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2017年01月26日(Thu)

今年もやります!2016年★オパール映画ベスト10 <その2> ベストテン

元店主
はてさて。2016年は邦画奇跡の年、と世間的にも言われているみたいですが、それがオパールのベストにも如実に現れた形になりましたね。
ヤマネ
そうですねー。他にも観られなかったけど、観たかった邦画作品は多かったですよー。『淵に立つ』とか。行きたかったんだけど見逃しました。
マツヤマ
まぁ、西川美和とか黒沢清とか、山下敦弘とか、あとは是枝とかも入るのかもしれないけど、彼らは今年に限らずマイペースで良作を作ってるじゃない。昨年は、そういった所と関係ない所でいい作品がたくさん作られた印象なんだよな。
元店主
『アイアムアヒーロー』とか『シン・ゴジラ』とかですね。あと、『君の名は。』という歴史的な特大ヒットが出たのも大きいですね。でも、なんでそんな事になったんでしょう?
ヤマネ
うーん、まー、東日本大震災の影響が最近になって出始めた・・・という意見はありますわね。なんか、戦争、とか災害、とかがパワーになるというか。
元店主
ああ、『シン・ゴジラ』とか『君の名は。』なんかは、モロそうだもんね。でも、他の作品もそうなのかな?例えば、『この世界の片隅に』なんて、311より前から作り始めている訳だし・・・それでも、制作過程で影響を受ける、という事はあると思うけど。
マツヤマ
ただ、311の要素一点にだけ意識がはたらいちゃうと、小林よしのりみたいに『シン・ゴジラ』を大批判する人もいるし、園子温なんかは「二度と怪獣映画のリメイクごときで、現代の311語るな、クズども」とか「自主映画ならまだしもお金儲け映画ごときで現代は語れない。特にリメイク怪獣映画ごときで」、または『君の名は。』も標的になって「糞ジャパアニメ、すべて死ね!」とか大量にTwitterで吐き散らしてたけど、少なくとも『シン・ゴジラ』では映画全体を見渡せば、そんな意見にはならないと思うんだが。
元店主
す、すごいですね、園子温。大丈夫ですか・・・(呆れ)。
マツヤマ
園私怨にでも改名したらいいんだよ(笑)。
元店主
311をどんな形で語ろうと、自由だと思いますけどね。だいたい、『シン・ゴジラ』にしても、プロデューサーが庵野を会社の圧力から徹底して守って自由に撮らせたと聞きますし。『アイアムアヒーロー』では、監督がインタビューで明確に「テレビ放送を考えなくて済むから自由に撮れた」と発言してます。つまり、「お金儲け映画」かそうじゃないかという分け方は的外れではないかと思いますけど。むしろ問題は“自由”ではないか、と。
マツヤマ
『この世界の片隅に』だって、片渕監督が自分の貯金を崩したり、クラウドファンディングによってコツコツと自由に撮った訳だろ。表現者の自由を守る事の大切さが再確認された年、とオレはしたいね。
元店主
それとは逆に、ハリウッド映画がビックバジェットに成り過ぎて、自由を失っている感じがしますね。徹底的にマーケティングをするもんだから、なんだかみんな似た感じになってますし、色んな思惑に雁字搦めになってる感じがする。よく出来てるとは思うんですが・・・なーんか、パッとしないですよ。
ヤマネ
そうですね、邦画が面白かったのはあるんですが、ハリウッドものが、食傷気味というか、パターンが出来上がり過ぎていてそこまで乗れない感じはありましたよね。なんとなくアヴェンジャーズシリーズとか、もうダメなんじゃないかと感じさせました。では、全体の概観はさておき、個々の作品を観ていきましょー。まづはオパールベストの第一位!『この世界の片隅に』。一位に選んでるの僕だけですが、やっぱ今年はダントツこれですよ!個人的にはこれまで観てきたアニメの中では一番すきです。

