「蟹工船」 [★★]
80年前の古典文学が昨年(2008年)の上半期で40万部が増刷されたといいます。では、売れる本というのは面白いから売れるのか? というと、まぁそういうこともあるでしょうが、いちばん確実なのは「売れている」ということが最大の宣伝になっているようです。
さて、「蟹工船」で描かれる労働者と現代の派遣労働者がシンクロされて語られますが、今の日本はひとたび社会の底辺に落ちてしまえば二度と這い上がれない、そんな世の中です。元首相Kが求心力を失った昨今、首絞め趣味による殺人疑惑が噂されていますが、そのドエスによる痛みを伴う構造改革とやらで作られた格差間の壁は非常にブ厚いものです。残された希望の光は「政権交代」それのみです。
映画の話をします。
私はSABU監督の作品を初めて観たのですが「へぇ、これがSABU作品なのか」って思ってしまっても良いのですかねぇ。「これドリフ?」って思うところが多々ありました(というかほとんど)が、ご本人はちゃんと編集後のチェックをしたのでしょうか?
とにかくこの作品は映像とセリフによる説明がやたら多すぎて、実際のリアルさというのがまったく伝わってこなかったのです。おそらく誰もが思うことでしょうが、何でも映像にすればいいってもんじゃないし、言葉にしたからって伝わるってもんじゃない。極寒のカムチャッカ沖でいくら「寒い寒い」と言ったって、その寒さがまったくつたわって来ず、むしろ温かくさえ思ってしまうのでした。劣悪な環境や際限のない重労働も、役者の発するセリフと演技だけではスクリーン全体からはやはり何も伝わってこないのでした。非常に怪しい中国人(手塚とおる・何故かルイ・ヴィトンみたいなセーター着ている)の胡散臭い説教もぜんぜんいらないアルよ。
そもそも何故私がこれを観に行こうと思ったかというと、私が贔屓にしている俳優、西島秀俊が出演しているからです。それだけです。
さて「自分の頭で考えろ!」というメッセージによって労働者たちは立ち上がるのですが、この作品は何もかもセリフと映像で説明し尽くして、観客に考える力を与えてくれませんでした。すべて説明し尽くす中で、まったく語られないのが西島演ずるところの鬼監督・浅川のエピソードです。目と片足に負った傷も単なる演出かと思いましたが、暴力によって過酷な労働を強いながら「人間の体力の限界は俺の方がよく知っている」というセリフと、労働者のリーダー新庄(松田龍平)が「歯車は俺たちだけではなくオマエたちもだ〜」と言おうとした言葉を封じたことで、浅川という男が如何に過酷な人生を歩んで来たかが何気に想像できるのでした。やっぱり西島秀俊はいいですねぇ。冷たい背中を演じさせれば右に出る者はいないでしょう。1800円払いましたからねぇ。けなしてばかりはいられません。この作品に残された光は「西島秀俊」それのみです。
Comments
投稿者 さえこ : 2009年07月22日 09:14
はじめまして。
蟹工船観ました。
松田龍平が全然働いてない様子なのが気になりました。
投稿者 マツヤマ : 2009年07月28日 23:53
サエコ様
コメントありがとうございます
松田龍平をはじめ、いい若手の役者さんがたくさん出ていたんですが、すごくもったいない使われ方だと思いました。役者みんなで蜂起すべきですね。
投稿者 とみ : 2009年10月28日 14:16
はじめまして。
わたしも見ました。
私も西島秀俊目当てだったのですが、
SABU監督の作品を久々にみることも楽しみにしてました。
しかし、同感です。
イマイチ話に入り込むことなく見終わってしまいました。
西島さんを楽しむのみとなりました。
SABU監督の作品では
「アンラッキーモンキー」などの頃の作品をオススメします。
投稿者 マツヤマ : 2009年11月06日 01:24
とみ様
はじめまして
観終わってしばらく経つと、いや、けっこう面白かったかも?ということもやはり無いですね。
とにかくSABU監督を誤解しないようにオススメの作品を観ようと思います。
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