「ポチの告白」 [☆☆☆☆★★]
上映時間が3時間15分だったので、こちらも少々長くなります。1部・2部と分けますから、もし読んでくださるのなら1部だけでも充分かと思います。
これから観に行かれる予定の方は事前情報なしで行かれることをお勧めします。
1部
真面目な交番勤務の警察官タケハチこと武田八生(菅田俊)は、その純真さが買われ、刑事課長の三枝(出光元)から同課に抜擢されます。疑問を抱きつつも上司の命令に従い、自然と組織ぐるみの犯罪に手を染めることに躊躇しなくなるまでに5年とかからず、自分がトカゲの尻尾であったことに気付いたときには遅過ぎました。
「何をやっても大丈夫だからって部長や署長に言われたんだ。全国警察官27万のポチの、オレなんかそのたった一匹なんだ」
すべての罪を被らされ、被告人として裁判を受ける身になっても発言する時間を与えてもらえず、自分が権力のポチであったことを独房で告白します。聞く者は誰もいません。
「私は貝になりたい」でフランキー堺が死刑を宣告されたときの心の中の告白とよく似たラストですが、こちらは現代のお話、実話を元にした私たちの身近にいる警察官のお話です。
監督の高橋玄は言います。
「僕は反権力ですけど、活動家ではありません。反権力の映画ばかり作っているわけでもない。でも、映画は反権力のほうがおもしろいに決まっていますし、そういう映画をつくり続けていけたらと思います」
数多ある警察の不祥事、組織ぐるみの凶悪犯罪のごく一部の事実を列挙していますが、あくまでも娯楽映画として、日本映画ではかつてなかったほどの非常にハイレベルな告発映画に仕上がっていると思います。
俳優陣をみると少し“Vシネ”っぽいな(今まであまりにもゴールデンタイムのような日本映画ばかり観ていたんだなぁ)、なんて思ったりもしたのですが、実は実は実力派揃いで、どちらかというとATG作品に近いノリかもしれません。
さて、タケハチが堕落してゆくのとは逆に、スナック店長で、チンピラまがいのトップ屋から市民の告発者へと成長?してゆく草間(川本淳市)と、“堕落した新聞社”のカメラマンを辞め、草間の相棒となる北村(井田國彦)が観客の目となり、警察の悪事を暴いてゆきます。
市民告発者である草間と北村のコンビだけを見ると、わりと平凡なサスペンスドラマの主人公なのですが、本来の主人公タケハチを中心に描かれる警察の実態の方が、事実だとしたらあまりにも映画じみている、警察が正義だと思っている人には、あまりにも現実離れしていることで、その平凡さが際立つことなくバランスが保たれます。そして「事実は小説よりも…」をしっかりと体現しています。
タケハチと草間の人生がすれ違うとき、この作品は大きな転換点を迎えるかのように見えます。がしかし、何度か後戻りできるチャンスを逃してきたタケハチがそこで草間と手を組み、妻と幼い娘に恥じない人生を送ろうと、草間の勧め通りに内部告発者となるのが通常のドラマなのですが、悲しくもこの作品はそんなドラマ的セオリーを壊しながら進んでゆきます。
そして、もう一人重要な役どころはタケハチの後輩刑事で、課長の側近(身内)の山崎(野村宏伸)です。元々在日韓国人であった山崎は、その被差別意識を利用され、課長の尽力で帰化“させてもらった”(そこまでは具体的には語られませんが)ため、課長にその秘密を掌握されていることによって、いつしか良心と感情を捨ててしまったというような悲しい役どころです。
山崎という存在が映画としてのドラマ性をより高めているのですが、これも実はリアルな話なのではないかと思ったのでした。
野村宏伸が意外(失礼)にも、なかなかの好演、というかすごくいい俳優になったなぁ、なんて思ったりもしました。
三枝課長はしたたかな人間です。山崎もまた、ただのポチであり、韓国人マフィアや在日系との橋渡し役としての利用価値でしか見ていないのです。
山崎は暴力団を雇って草間を襲わせたり、交番勤務の巡査長をシャブ漬けにして、いつでも捨て駒として使えるよう確保しておくという冷酷非道な行為に手を染めます。
常に彼は缶入りの“韓国製のど飴”を手放しません。在日韓国人としてのアイデンティティーをその缶の中に、警察官としての良心を一粒の飴の中に閉じ込めているようにも見えます。
切られたトカゲの尻尾となったタケハチが、自分と寸分も変わらないということを知ったとき、缶の中身は空になっていました。
「警察という組織は日本最大の暴力団です」
一方、すっかり真っ当な市民告発者となった草間(チンピラ時代の方がカッコよかった)と北村は、日本外国特派員協会で記者会見を開き、警察と日本のマスコミを痛烈に批判します。
「ジャーナリストというカタカナ英語は我国では「飼犬・腰抜け」という意味です。国民の一人一人は自分の首に繋がれた鎖をいったい誰が握っているのかわかっていません」
物語の中で、記者クラブに集まるテレビ・新聞の記者たちが、まるで犬が飼主から餌でももらうようにキャンキャンと警察の広報担当から情報をもらう場面は「飼犬・腰抜け」がリアルに伝わってきます。記者たちは警察に気に入られれば、情報に少し色を付けてもらえるため、独自の聞き込み調査をして、警察情報以外の記事を書くなど、嫌われるようなことはしないのだといいます。
私の知人で、ある地方紙の事件記者もそれは事実だと。記者クラブか刑事の自宅前に張込む(「夜討ち朝駆け」というらしい)こと意外はしないと言います。
NHKは違うとか朝日新聞は反権力だとか、未だにそう思っている人も多いようですが、どこもすべて目クソ鼻クソだということです。
では、権力のポチである警察から餌をもらう、すなわちポチのポチであるマスコミの情報を鵜呑みにする国民はいったい…。
「国民のみなさんはバカですから、警察が麻薬取引で儲けているなんて、映画かマンガの世界だと思っています」
独房でのタケハチの告白は誰にも届いていませんが、私たち観客はみな聞いています。
それでは私たち国民はどうしたらいいのか?