この世界の片隅に

元店主
全国公開館数が60館あまり、という非常に小規模な形で細々と始まりながらも、口コミで評判が広がって大ヒットに繋がった、という形だね。大ヒット、といっても現時点で10億円ほど。『君の名は。』の200億超えとは較べものにならない訳だけど、あれは例外だからね。普通は10億超えたら大ヒット。ちなみにアニメでは20億を超えたら特大ヒットなんだけど、『聲の形』は超えたよねー。やった!
マツヤマ
『この世界の片隅に』は、主演の“のん”の問題もあるよな。独立した元所属事務所の圧力で、民放での宣伝ができない、という問題。SNSなどで話題になるにつれ、仕方なくとりあげる所も出て来たみたいだけど、それでも“のん”については触れるな!という圧力を受けるみたい。そういった圧力を撥ね除けてヒットした、というのがまた、2016年を象徴している感じだな。
ヤマネ
のんは良かったです。ボク、基本的に声優以外がアニメの声をあてるのには反対なんですが、のんはピシャッとはまっていた。演技ももちろんですが、片渕監督特有の、アニメのコマに描かれる、普通はカットされるような不自然な人間の仕草がなんともリアリティを生み出していて、快感だったですよね。・・・それにしても、ボクらがいくら薦めても『聲の形』や『君の名は。』に行かなかったアニメ嫌いのマツヤマさんが、これだけはボクらより早くサッサッと観に行ってるのはなんとも・・・まぁ、分かる感じしますけどね!
マツヤマ
うるさいなぁ。オレは別にアニメ嫌いじゃない、と何度も言ってるだろ。ただ,最近のアニメは青空が眩し過ぎるんだよ、オッサンのオレには、な。
元店主
2年程前の片渕監督のインタビューを読んだんですが・・・正に『この世界の片隅に』を苦労しながら作ってる時のものですね。そこで非常に興味深い事を言ってるんです。今のアニメは子供向けとマニア向けと普通のアニメに3極化してる、と。で、日本においては普通のアニメ=ジブリとなってしまっていて、ジブリ以外で普通のアニメを作っても、見向きもされない。片渕監督は、普段アニメはそんなに観ないけれど実写映画なんかは見る、そんな普通の大人が見る様な“普通のアニメ”を目指してる人なんですが、そういった制作者には非常に厳しい環境なんだ、と言ってるんです。正に、そんな感じですもんね。のんの問題がなかったとしても、メディアがどこまでこの作品を取り上げたか疑問ですし。
マツヤマ
そうそう! “普通の大人”のオレから言わせてもらうと、確かに所謂“アニメ絵”じゃないし、そこらで抵抗は少なかったのは事実だな。話も、太平洋戦争時の広島・呉の生活、しかも日常生活を描く、という“普通の大人向け”のものだし。実際“普通の映画ファン”の間でも話題になってる印象がするんだよ、この作品。
ヤマネ
マツヤマさんに“普通”とか主張されると、なんか複雑な思いがしますがー・・・。ほのぼのとした日常と残酷な出来事、現実と幻想が分ち難く描かれたこの作品は、アニメだからこそ表現できたものですよね。“普通”にアニメも好きなボクから言わせてもらうと!
元店主
絵を描く事が自己表現だったすずさんの物語だから、アニメなのは正解だよね。緻密で且つ柔らかい絵は、正に現実(リアル)と幻想(ファンタジー)の見事な融合を可能にしている。空襲の表現なんて、ビビるくらい凄かった。
マツヤマ
オレは音楽も良かったんだよな。コトリンゴ。あのちょっと現代音楽風の民謡テイストのピアノ曲な。あれは、いいよ。うん。
ヤマネ
(・・・実はコトリンゴの主題歌、ちょっとばかり耳障りな音だなあと感じていて、サントラ買って聴いてますけど、そこまでかなあ・・・)

シン・ゴジラ

ヤマネ
2位は『シン・ゴジラ』!・・・でも、この1位と2位、『キネ旬』と同じですやん。ってか、ボクのベストとも同じだ!たはー(年末に決めてます)。
元店主
これ、アニメの『エヴァ』をまんま実写に移しただけやん、みたいな声をきくけど、まぁ、それはそうだろうけど、むしろ市川昆とか岡本喜八だよね?
ヤマネ
はい。庵野は元々市川昆や岡本喜八の大ファンで、それらの技法をアニメに取り込んだ経緯がありますから、今回はそれを実写に還元したと、そういった側面はありますでしょう。アニメと実写のいい関係を象徴してますね!庵野監督よくぞやりきりました…。
マツヤマ
さっきも言ったけど、これは単純に311とか原発事故の対応の比喩として描いただけの映画ではない。もっと根本的な日本のあり方、またはどうあるべきかを描いているから素晴らしいと思ったんだ。東日本大震災の記憶を宿した『シン・ゴジラ』の原点が、太平洋戦争・原爆の記憶を宿していたファースト・ゴジラというのも、ゴジラの精神を正しく受継いでいるわけだし、現実の大きな事件を描くのに、ハリウッドみたいにあくまでリアルに迫るのではなく、それを怪獣などに象徴化したり、アニメ化したりして一枚噛ますのが、日本は得意なのかもしれないな。
ヤマネ
おお!マツヤマさんが特撮とアニメに目覚めてる!
マツヤマ
別に目覚めてねーよ!
元店主
とにかくこの作品は、賛否はあるもののなんか凄いものを観た!と思わせる力がありますよね。『エヴァ』もそうでしたが・・・。そんな作品、めったにないんだから、やっぱ凄いですよ。でも、昨年は邦画にそんな作品が結構あったのが驚異なんだよねぇ・・・。

