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2010年11月10日(Wed)

「ナイト & デイ」 []

Text by Matsuyama

トム・クルーズとキャメロン・ディアスの共演といえば「バニラ・スカイ(2001)」以来で、「バニラ・スカイ」といえば「オープン・ユア・アイズ(1997/スペイン)」の忠実なリメイク作品。オリジナルで主人公を地獄へと突き落とすストーカー女を演じたのは「ないわ〜無理」とは絶対に言わせないほど完璧な美貌を誇るナイワ・ニムリというスペインの女優で歌手。それをトム主演のリメイク版では誰が演ったかといえばキャメロンということで、かなりガッカリした御仁も多かったのではないかと思うのは、単なるオレの個人的な好みなのかもしれないが、いずれにしても主演女優はペネロペということが救いだったと思った愚人もやっぱりオレだけかも。

今作で見事トムの本命という役に出世したキャメロンだが、やはりどこかに華が欲しいと思ったら、発見!スペインの武器証人のスパイ、ナオミ役の元ミスイスラエル、ガル・ガドットの登場で、ひとまず満足。
などと、どうでもいいことを書くほどつまらない映画では全然なくて、むしろ今年いちばんの快作と言ってもいいくらいだ(オレが観た映画比)。

ロイ(トム)はCIAを裏切って追われる身。ジューン(キャメ)はいわゆる一般市民。冒頭の空港のシーンでこの2人がイキナリ出会う。そしてこの作品のテーマが示される。「物事には理由がある」と、邦訳になると少々硬いが、そこには「物事、出来事には目的があって裏がある」ということが要約されている。乗員乗客全員がロイを暗殺するためのエージェントで固められた旅客機に、ある陰謀でジューンが乗り合わせることに。能天気なジューンはロイとの奇妙な出会いに運命を感じ、トイレにこもりながらどうやって恋に発展させようかと思いを巡らせている数分の間、客室のロイはエージェントとの格闘を繰り広げ、敵(機長も含め)を殲滅(せんめつ)する。 上映開始まもなくこの展開だから観ているこっちは驚きを通り越して爆笑するしかないのだ。

ジューンが危機に瀕している時には必ず助けに現れ、この先起こるべきことをすべて見通すことができる(裏を知っている故に?)ロイは正にスーパーヒロー。「007」の世界なら毎回一度はボンドが敵に捕まり痛い目に遭わされるのだが、ロイの場合はそれがナイわけではなくて、そういうシーンを実にユニークな方法で省略している。そのありえなさにツッコミを入れる間もなく、ただカッコイイと思ってしまう。

たとえ法を越ても、全てを可能にするというCIAのもつイメージをロイは体現している。いつもニヤけているからこそ無表情。完全無欠で無表情という点で思い出されるのは「コラテラル(2004)」だ。夜のロサンジェルスで一切笑うことのない殺し屋ヴィンセントを演じたのがトム。オレは今作と「コラテラル」の2作品を以て「ナイト&デイ」というタイトルが相応しいと思ったのである。

空港〜機内のシーンに話を戻すと、人間味を欠いているように見えるロイのほうが、実はこの時点でジューンに運命を感じていた。ロイの職務(?)ではない、もうひとつの秘密にジューンが迫ってゆくことでそれは明らかになる。「物事には理由がある」〜人の行動には必ず意味がある。自分のことはそうだとわかっていても、他人のことはよく理解できない。身の周りのことはわかっていても、世の中のことは与えられる情報だけで、それが本当の意味なのかどうかがよくわからない。それがオレも属する一般市民なのであり、その代表が能天気で飲込みの悪い“市民ジューン”なのだ。

しかしジューンがただの能天気ギャルかといえばそうでもなく、終盤、ロイと離れ一般市民へと戻るが、ここからの積極的行動によって俄然脚光を浴びることとなる。
父の形見であるアメリカの名車「ポンティアック GTO」を巧みに操るジューンを見て、そういえば前半に彼女がパニくりながら逆走運転するカーチェイスシーンは単なる御都合主義ではなかったのね、と納得する。そしてGTOを巡る偶然によって正にロイとの出会いが運命だったと感じる。意外と互いに古風な価値観を持ち合わせているのね。その魂は「グラントリノ(クリント・イーストウッド)」から引き継がれたかに思える。

101110.jpg

古き良きアメ車に思いを馳せるのは素敵なことかもしれないが、どうしてもここで一句詠みたくなる。

戦争と ハイウエイの アメ車かな

名句のパクリ疑惑あり…

そんなことはどうでもいいとして、世の中は正にあの機内客室とトイレのようなものだ。もちろんオレたち一般市民がいるのは客室とドアを一枚隔てたトイレの中。トイレの外で実際に何かが起こっているなんてことはわからない。客室側でなんだかドカドカやっていても、ドアを激しくノックされているとしか思えない。一瞬でもドアを開ければ、驚くべき事実がわかるのだが「開けてみよう」という発想がない。市民ジューンがそうだったように、オレたち一般人は何も知らないのかもしれないし、知ろうとしていないのかもしれないけど、最近ドアは少し開いているような気もする。

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