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2005年09月27日(Tue)

コーチ・カーター ☆☆☆☆

Text by BABA

 ある一人のコーチが僕たちの未来を変えてくれた——彼は唯一“リスペクト(尊敬)”できる人だった…。ババーン! 弱小バスケ・チームを立て直すためやってきたのはコーチ・カーター、実話にもとづくお話。

 コーチ・カーターを演じるのは……サミュエル・L・ジャクソンである!! ダーン! 『パルプ・フィクション』“説教くさいギャング”でブレイク、その後、『交渉人』でしゃべくり、『ダイ・ハード3』でボヤキ、『閉ざされた森』の鬼教官でシゴキ、そのシャベリを生かした名演を披露してきましたが、ついに! サミュエルの説教が全編に炸裂する! “サミュエルの説教”好きが夢にまで見た映画でございます。なにしろバスケのコーチ役ですから、バスケ試合中コートわきでぎゃあぎゃあ騒ぎまくってやかましくて仕方がない芸も堪能できるオマケ付き、サミュエル最高! です。

 さらに、何といっても素晴らしいのは、コーチ・カーターのセリフの素晴らしさ、全編に真実の言葉があふれかえっております。こういう「真実の言葉」が存在してこそ実話の映画化、『シンデレラマン』が「実話の映画化」を標榜しながら、ステレオタイプ(類型的)なセリフばかりなのとは丸で違って、「ああ、実在のコーチ・カーターはこんなことを言ったのでしょうね」と首肯できるものです。

 って、中には「…私は“バスケット選手”をコーチするためにやってきた…そして、君たちは“生徒”に成長した…」みたいな、あなた、前もって「こう言おう」と考えてましたね? みたいな芝居がかったカッコ良すぎるセリフもありますが、そういう芝居がかったセリフも、サミュエルが発するやいなや茫然と私を感動させる真実の言葉となったのであった。

 昔からよくあるタイプの、型破り教師(コーチ)が悪ガキどもをスポーツなどで教導するストーリーで、シドニー・ポワチエ『下り階段をのぼれ』(1967年)、モーガン・フリーマン『リーン・オン・ミー』(1989年)、ミシェル・ファイファー『デンジャラス・マインド』(1995年)とか、さらに大傑作の照英『スクール・ウォーズ』もあり、またですかいな? とボヤキがちですが、この『コーチ・カーター』が凄いのは、ひとつには「盆暗高校では、生徒の半分が卒業できず、大学に行けるのはほんの数パーセント」という、アメリカの状況をリアルに描き出しているところ、もうひとつ、思わず「これは凄い!」と唸ったのですけど、「民主主義がファシズムを生む瞬間」が描かれているところです。

 コーチ・カーターは、コーチ就任にあたって生徒たちと「契約書」をとりかわします。「授業はすべて出席すべし。いちばん前の席で授業を受けるべし。ネクタイ+ジャケット着用のこと。成績は平均2.3ポイント以上とるべし。これを守らば諸君を常勝チームにしてやる!」との契約内容。で実際、常勝チームになったのですが、生徒はお勉強に関する契約を全然守らなかった!! 裏切られた気分でいっぱいコーチ・カーター、体育館をロックアウトするという強硬手段に出ます。試合もキャンセル、連勝記録がストップ。

 そうなりますと、弱小チームが連勝してまいあがったにわかバスケファン市民は黙っていません。「バスケが強いんだから、勉強できなくていいじゃないか!」「平均2.3ポイントの成績なんて厳しすぎるYO!」「体育館ロックアウトを解除せよ!」と、コーチ・カーターに対する批判が澎湃とわき起こります。

 そこで調査委員会が設置され、公聴会が開かれます。ここでもコーチ・カーターに対して非難ごうごう。コーチ・カーター、最後に演説します。

「ロックアウトを解除したら、高校生たちに『契約は守らなくてもいい』と教えるようなもんだ!」と。きわめて真っ当至極な主張、私は激しく同意したのですが、多数決では「ロックアウト解除」が決定してしまう! 

「アメリカは世界でもっとも民主主義が発達した国」というプロパガンダはアメリカ映画の特質、『スミス都に行く』(1933年)のように、一人の男の弁論が世界を動かすのが黄金パターンですが、阿呆が多数を占めれば、民主主義は機能しなくなって真実の言葉は殺されてしまうのであった…。

 無責任な民衆の熱狂は真実の言葉を圧殺する…ということを描いてまして、この『コーチ・カーター』はクリント・イーストウッドの監督作品同様の「リバータリアン映画」なのであった。(「リバタリ映画」については以下を参照。店主の日記「『ミリオンダラー・ベイビー』について」

 監督はトーマス・カーター、『スウィング・キッズ』(1993年)で戦時中ドイツ、ダンスでファシズムに抵抗した若者を描いた佳作あり、エディ・マーフィ主演『ネゴシエイター』とか、音楽が白人と黒人の垣根をとりはらう『セイブ・ザ・ラストダンス』もなかなか面白かったわけで、その主張は一貫していると見た。トーマス・カーターは「リバータリアン映画監督」として私の脳裏に深く刻み込まれたのでした。

 バスケットゲームのシーンもたいそう素晴らしく気色よく迫力満点。こういうスポーツ映画は、いろんな葛藤や確執が最後の試合で止揚・昇華していきますけど、オマケ的・アンコール的に「よし! 試合だ!」と最後に試合シーンがあるのもグーです。バスケットにドラマを持ち込んでもそれは不純なだけ、バスケットはそれだけで美しいのである…みたいな作り手のバスケ愛を私は感じ、茫然と感動しました。

 サミュエルの説教に酔い、バスケ美に酔い、全編を彩るヒップホップ+ソウルミュージックに酔ってアッという間の2時間16分、バチグンのオススメです。

☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

公式サイト: http://www.cc-movie.jp/

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