2008年 映画鼎談 その2 [ベストテン]
- ヤマネ
- 一本も面白い映画がなかったなんて……。昨年は結構、面白い映画があったと思うんだけどなー。だいたい、何本ぐらい観たんですか、去年?
- オガケン
- えーと、8本。……ははは、そもそもベスト10も選べない。ここ20年ぐらいで最低の数だな
- ヤマネ
- ボクは20本くらい。……ボクもこんなに少なかったのは初めてかも
- マツヤマ
- ボクは60本くらいかな。ボクの場合、こんなに劇場に通ったのは初めてかも
- オガケン
- ババさんの年間300本、という驚異的な数字がなつかしいですね。でも……、前はババさんとヤマネくんの趣味が似ていて、さらに基本的にこの二人に勧められたものを私が観ていたもんだから、3人の選出がどうしても似通ってしまっていた所があったんだけど、今回は見事にばらけてますね。これもまた、面白いかも
- ヤマネ
- とりあえずー、無理矢理でも一本選ぶとしたら、なんなんですか?
- オガケン
- うう〜ん、……一本なら……、金比羅歌舞伎における海老蔵の『暫』かな
- ヤマネ
- なるほどー……って、それ、映画と違いますやん!!
- オガケン
- ははは、ごめんごめん、……うーん、まー、『ダークナイト』かな
- ヤマネ
- ジャジャーン!では、2008年オパールの年間ベスト1は『ダークナイト』で決まり!!!
- オガケン
- ははは、ま、今年はオパール共通のベストは選ばなくていいんじゃない
- ヤマネ
- ちぇ!つまんないの……。で、ケンタロウさんは『ダークナイト』のどこらへんが面白かったんですか?
- オガケン
- そうだねー、……これはマツヤマさんもレビューで鋭く指摘していたけど、バットマンって、ロックフェラーみたいな存在なんだよね。莫大な資金力にものをいわせて、法を超えた権力を行使する、という。そら、バットマンは正義の味方だけど、ロックフェラーだって、自分では自分の事を正義の味方と思ってるかもしれないしね。そこらへんは、昨年邦訳された『ロックフェラー自伝』を読めばある程度分かると思うけど。……だからこそ、映画の中でもバットマンは結構批判されてたでしょう。選挙で選ばれた訳でもない人間が権力を行使するのは民主主義の否定だ!とね。確かにそれはその通りで、バットマンは民主主義を否定する存在なんだよ。で、この映画は、そのバットマン(ロックフェラー)を如何に肯定するか、という映画なんだけど、そのやり方は、ハービー・デントという人間を使って"民主主義の英雄"という伝説を捏ち上げ、自らは”ダークナイト(闇の騎士)”として、本当は凄くいい奴なんだけど敢て悪役をひきうけるよー、という風に位置づける、というものなんだなー。つまり、民主主義だけでは世の中はやっていけない、だから自分の様な絶大なパワーを持った人間は民主主義を超えた行動をとる事によって、世の中の秩序を守る。が、世間の人はそんな行為を許さないだろうから、“民主主義の英雄”というお話を捏ち上げ、プロパガンダして、世間の人たちを安心させ、自分は敢て悪役となるよ、と。これはロックフェラーの本音だろうなー。だからこの映画は……ロックフェラー擁護の映画か?監督のクリストファー・ノーランはロックフェラーの手先か???
- ヤマネ
- ヒース・レジャーはどうでした?
- オガケン
- 良かったよね。彼、ジョーカーがなんであんなに執拗に悪事を重ねるのか。お金が目的ではない、というのははっきりしてる。その真の理由は……バットマンの正体を暴くことなんだ
- ヤマネ
- あれ?確かに最初はバットマンの正体を暴く様な脅迫をしかけましたけど、途中で気が変わったとか言って、バットマンの正体を暴こうとした弁護士を殺そうとしたじゃないですか
- オガケン
- いや、あそこでジョーカーはさらに深く踏み込んだんだよ。単にバットマンが誰か、という事が分かっても大した事はない。バットマンが真にどのような人間なのか、という事を世間に示さなければならない、と考えたんだ。つまり、バットマンは民主主義の否定であり、真に邪悪な存在である、という事を示そうとしたんだな。ジョーカーが言ってるのはただひとつ。オレとお前(バットマン)は似た者同士。つまりお前は邪悪の塊だ、という事。それを身を以て示そうとしたからこそ……ヒース・レジャーは殺されたんだよ(ロックフェラーに)!
- ヤマネ
- ははは、映画と現実がゴッチャになってますよ!
- オガケン
- んー、今年は私の好きな”暴き系映画”がねー、『ナショナルトレジャー2』とか『イーグルアイ』(=「グーグルアイ」?)とか、あるにはあったんだけど、どうにも弱くて……
- ヤマネ
- でもケンタロウさん、日記で『ハプニング』のレビュー書いてたじゃないですか
- オガケン
- まあ一応シャマランの作品はいつも注目してるからね。定点観測みたいなものだよ
- マツヤマ
- そうそうボジョレ・ヌーボーみたいなもんだから
- ヤマネ
- それってダメってこと???
