど、人間は赤ん坊のときはみなケダモノみたいなもので、どうしても他の人の手を借りなければ人間にはなれないということや、人間は生まれながらに罪を背負っているということも描かれていて道徳的な話になってるよね。
マツヤマ
オイシンもオパールと出会って人間っぽくなったからなぁ。
元店主
いや、オイシンは今でもヘラヘラしてて、ある意味、いつでも人を食ったような態度だからまだまだかもしれませんねー。
マツヤマ
それじゃ、オパールと出会う前のオイシンはどんなだったんだよ?
元店主&ヤマネ
・・・・・
マツヤマ
え、えーと、次もオレが起訴者で「アルゴ」いってみようか!
ヤマネ
ベン・アフレックが監督ですね。「ザ・タウン」が良かったから期待しよっ!
元店主
便・溢れっく?
マツヤマ
クサ!
ヤマネ
さいならー!

Comments

投稿者 uno : 2012年10月28日 23:46

この作品のアニメーションは好きではないのですが、全体として良い作品だと思います。

印象に残っているのは、アシュラが地頭の馬を殺して馬肉を飢餓状態の若狭に持って行く場面です。
アシュラの持ってきた馬肉を若狭は人肉だと思い込んでいて拒絶する。
それに対して若狭の父親は人肉と思いながらも馬肉を喰う。
極限状態でも自分の心を強く持った若狭。しかしアシュラを信じてやれない。それはやむを得ないことなのでしょうけど。。。
人間臭いですよね。そこのところが良い意味で引っ掛かっています。
辛いなあ。
力強い作品でした。

投稿者 マツヤマ : 2012年10月30日 19:33

ウノぴょんへ

ものすご〜く慎重だね。
高速道路を40キロで走ってる感じ。
当初のコメントような事故覚悟でぶっ飛ばしてもいいんじゃない?

我々は今回、アニメそのものにも切り込んだつもりだけど、ウノぴょんはその辺はどうなの?
「この作品のアニメーションは好きではない」ということは、どんなアニメーションが好きなの? ジブリは?


投稿者 uno : 2012年11月04日 23:57

マツヤマさん

返事が遅くなりすみません。

「アシュラ」のアニメーションが好きではないというのは、PCを使って描かれたアニメって、画にノイズ(ブレなのかな?)が無くてなんか気持ちが悪いんです。画がヌルっとしてませんか?
それに対してセル画で作られたアニメはノイズで画が動くから躍動感があるように感じます。

ジブリの作品は映画館で見たことがなくて、だいたい金曜ロードショーで見てます。
ザッピングしていて放送に気づくので途中から見るパターン。
ナウシカのエンディングも何度か見ましたが、冒頭はおそらく見たことが無い。。。
そんなレベルです。能動的に見てません。

好きなアニメはワーナーのバックス・バニーやロードランナー。凄く面白い。躍動感と皮肉があり、見るたびに洒落てるなって思います。
そういやジブリの作品には皮肉が無いような。気のせいかな?

投稿者 マツヤマ : 2012年11月13日 10:05

なんだか無難だなぁ。
「新興宗教(K福の〇〇)のアニメもやっぱりこんな感じなんかなあ?」みたいなウノぴょんが実際に言っっていることをコメントにも書いて欲しいんだよね。恐れることはなにもないと思うよ。

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