TAKESHIS’ [☆☆☆☆★★]
「たけし」が「たけし」に出会う。「たけし」が「たけし」を演じる。ババーン!
さて、この秋の映画街は、最大級に贅沢なラインナップ、ティム・バートンの新作が大放出2本、テリー・ギリアム、J・L・ゴダール、パク・チャヌク、キャメロン・クロウ、カーティス・ハンソン、ウォルター・サレス、行定勲、そして間違いなく現代、世界最高の監督、北野武監督の新作までもが公開される始末。
しかもなんと! 聞くところによるとこの『TAKESHIS’』、興行的には惨敗と聞きますから、極上ビフテキをゴミ箱に直行させる飽食っぷりにも似て、日本人はお腹いっぱい、やはり日本は豊かなのでしょうね、いつまでたっても貧乏根性ぬけない私は、もちろん女房を質に入れ(いません)、息せき切って公開初日、MOVIX京都に駆けつけたのでした。
こ、これは! 北野武監督最高! と思わず暗闇で独りごちざるを得ない素晴らしさ、大物芸能人=北野武が、さっぱりオーディションに合格しないタレント=ビートたけしに出会ってしまって夢を見る…ではなくて、今、まさにアメリカに撃ち殺されんとす刹那に、日本人が見る夢なのでありました。
一本の映画に、「おお! メチャクチャかっこいい!」というシーンが一個あれば十分な、せちがらい世の中に、北野武は惜しげもなく、メチャクチャかっこいいシーンをマシンガンのように連発、逆に、「…これはちょっと…?」という猛烈脱力シーンも次から次へと繰り出されて、この緩急の具合、強弱の振幅の按配が気色よく、しかもストーリーがさっぱりよくわからない、というか、夢の論理で撮られた映画なのか、夢見るように話の連想、映像の連鎖を楽しめばよい、というか、ここまで「夢」を追体験させてくれる映画があったでしょうか? いや、ない。
しかも。ブニュエル+ダリ『アンダルシアの犬』とかブニュエル『自由の幻想』、あるいはフェリーニ『アマルコルド』『フェリーニのローマ』とか? それらにも似て、北野武は、パーソナルで自由な連想をつづりながら、さすがは芸人さん、サービス精神が炸裂、素晴らしく前衛でありながら、ちっとも退屈しないという、いまだ誰も到達したことのない域に達してしまったのではないかしら…と思うわけです。
海辺で、ビートたけしが機動隊や過激派や何やら、あらゆるものをブチ殺しまくるシーンはまるでゴダールのよう、それなのに、このエンターテインメントはどうしたことか? …というか、ゴダールの映画も、夢見るように画面を見つめれば面白く見ることができるはずで、ゴダールの場合はつい、うとうととしてしまうのは、哲学や芸術や美学や映画史や音楽や文学や、色んなものをブチこむからなのであって、そんなもんなくても映画は映画になる! 物語を捨てた映画がこんなに面白いとは! と、私は生まれて初めて純度100%の映画を見た! と、深い感銘を受けたのでした。
この、圧倒的な自由さ、面白さ、安っぽさ! ……いや、私がこの『TAKESHIS’』を天まで持ち上げてしまうのは、その前日にピンボケ『春の雪』を見たからで、みなさまもぜひ、まず『春の雪』を見てから、『TAKESHIS’』見てくださいませ。『春の雪』→『TAKESHIS’』、合わせての鑑賞、バチグンのオススメです。
☆☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
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