- マツヤマ
- でも当たれば大きいからね、そこを見逃したくないですよね、ケンタロウさん!
- オガケン
- ま、『ブラインドネス』よりは面白かったですね。似たような話だと思うんだけど
- マツヤマ
- それはいいとして、ケンタロウさん、今年もなかなか強力な"暴き系映画"はありましたよ。なんといっても……『スピードレーサー』でしょう!
- オガケン
- ガーン!観てない……
- マツヤマ
- それは残念!DVD出てますから是非観てくださいよ
- ヤマネ
- えーっ、マツヤマさんこれ絶対劇場で観なきゃ意味ないって言ってたじゃないですか!だからボクは絶対にDVDで観ないって決めたんですから!ぷんぷん!
- マツヤマ
- それじゃ一生観られないよ……。わかりました、ボクが悪かった。DVDでもいいです!観てちょうだい!
- オガケン
- それでマツヤマさんの“暴き=深読み”はどうなんですか?
- マツヤマ
- お待たせしました。あれはですね、単に日本のアニメ『マッハGoGoGo』をリスペクトしたリメイク作品ではないということです。なんたってウォシャウスキー兄弟ですからね、政治的に観て然るべきです。あそこで描かれている国や企業は架空のものですが、わかりやすいのは主人公の家族"レーサー一家(レーサーっていう苗字)"を奪い合うのがアメリカと中国だということです。韓流スターが出てるからって韓国は関係ないですよ。で、"レーサー一家"が日本なんですよ。優れた技術力を持った日本は国として自立すべきだ、もうすぐ経済的崩壊を迎えるアメリカにも、次なる大国中国にも従うべきではない、ということを描いているんじゃないかな。アメリカ(らしき国の企業)と手を結ぶ日本人(らしき)真田広之は、最後アメリカ(らしき)が負けたときに損害を被ったはずが、なぜかニヤリと笑うんです。苦笑いではなくて"レーサー一家(日本)"が勝ったことを喜んでいるように見えたんです。真田広之はカッコいいですよー、渡辺謙よりもハリウッド・スターだと思ったネ
- オガケン
- そうですか、それで1位なんですね?
- マツヤマ
- いやいや、それだけではないんです。『イントゥ・ザ・ワイルド』でも主演していたスピード・レーサー(これが氏名です)役のエミール・ハーシュってアラブ人みたいな名前の俳優がすごくイイんですよ。ハリウッドに対しても冷めた目で見ているしね、有望株の若手俳優です。あと『アクロス・ザ・ユニバース』と『ハリウッドをぶっつぶせ』のジム・スタージェスもよかったですね。前者がディカプリオなら後者はトム・クルーズって感じです
- ヤマネ
- なるほど。ボクはマツヤマさんのせいで『スピード・レーサー』はまだ観れてないんですが、「デス・レース」は観ました。予告なんかの断片的な映像を見ると『デス・レース』と『スピード・レーサー』は、マリオカートとF-ZEROなんですよねー。個人的には、マリオカートの方が沢山遊んだし、じゃあ「デス・レース」でも見に行くか、って軽い気持ちでいったら、極悪なカート映画だった。ショック。……ワリオ・カート?
- マツヤマ
- タイトルからわかるだろ、普通。でも、ボクはその辺のネタには弱いなぁ。ゲームのこともぜんぜん知らないしね。
- ヤマネ
- コースの一部を通過すると、アイテムが使用出来るようになって、ライバル車を妨害したり攻撃したりできるのがマリオカートでーす。F-ZEROは、未来のレースゲームで、コースが宇宙空間とかに張り巡らされていたり、車体が浮いていてすべるように進むのです。いやあ、任天堂の影響力は凄いなあー。
- マツヤマ
- 凄いといえば、ジェイソン・ステイサムの体は凄いな
- ヤマネ
- や、顔も演技もマジで渋いですよ。出演しているだけで嬉しくなる俳優です!来年の注目の若手俳優一押しはジェイソン・ステイサムで決まり!
- マツヤマ
- ……ぜんぜん若手じゃないよ。「ロック・ストック&……」や、「トランスポーター」なんかで既に十分有名だしね
- オガケン
- その人、知らない……。他に何に出てるの?
- ヤマネ
- そうですねー……「ローグ・アサシン」なんか最高だったですけど!!! ジェット・リーと競演したりして。めちゃくちゃ下手糞な日本語しゃべったりして、セガールの位置も狙っているとみたァ!!
- オガケン
- 観てないなー、その映画
- ヤマネ
- 普通、年間50本以下ぐらいの人は見てないですよ〜ん、多分。それはそうと、ジェイソン・ステイサムはまだ36歳なんです! やっぱりおかしい、若手としか言いようがなーい!
