鳶がクルリと [☆☆☆]
エリートOL vs ガンコ一徹鳶職人の、14日間の仁義なきビジネス戦争??? ババーン! ヒキタクニオ原作、薗田賢次監督、丸山昇一脚本といえば、そう! メガトン爆弾なみに眠かった『狂気の桜』のトリオ、今回も薗田賢次監督のMTV臭さが全編に炸裂、うへっ、こりゃたまらん! と、いいたいところ、意外や意外(失礼)面白ございました。
『狂気の桜』に引き続き「ナショナリズム」が主題、[大企業エリートOL=グローバリズム] VS [昔気質の鳶職人=反グローバリズム]の対立をまず立て、エリートOLが鳶職人に仕事を依頼、しかし鳶職人は昔気質な頑固もんでなかなか依頼を受けずすったもんだで徐々に、エリートOLが日本の職人気質に歩みよる…という、物語の骨格がまずよろしいです。
加えて「鳶」という題材がグーです。鳶は高層ビル建設現場てっぺんで仕事をする。「高層ビル」とは西欧近代が産みだしたもの、世界貿易センターが9.11テロの標的になったように、高層ビル(とジャンボジェット機)はグローバリズムの象徴となりえる。「高層ビル建設現場てっぺん」とは、グローバリズム最先端の増殖部分といえます。しかし近代/グローバリズムが増殖するには日本では、鳶職人という前近代的職能集団が不可欠でなのであった…という皮肉。
これは何も建築現場だけの話ではなく、宇宙ロケット部品、機械では測定不可能なほど精度を出すため日本の職人の技術が不可欠…とか、「見えない戦闘機」ステルス機体に磁性体を塗る技術はTDKが開発した…とか、iPodの筐体は堺の町工場で作られている…とか、ってだんだんズレている気がしますが、グローバリズムも結局は日本の職人の技術に頼らざるを得ないのであり、ここにアメリカの世界支配をうちやぶっていく鍵があります。
そんな要領を得ない話はどうでもよくて、この『鳶がクルリと』、グローバリズムが「鳶」に屈していく物語の骨格がすぐれている、という話でした。
加えてキャラ立ちもよく、鳶職人集団「日本晴れ」のメンバーに、宇津井健、哀川翔、須藤元気ら黙っていてもキャラ立つメンバー、そういう「日本晴れ」職人コミュニティに、エリートOLが闖入するシチュエーションがうまいことコメディを発動している。ってまあ、あまり笑えないんですけど。
欠点も山ほどあって、ガチャガチャしたMTV風演出は邪魔ですし、肝心かなめ鳶の仕事風景がCG処理で萎え萎え、反グローバリズム的職人バンザイ映画を撮るなら、『マッハ!!!!!!!!』のように「CGは一切使いません!」と宣言していただきたいところ。それと、もっと鳶という職種の具体に肉薄してほしいところ。観月ありさは軽くヤバいし。
音楽はジャパレゲ、Home Grownが担当、エンディングはRyo The Skywalker、よくわからないけれども良い感じでオススメです。
☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)
Comments
投稿者 zero0 : 2005年10月18日 10:34
BABAさんの映画評、いつもかなり興味深く読ませていただいています。歯切れのいい、的確な評にいつも共感しています。
まだ映画は見ていないのですが、この作品は原作がバチグンにグーです。未読ならぜひ読まれてみてはいかがでしょう?良いところは、ほとんど原作の良さのようですし、だめなところは映画のだめさのようです。
投稿者 baba : 2005年10月18日 14:09
>zero0さん
ありがとうございます!
> ほとんど原作の良さ
情報ありがとうございます。ふむふむ。
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単行本→http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4104423025/cafeopal-22
単行本の方の、amazonのあらすじを読むと、微妙に設定が変えられているようですね。
ていうか、原作の方が設定に無理がなさそうで面白そうです! 読んでみます! ポチッとな。
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