聲の形

ヤマネ
そんな、なんか凄いものを観た!と思わせる作品のひとつがこの『聲の形』ですよね!めちゃイイ!原作の漫画もいいんだけど。
元店主
そう!いやー、ほんと京アニは凄いわ。ってか、山田尚子が凄過ぎる。テレビアニメの方では『響け!ユーフォニアム2』が凄かったんだろ?私はテレビないからまだ観られてないんだけど。
ヤマネ
すごいなんてもんじゃないというか。テレビでこんな力作を無料で観させてもらっていいのか、という。映画限定ではなく、映像作品というくくりなら、今年の1位は『ユーフォ2』かもしれない、ボクは。山田尚子ってほんとーに凄いんですね!
元店主
私は最初、この作品は聾唖者が主人公ときいて、即座に北野武の『あの夏、いちばん静かな海』みたいな作品になるのかと思ったんだ。つまり、サイレント映画のような、セリフに頼ることなく映像で語る様な作品。ところが、いい意味でその予想は裏切られた。
ヤマネ
そうですよね。確かに映像で多くの事を語ってますし、セリフに頼るような所はないですけど、でもサイレント映画みたいでは全然ないですよね。手話も、全部言葉に出して説明してるし。
元店主
そうなんだよ。で、私は山田尚子のインタビューを読んでぶっ飛んだんだけど、彼女、最初にこの作品を作るにあたって、これは言葉以外のコミュニケーションを描く作品だ、と思ったらしいんだ。まぁ、これは分かるよね、聾唖者には言葉は聴こえない訳だし。で、言葉以外のコミュニケーションとは何か?普通、それは映像によるコミュニケーション、ってなると思うんだけど、なんと彼女は、それは音によるコミュニケーションだ、って考えたらしいんだよ!私はそれ読んでひっくり返った。山田尚子ってやっぱり天才か!と。だって、音だって聾唖者には聴こえないんだよ!
ヤマネ
ははは!そうですよねー。
元店主
でも、それは凡人の発想なんだよ。聾唖者は音が聴こえないから、音以外で、映像で、つまり手話などの視覚表現で、というのは。そもそも音は聴くもの、というのが凡人の発想で、音は感じるものでもあるんだ。それを、この作品は示してる。冒頭から、やたら波紋が出て来るんだけど、これは音の波紋だよね。クライマックスの直前、花火大会で、夜空に広がる綺麗な花火を見もせず、硝子はジッと目を閉じて花火の音に身を任せている。あれが象徴的。映像作品っていうのは、映像という言語からできているんだけど、それらを超えたコミュニケーションを描こうとしてるんだよ、山田尚子は。そしてそれは達成されている。表面的に描かれているものを超えて、深い所で我々に訴えるものがあるのは、そういうこと。でも、真のコミュニケーションって、そういうものだと思うんだ。言語(手話を含めて)を超えた所で行われるもの。アニメで、映像という言語を超えたものを表現しようとするなんて・・・凄まじい作品だと言うしかないよ。
ヤマネ
ケンタロウさん、力はいってますねー。でも・・・そんだけ絶賛しながら、『聲の形』2位じゃないですか!ケンタロウさんの個人ベストの。
マツヤマ
ケンタロウさんの1位は・・・『同級生』?なんだよ、これ。聞いた事ないけど、まさか・・・。

