姑獲鳥の夏 [☆★★]
「20ヶ月もの間、子供を身ごもっていることが、出来ると思うかい?」「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君」。ババーン! 京極夏彦ベストセラー本格探偵小説を、実相寺昭雄監督が映画化。
原作は私も読んでおり、まずたいへんな情報量に度肝を抜かれ、それらが一ヶのトリックを成立させるために総動員されているのだなぁと、その巨大なトンチに茫然と感動したものですが、そのトリックはどう頭をひねっても映像化不可能、そんなネタを映画にしようとは、まったくもってこの世には不思議なこともあるものよなぁ。
いや、やはりこの世には不思議なことなど何もなく、映画とは興行、商売、ある程度の収益が見込めれば映画は製作されてしまうのが道理、ベストセラーで熱狂的ファンを持つ京極堂シリーズとなれば、いかなる映画が完成したとしても話題になってある程度もうかるはず、そこそこ有名どころ俳優さんそろえ、それなりに物語をなぞっておけばよかろう、戦後すぐに起きた猟奇的事件となれば江戸川乱歩作品いくつかを監督した実相寺監督ならそれなりに映像化してくれるであろう、肝心要の映像化不可能なトリックは適当にお茶を濁しておけばよろしい、と、謎が入り込む余地のない理にかなった映画化でございます。
しかしながら黒澤明『赤ひげ』有名なこぼれ話、美術・村木与四郎は、脚本上決して開けられることのない引き出しに江戸時代の薬瓶を入れた、というのがありますが、得てして面白い映画はこんな不可思議・不条理から生まれてくるもの、映画づくりは不思議と謎に満ちていた方が面白くなる、映画には不思議なことが必要なのだよ、関口君。
とはいえ映画は原作とは別物。…とはいえ、なかなかに複雑怪奇なお話、多数の登場人物、2時間ぱかしの映画にすれば、話がわかりにくくなること必至、またセリフやたら多く、原作を読まずに映画だけ見て、話がわかるもんでしょうか? と思うわけです。
それはともかくセット・小道具など美術はなかなかによい感じですので、普通にオーソドックスに正攻法で撮れば気色よい映像になるはずなのに、奇天烈なカメラアングル+アヴァンギャルドな照明は実相寺タッチ全開、ムワッと安さがただよって残念でございました。
強烈な個性の持ち主・京極堂を演じる堤真一、ちょっと薄いかな? やっぱり京極堂は京極夏彦自身が演じるべきではないのかな? と思いますけど、朗々とした長台詞は感じよろしく、また原作のイメージともっともかけ離れている配役は薔薇十字探偵・榎木津礼二郎=阿部寛かと存じますが、私は大丈夫でした。というか、映画にするならいちばんおいしいキャラクターですので、もっと暴れていただきたかったな、と。
とりあえず、いしだあゆみのわけもわからず意味なく怖い演技が見どころ、オススメです。
☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
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