ブラザーズ・グリム [☆☆☆★★]
赤ずきんちゃん、その森へ 行ってはいけない。ババーン! テリー・ギリアム7年ぶり新作、グリム兄弟がゴーストバスターズとして大活躍! …なのですが、そこはそれテリー・ギリアム、ヒネリにヒネリが加わり微妙な仕上がり具合でございます。
なんでも製作費が100億円近くにふくれあがったそうですけど、製作には、作品を容赦なく切り刻むことで有名、「シザーハンズ」の異名を取るハーヴェイ・ワインスタイン、無理矢理上映時間を2時間以内にまとめちゃった感じがふんぷんでございます。途中、グリム兄弟が女物の服を着ているシーンがありまして、なぜそんなもん着て寝ているのか謎だったり、色々重要なシーンがカットされていると思われます。
『未来世紀ブラジル』では、ファイナルカットをめぐって戦ったテリー・ギリアム、近年、『ラスベガスをやっつけろ!』がコケたり、『ドン・キホーテを殺した男』が製作中止になったり。今回もクランクアップから2年かかってようやく完成、テリー・ギリアムも、ともかく劇場公開を優先させたのかも? 苦渋の決断だったのでは…? …きっと未公開映像満載のDVDが出るんでしょうなぁ、と憶測するのですが、何が何だかよくわからないところはありつつ、それでもやっぱりテリー・ギリアムは面白い!
以下ネタバレですが、冒頭、グリム兄弟が魔女を退治するシーン、「魔女とか魔法とか、そういうものは全てまやかし・誤魔化し」であることが示されます。ここではグリム兄弟、リアリストの兄ウィルが、ロマンチシストの弟ジェイコブに対し主導権を握っています。グリム兄弟を、リアリズムとロマンチシズムの葛藤として描いております。
やがて兄弟はホンモノの魔女と対決することに。このへんは『スリーピー・ホロウ』を彷彿とします。『スリーピー・ホロウ』では、科学を信奉するジョニー・デップが、首なし騎士=実在の魔法と対決します。
『スリーピー・ホロウ』は、科学的な態度で魔法を打ち破り、近代合理主義の幕開けを描いたわけですが(私の勝手な解釈)、『ブラザーズ・グリム』は、魔法と対峙して、近代合理主義を批判し、別の解決策を提示するのであった。
『ブラザーズ・グリム』では、フランス軍提督(ジョナサン・プライス=『未来世紀ブラジル』タトル氏)が、ヨーロッパ合理主義、というか、フランス啓蒙思想を代表する人物として登場します。グリム兄弟が生きた18世紀初頭、フランス啓蒙思想(Enlightenment)が、ナポレオンの軍隊とともに周辺諸国に波及しました。ドイツでカント、ヘーゲルがそれを発展させ、ヨーロッパ合理主義として体系化されるのですが…って、ものすごい付け焼き刃の知識で書いておりますが、この『ブラザーズ・グリム』は、ドイツが啓蒙思想と出逢った時代を描いております。ヨーロッパ合理主義は、その後アメリカでグローバリズムに変質して、世界に大迷惑を与えておりますが、この作品は、ヨーロッパ合理主義に別の道を指し示すのであった。
ジョナサン・プライス提督は、世界の隅々にまで理性の光をあてようと、魔法が棲む森を焼き尽くそうとします。これまさしく、イラクを焼き尽くす米英グローバリストの似姿に他なりません。
グリム兄弟は、森を焼き尽くすでない、別の解決を提示します。それは、「物語」だ! 迷信・魔法を、蒙昧として焼き払うのでなく、「物語」にすること、「物語」に参加し、そのルールにのっかって邪悪を打ち破っていくこと……それこそがグローバリズムとは別の、西洋合理主義が進むべき道である、と、『ブラザーズ・グリム』は語るのであった。我々は、グリム兄弟からやり直そう、と。
そんなわけのわからない話はどうでもよくて、一部、シュールレアリズムでヤン・シュワンクマイエルな映像が素晴らしいです。井戸の底から現れる泥の妖怪が、目玉をギョロリとのぞかせるところや、割れた鏡の破片それぞれに、王女の表情が貼りついているなど、シュールレアルなイメージが気色よく、そういえばシュールレアリズムも、第一次大戦という悲惨を目撃し、西洋合理主義に大いなる疑問を投げかけた運動であったなぁ、と一人ごちたのでした。
モンティ・パイソン風のコボケも連発されて、好き者には堪えられないのですが、編集が雑な印象は否めず、いつか発売されるであろうディレクターズカット版、あるいは、エクステンデッド・ヴァージョンを楽しみにしつつ、映画はやっぱり大スクリーンで見るべき、オススメです。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
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