「インビクタス/負けざる者たち」 []
“ラグビーの映画”ということで、スポーツ音痴のオレは、長年にわたりラグビーを観続けてきたという、ある女性のお客さんから具体的なルールを教えてもらってこれを観に行った。彼女は当然1995年のワールドカップも深く心に刻まれていると言う。
この映画を観ていて、まず思ったのは短いカットの連続だということ。このテンポは正にラグビーのゲームそのものだ。それにしても、事実とはいえ何ともスポ根マンガじみたドラマだと思った。まぁ現実にあったというんだからそうなんだろうけど、ラグビーやサッカーのWCにしても近代オリンピックにしても、スポーツイベントが政治的に利用されているのに違いないのだから、やっぱり怪しさを感じるので得意のネットサーフィンをしてみると、なんとあの決勝の2日前に相手であるニュージーランドチームの半数以上が食中毒にかかっていたという情報がみつかった。「スージーと名乗るホテルの給仕係がいた(スージー事件)」と複数の選手が証言したというが、ホテル側は「そんな女は存在しない」と否定しているというそうだから未だ謎のままだ。事実としてハッキリしているのは「相手選手のホテルの部屋から盗聴器が発見された」ということだそうだ。来年はラグビーWCニュージーランド大会だというから、なんだかおもしろそうだ。ただ肝心なのはクリント・イーストウッド自身がそんな事実(噂話)を知っていようがいまいが、この映画を制作するにあたってはどうでもよかったことなんだろう。
さて、オレがラグビーのルールを初めて知ったときに、ラグビーというものは実に政治的なスポーツだと思った(というかスポーツそのものが政治的?)。
劇中で南ア代表選手が黒人の子供たちに「パスは前にしてはならない、横か後ろだけ」だとラグビーの初歩的なルールを教えるシーンがある。しかし唯一の黒人の代表選手チェスター・ウィリアムスをヒーローとして崇める子供たちがそれを知らないのは不自然だと思うのだが、それをあえて言わせる必要があったのだろう。
大統領が黒人になれば、それまでの経緯からして政策を黒人主導にすることだって出来るはずだ。でもあえてそうしないし、無理に出来ないことが政(まつりごと)なのでありラグビーのルールのようでもあるのだ。
ネルソン・マンデラ大統領が主将のフランソワ・ピナールをお茶に招いたとき、チームへの世間からの風当たりが強いのに対し労いの言葉をかけると、フランソワは「大統領のお仕事もいっしょです」と言う。マンデラは「私はタックルまではされない(からアンタよりマシ)」と返すが、ここではフランソワの言った言葉がもっとも意味深い。この映画は政治とラグビーがそれぞれアレゴリーとしてはたらいている故に、ラグビーのゲームのようなテンポであり、面白さでもあるのだと思うのだ。
例えば「アフリカーナー」という言葉を具体的に説明してはいないが、ラグビーを観戦している“白人”にはマンデラ大統領にブーイングを浴びせている者もいるし、敬意を表している者もいる。金とダイヤなどの利権を保持するイギリス系、政治面での主導的立場にあるアフリカーナー(オランダ系)の複雑な対立関係がなんとなく伺える。どっちにしても一般の黒人は蚊帳の外だ。
そしてこれは日本とは地理的にも文化的にも経済的にもまったく違う国のお話だと思って観ていたら大間違いだ。
日本という国は経済的にも文化的にも“先進国”といわれるが、戦後60年以上ずう〜っとアメリカの植民地同然だった。東京地検特捜部にしてもGHQが作らせたもので今でもCIAの一部署として存在しているのが事実であり、マスコミや旧政権与党も一蓮托生だ。「じゃぁ新政権の背後には何もないのか」と言われたら、それはオレにはわからない。だけど、ここ最近でパスをアカラサマに前に出しても国民からペナルティがとられなかったのは小泉・竹中政権だけだったように思う。誰かが国民主導の政治をやろうとしても当の国民がマスコミの洗脳から脱しない限りそれは叶わないのである。「政治とカネ」で騒ぐならば今まで政権がコロコロ替わっていてもおかしくなかったはずだ。
さらに余談ではあるが、このワールドカップがあった1995年、日本では阪神・淡路大震災〜一連のオウム事件がマスコミを席巻していたとき、イギリスの象徴とも言える老舗の投資銀行「ベアリングズ」が破綻した年でもあった。キッカケは阪神・淡路大震災による日経平均の大暴落(陰謀論ではなく事実)。ユアン・マクレガー主演の「マネートレーダー/銀行崩壊(1998)」がそれだ。このときイギリス政府は金を大量に放出したという。さらに同年ロックフェラー・センターにあった大和銀行ニューヨーク支店の1社員トレーダーが1,000億円もの損失を与えたことによって大和銀行は破綻した。後に小泉・竹中によって“実質国営(私物化?)”となったりそな銀行の前身である。
すっかり話はそれてしまったが、政治的な動きを見ると南アをBRICs新興国に加えようという動きがあるという。北京やリオで(冬はロシアでも)オリンピックが開催されるというのも政治であり、南アのサッカーWCもそういった流れなんだと思う。だから「インビクタス」も南アに世界の注目を集めるために一役買ったのかもしれない。とくに“裏がある”という意味ではないが。
…にしても、このあまりの紋切型の展開は“イーストウッド作品”というよりは、モーガン・フリーマンが名誉役を演じた生涯の代表作をイーストウッドがプレゼントした、と見た方がいいのかもしれない。
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