- マツヤマ
- 話がそれたけど、ゲームとかのネタを知らなくても、その二本は面白かったよ。他にも『ウォーリー』なんかはそういう隠れネタが豊富だったでしょ?マックの起動音があったりして
- ヤマネ
- イヤイヤ、マツヤマさん、あれはマックとは限りません。windowsマシンを暗示しているんじゃないですか。
- マツヤマ
- えーっ!でもiPodも出てくるし、スティーブ・ジョブスはディズニーの役員でアップル社のCEOだから……
- ヤマネ
- もちろん、ウォーリーをクラシックとみることも出来ます。エヘン。でもボクの読みによると、97年にビル・ゲイツと手を結んだことを描いているんですよー。以前は、Windows95は、MacのGUI構成を盗んだりしたわけで、MSとアップルは犬猿の仲だったですよね。でも、ジョブズのアップル復帰という大きな流れによって、今や両者は手をつなぐような関係になってますから。まさに、「ウォーリー」と「イヴ」のように。共に戦う相手のAutoPilotはGoogleの"G"のようにも見えてくるしなあ〜。
- マツヤマ
- そうか……、そう読むほうが確かに面白いなぁ
- オガケン
- ところでヤマネくんの1位のPLAYBACKTIME in 『Mr.ビーン/カンヌで大迷惑』って、その"PLAYBACKTIME in"っていうのタイトルに付いてた?
- ヤマネ
- これはボクが勝手に付けたんですけどネ。ふふふ。凄いんですよ、この劇中内映画が!! 全編幸福感に包まれる最高のビーンなんですが、その中にカンヌ映画祭に、陰鬱な映画を出品している映画監督(ウィレム・デフォー)がいて、自分の独り言ばかりをスクリーンにドアップで垂れ流すんです。ゴダールから哲学を抜いただけのような、腰砕けにさせてくれる映画で、その映画のタイトルが「PLAYBACKTIME」。もう、痙攣するぐらい笑いました。最高! それに、この映画のタイトルで、何かピーンときませんか?
- マツヤマ
- うーん、別にビーンとこないなあ
- ヤマネ
- (無視)。 ジャック・タチです。って、僕もこのタイトルで気づいたわけではないんですけどね。今回の 『Mr.ビーン/カンヌで大迷惑』って、原題が「Mr.Bean's Holiday」なんですけど、その名の通り全編ジャック・タチの「Mr. Hulot's Holiday(僕の伯父さんの休暇)」 へのオマージュだったんですわー。ワーイ。僕はBABAさんと同じくジャック・タチがめちゃ好きなので、映画の途中から、ああ、ビーンはタチ(ユロ伯父さん)になりたいんだ、と思って観だすと最高に楽しくて嬉しくて。無口なとこも、ドジなところも、少年が徐々になついてくるのも、ママチャリでロードレーサーの集団を抜き去るところも、全部そのまんま。……泣けました。
- オガケン
- そうか、Mr.ビーンってタチだったのか!!
- マツヤマ
- ボクはネコかと思ってたよ
- ヤマネ&オガケン
- ー無視ー
- オガケン
- これDVDで観てみるよ。ちなみにこれDVDで観ても大丈夫?
- ヤマネ
- DVDで観てもぜんぜん大丈夫です!なんならDVD僕が買いましょうか。
- マツヤマ
- なんだか居心地悪いんだけど……
- オガケン
- マツヤマさんは"DVD"で観てもいいオススメはありますか
- マツヤマ
- その言い方もなんか引っ掛かるんですが、まぁいいや。そうですね『君の涙ドナウに流れ/ハンガリー1956』なんかはすごく良かったですよ。ソ連の支配に蜂起するハンガリー市民が武力行使によって数千人が殺害される最中にあったメルボルンオリンピックの水球でのソ連対ハンガリーの試合、後にメルボルンの流血戦といわれる事実を元に、ハンガリー市民の若い女性リーダーと水球選手の恋愛を描いているんです。まず、水球の試合なんてマトモに見たことがなかったけど、実際に現役選手を使っているからすごくリアルで新鮮だったことと、報道でソ連による虐殺を知っているオリンピックの観客たちがハンガリーを必死に応援している様子なんかに胸が熱くなるんですよ。すごく良いドラマに仕上がってるんですよ
- オガケン
- それ面白そうですね、絶対観ます。っていうか去年はホントいろいろあって観られなかったから話に加われないのが悔しいです
- ヤマネ
- そりゃあー、1日置きにババさんの見舞いにいかないとダメだわ、オパールは潰れるわで、映画なんて観てる場合じゃなかったでしょう
- オガケン
- いやいや、だからオパールは潰れてないって!!!……、でもヤマネくんはどうして20本しか観られなかったの?
- ヤマネ
- ボクはですね、まぁかわいい子供が産まれたりしたもんですから……、ウフ。やっぱりいろいろと身動きが取れませんでー
- オガケン
- なるほど。でもマツヤマさんは一昨年の12月にマサユキくんが産まれてから今でやっと1年なのに60本も観てる。これは何故?
その3(最終)に続く?
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