「第9地区」 []
他の惑星から来た難民をバラックに住まわせて、通名で呼んで、国連みたいな国際機関が管理したり殺したり…。ブラックすぎて人間で描けないことをエイリアンでやってしまうと、実に笑える作品に仕上がってしまった。しかし、ふと我に返って「あの難民が人間だったら」と思うと興醒めしてしまう。何時如何なる世界でも、差別というものを客観的に見れば、差別する側の方がマヌケに見えてしまうものだ。
さてさて、武器や司令船を見てもわかる通り、エイリアンたちは、地球人よりも遥かに文明が進んでいることは明らかで、人間が自分たちを難民として受入れること、第9地区で20年間過ごすことなどを予め分析した上で地球を侵略するための下準備で訪れたというのがオレの読みだ。エイリアンのリーダー的存在(?)のクリストファーが20年かけて作った謎の液体が入ったカプセルは「母船に戻るために司令船を動かす燃料」と「人間に感染するとエイリアンと同化する」という2つの機能を持っているのか? それとも2種類入っているのか? おそらくどちらでもなく、人間を同化するためだけの液体、一種類のみだ。20年の間にその液体を作って持ち帰ることを目的として訪れたのだろう。それが完成したところで司令船が作動するしくみなのだ、きっと。
1955年、ジャック・フィニィというSF作家が書いた「盗まれた街」という小説は4度も映画化されている。最近作は2007年の「インベージョン」でニコール・キッドマンとダニエル・クレイグが主演した。宇宙から飛来した謎のウィルスに感染した人間の体が、何者かに入れ替わったかのように豹変してしまうという内容だ。「ゼイリブ(1988)」などSF映画には他にも似たような設定の作品が多くあるが、「第9地区」はまさにそれらの作品(ボディ・スナッチャー系とでも…)の“エピソード0”だ。
さて、クリストファーは「3年後に戻る」と何度も言うが、3年後とははたして何か? この映画が日本以外で公開されたのは2009年ということは、3年後は2012年だ。だからこの映画は2012年終末説に翻弄される人類への警告だ。最近やたらと終末を扱った作品が多いが「そんなことは起こらないし、起こさせてはならない」とこの映画はマヌケな人類に警告している。
エイリアンたちの20年間は現代のイスラエル国のユダヤ人の運命を凝縮しているように思える。「スター・トレック(2009年版ほか)」でバルカン人(スポックはバルカン人と地球人のハーフ)はユダヤ人をモデルにしているなど、扱うにはデリケートなユダヤ人は宇宙人として描かれることが多いのだろうか? 注意すべきは旧約聖書に書かれた終末説を文字通り信じているキリスト教原理主義者がいるということだ。米国のユダヤ(イスラエル)ロビーやネオコンのように「何も起こらなければ人為的にでも起こそうとする」ヤツらがいるということを忘れてはならない。聖書の予言は自然には起こらないのである。
“星新一”的視点で見れば、クリストファー父子の人情味になんとなく感情移入して、安易に同情してしまうのは危険なのである。
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