同級生

元店主
はい、そのまさか、です。アニメですね、これは。
ヤマネ
はははー!ケンタロウさん、上位3位が全てアニメ!終わってますねー。
元店主
いや、始まったんだって。・・・これは60分の作品だし、やってる所も限られてたから、あんまり知られてないかもしれないけど・・・BLマンガの金字塔、中村明日美子の『同級生』のアニメ化です。お二人とも、BLは読みますか?
マツヤマ &ヤマネ
読む訳ないやん!
元店主
・・・でしょうね。でもね、私はBLってとても重要なジャンルだと思っているんです。BLって、男同士の恋愛を描いたものですが、いわゆるゲイとは関係ないんですよ。ゲイというのは、あくまで異性愛がメジャーな世界での同性愛で、それ故の特権性があり、その臭みもある。それに対して、BLの世界では同性愛がデフォであり、同性愛故の特権性はないんです。代わりに、そこにあるのは女性に対する抑圧のない世界、です。やっぱ女性って、抑圧されてるじゃないですか。
マツヤマ
ほう、そうなの、か?
元店主
ええ、私はそう思います。むろん大状況と個人の状況は違うので、個々人では抑圧されていない女性も居るでしょうけど、全体として、やはり女性は抑圧されている。男女という性差が必然的に抑圧を産むんです。で、性差の無効化されたBLの世界は、抑圧された女性たちの癒しになるユートピアな訳です。クリティカルで過激なジャンルだと思いますよ。
ヤマネ
ふーん、で、それが1位に選んだ理由ですか?
元店主
いやいや、それもちょっとあるけど、なによりこの作品の表現力が凄いんだ。アニメ表現の極北ではないか?と思わせる。この透明感は、ちょっと他では観たことがない。監督を始め、主要スタッフがみんな女性で作られてるんだけど、それも大きいのかもしれない。映画ではそんなのあんまりないでしょう?絵もひたすら美しいし。個人的には、昨年で一番重要な作品だったと思います。
ヤマネ
(ああ、思いの外、遠いところに行ってしまわれた・・・。合掌)

キャロル

ヤマネ
美しい同性愛の映画・・・と言えば『キャロル』ですよね!マツヤマさんが1位に選んでる訳ですがー。
マツヤマ
同性愛の映画というのと1位にしたこととはあまり関係なく、しかし、あえて言えば上流階級の年上の女性とデパート店員の少年のような娘というバランスは新鮮だったし、貫禄と可愛さ、そして所謂抑圧された女性故の弱さ、を兼ね備えたキャロルを演じたケイト・ブランシェットが圧倒的によかった。映像、音楽ともに非の打ち所がない、と言ってしまえば単なる優等生映画に聞こえるかもしれないけど、充分な面白味もあり、プラス、日本映画の躍進を昨年だけのシーンとして終わらせたくないという思いもあり、ひとつの壁として1位にしてみた訳だ。いかにも保守的な選考と自認した上でだ。
元店主
マツヤマさん、力はいってますね・・・。
ヤマネ
個人的にはキャロルのヤンキーのようなやり手な感じに乗れなかった映画なんですけど・・・絵的に美しいのは確かでしたね。クリスマス前のデパートとか、ノーマン・ロックウェルとか、豊かなコートに口紅、見事でしたね。それにしても、登場していた夫を含め、男どもの弱さと頭の硬さは今思い返してもグサグサくるんで…。
元店主
男の抑圧性がよく描けていたよね。彼らなりに精一杯頑張っているんだけど、女性たちを愛すれば愛するほど、優しくすればするほど、それが抑圧になる、という・・・。まぁ、この映画は分かりやすく描いてますけど、現代もあまり変わってないと思いますよ。だからこそ、BLというのが重要な訳で・・・。
ヤマネ
(病膏肓に入る・・・とはこの事だね。やれやれ。)

ブリッジ・オブ・スパイ

ヤマネ
まあここまでのあたりは、どこの映画ベスト10とかでも選ばれていたりするんですが・・・。
マツヤマ
『同級生』は選ばれてないだろ。
ヤマネ
いや、個人的には『ブリッジ・オブ・スパイ』がめちゃくちゃいいと感じた映画だったのですが、あんまり話題にならなかったんですよねー。「東西ドイツの壁の上を超える電車」が、乗客の目線から映像化されて、息がつまるような凄い緊張感と、高揚感を味わわせるシーンは今年の全映像のなかでも傑出していたと思うし、かっこよかったです。これは観て欲しいんだけどなあ。スピルバーグ最近人気ないからなあ…。『ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』なんか『君の名は。』の陰にかくれて惨敗もいいとこでしょうし。
元店主
私はトム・ハンクスがなぁ、あんまり好きになれなくて・・・。彼のせいで、『ハドソン川の奇跡』をベスト10から外しちゃったよ。イーストウッドをベスト10から外すなんて・・・相変わらずめちゃいい映画だったんだけど。
マツヤマ
オレもトム・ハンクスが苦手。彼を見ると、細川たかしにしか見えないんだよ。
ヤマネ
ええー!似てますか?
マツヤマ
似てるよ、ほら。

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元店主
わはははははー!確かに似てるー!
ヤマネ
・・・もう、いいっす・・・。

その3 に続く。

Comments

投稿者 おいしん : 2017年01月30日 17:33

やっと大垣に『この世界の片隅に』がやって来ました。週末に見て来ます!

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