私たちは何でもマスコミから情報を与えられて来ました。食べ物に行列を作り、流行だからといって似合わない服を着て、政治家が逮捕されれば批判し、テレビが褒めれば共にそう思い、善悪の判断をテレビ・新聞に委ねてきました。
私たち国民はどうしたらいいのか?
そういう考えに対して「国民のみなさんはバカ」だと、この映画は批判しているのだと、私は思います。
2部
以下、劇場で購入した「ポチの告白」の関連本「報道されない警察とマスコミの腐敗」も参考・引用しております。
さて、近年、週刊誌報道によって、それが明るみに出るまで、拳銃の押収量にノルマが課せられることから、警察が暴力団や外国人マフィアと組んで“拳銃ヤラセ摘発”を仕組むということが横行していました。刑事ドラマや映画で描かれる潜入捜査が、現実の世界で は偽名を語った警官が覚せい剤、麻薬、拳銃の密輸や取引きを裏で操っていたということが実際に横行していたのです。
兵庫県警による「サダユット(タイの貨物船の乗組員の名前)事件」、北海道警の「小樽事件・稲葉事件」など他にも全国的に類似事件が多数ありますが、ここで描かれるタケハチは、とりわけ、その小樽事件・稲葉事件の“首謀者とされる”稲葉圭昭警部とよく似ているようです。覚せい剤の密輸をわざと見逃し、次に拳銃密輸を依頼しながらも、摘発したというヤラセ捜査の陰で覚せい剤売買をして、自宅に複数の拳銃を隠し持っていたという稲葉の逮捕後、彼の協力者と直属の上司は謎の自殺を遂げています。かたくなに口を閉ざしていた稲葉は第3回公判で「組織ぐるみ」だったと明かしたそうですが、個人の犯行として判決が下ったといいます。「組織ぐるみ」とは直属の上司と協力者の3人という意味ではなく「警察署ぐるみ」ということだったのだと思います。それは後に裁判所ぐるみとなりますが。
では何故、覚せい剤の取引を見逃してまで、拳銃ヤラセ摘発をするのか? というと、拳銃一丁の摘発につき、警察庁から50万円のバックがあるからだといいます。100丁だと5千万円です。それが署の裏ガネとなるわけです。
拳銃、覚せい剤というと、一般市民の生活とは関わりのないことで、とりあえずは安全な生活が守られたらいいなんて思ったらそれもちょっと甘いようです。
警戒だ調査だと、制服警官が自宅を訪問して来ることがありますが、例えば一人暮らしの女性宅を訪ねたとき、戸締まりが甘いとか、尻が軽そうだとか、毎日交番の前を通る女性は何処にすんでいるのかとか、そういうことの調査だという可能性がまったくないとは言えますか?
警察官によるレイプ、ストーカー被害、下着ドロボーなどのニュースを何度も耳にしたことがあります。これらのニュースでは「元警察官」と報道されますが、逮捕時は「元」でも犯行時は「現職」ということがほとんどのようです。
「報道されない警察とマスコミの腐敗」にこのような記述があります。
ー 留置係で女性警察官の宿直が導入された際、宿直室に男性警察官が集団で押し込み、女性警察官をレイプする事件が横行したそうです ー
けっきょくその事件は宿直室に鍵を付けるということで“解決”したそうです。
交番の前に立って「今日も何事もなく平和な一日であるように」なんて1%も思っているはずがないのです。
「ポチの告白」でも描かれているように、わざと鍵のかかっていない自転車を見えるところに放置して、自転車ドロボーを釣るような暇つぶしは、普通にありえるといいます。
何よりも点数稼ぎ第一。点数とは検挙者数ですから、警察にとって平和であっては困るのです。
最後に、これはK泉・T中構造改革の真相を調べていた人達が起こした事件で、私が怪しいと思っているものの一部を記載します。
事件性の有無の判断、逮捕などで警察官が関わった事件です。ってあたりまえですが…。
- 石井 誠:
- 読売新聞政治部記者。郵政問題の記事を書いていた。自宅マンション玄関内で変死体を同居する母親が発見。(一人での)SM趣味が発展した事故死と処理された。
- 鈴木啓一:
- 朝日新聞記者。次期天声人語執筆者と目されていたベテラン記者。りそな問題を記事にしたその夜、東京湾に死体で浮いているところを発見される。入水自殺として処理される。
- 平田聡:
- 公認会計士。りそな銀行を監査中に自宅マンションから転落死。自殺として処理される。
- 太田光紀:
- 国税調査官。りそなの脱税問題を調査中に手鏡で女性のスカートの中を覗き逮捕。容疑を否認。
- 植草一秀:
- 経済学者。2004年4月8日、りそな問題を本として出版しようとする矢先に手鏡で 女性のスカートを覗き逮捕。被害者不明。2006年9月13日、電車内で痴漢逮捕。容疑を否認。
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