「ブラインドネス」 [☆☆★]
Text by Matsuyama
ネタをバラします
- 子
- 父さん、やっぱりボクたちはこういうパニック・サスペンスが大好きだよね。
- 父
- ま、まぁ、好きなタイプではあるけどな……
- 子
- ねぇ、面白かったよね。
父さんの好きな社会派みたいだったし。
- 父
- 確かにこの作品を額面通りのパニック・サスペンスだと思って観た人はいないと思うよ。
現代社会とか暴力、戦争を批判する程度にしか見ることができないんだったら大間違いだ。
- 子
- えっ、そうじゃないの?
- 父
- うん、そうじゃないんだ。
まずこの映画で最初に重要なのが、視界が真白になって見えなくなるという伝染病の発生だ。
「暗く」ではなくて「真白」っていうのはどういう意味だと思うマサユキ?
- 子
- 真白というのは「正しい」とか「心がキレイ」ということだね。
- 父
- そうだ。
それで目が見えなくなってどうなった?
- 子
- 車が運転できなくなって、飛行機も墜落したりして、交通が完全に麻痺した。
- 父
- そう。
でも、目の前が白くなって見えなくなったことでそうなったんだから、この映画ではそれが「正しい」ということなんだ。
そしてここでもやっぱりロックフェラーという名前を出さなければならないんだ。
- 子
- え〜っ、これも!
- 父
- うん、でもこの映画はロックフェラーを批判することによって、あることがが正当化されるという仕掛けもあるのさ。
父さんはフェルナンド・メイレレス監督には大きく期待していたんだけど、この作品でちょっと裏切られた感じだ。
前作の「ナイロビの蜂(2005年)」はすごく良かったと思ったんだが、原作者のジョン・ル・カレは元MI6の諜報部員時代からの作家だから、亡命した告発者じゃなくて明らかにロスチャイルド系の人間だ。
父さんはあの作品の中で出てくる製薬会社はイギリスの企業だと思い込んでいたから今までわからなかったんだけど、いろいろ調べてみたら、あれはドナルド・ラムズフェルドが元オーナーで現筆頭株主の製薬会社ギリアド・サイエンシズ社、そして販売会社のロッシュ(日本の代理店は中外)というロックフェラー系の企業だったんだよ。
それらの企業がアフリカで慈善事業に見せかけて人体実験をしていることを暴いた映画だったんだ。
ただ、この作品は良かったんだ。
欧米の支配勢力の双方の関係がどうであれ、事実を庶民が知ることは大切だから、ああいう暴き系作品は必要だと思うんだ。
- 子
- それじゃぁ、今回は誰がロックフェラーの役をやっていたの?
- 父
- 主役のジュリアン・ムーアだ。
最初から最後まで悪役として描かれているんだ。
あの人、最近はバッタみたいな顔になってる。
- 子
- うん、最後の方でスーパーで見つけた食料を独り占めしようとしている姿はホントに醜かったね。
- 父
- おっと、そこはちょっと後に話そう。
いちばん大事なシーンだからな。
- 子
- それじゃぁ、最初から話してよ。
- 父
- うん、目が見えなくなるところからだ。
結局、交通が麻痺するということは、どういうことかっていうと「地球の温暖化防止に繋がる」ってことなんだ。
視界が白くなったことによって「正常」な状態になったということなのサ。
そしてムーア(この作品は国名も役名も無い、ということは在るも同然)だけは目が見えるんだけど、それは結局、「正義」に目覚めてないってことなんだ。
感染者たちに紛れて、何故か収容所に入るムーアがしたことは収容者の手助けをする、即ち慈善事業だ。
収容所の中で独裁組織が出来ても、目が見えていて有利なムーアは武器があるのに敢えて使わずに、自分たち、被支配者側が極限の状態になって犠牲者が出るまで放置してから戦争のきっかけを作った。
- 子
- ロックフェラーは慈善家としても有名だし、太平洋戦争以来、戦争も仕組んできたからね。
- 父
- さらに重要なのはここでロックフェラーがナチスを支援してロスチャイルド系の富裕層を迫害したことをそれとなく暴いているように見えることだ。
まぁ、前半もこのようにわかり易いんだけど、面白かったのはムーアが8人くらいの仲間を連れて収容所から出てからだ。
外の世界はムーア以外はすべて目が見えない状態になっていたから完全にムーアの天下で、その決め手になったのが例のスーパーマーケットだ。
荒れ果てたスーパーマーケットでムーアは目が見えるから、食い尽くされた食料品のカラ容器と、その中から少しでも残った食料を求めてゴミを掘り返す貧しい盲たちの間をくぐり抜けて、誰も行き着くことが出来なかった地下倉庫を発見したんだ。
当然そこには大量の保存食が蓄えられていたのサ。
ムーアが何か食料を持っていそうなのを盲たちに感づかれて、ゾンビみたいに寄って来られたときの、それを追い払うムーアの鬼のような形相を醜く滑稽に描いているんだ。
- 子
- あぁそこの場面ね。
地下の食料は天然資源ってことだね?
- 父
- そうだ、石油だ。
あの世界では食料を手に入れた者の天下だから、収容所の配給食料も含め、この映画に出てくる食料を全部石油に置換えてみると筋が通るだろう。
醜い奪い合いばかりだったからな。
それがアメリカの石油メジャー、即ちロックフェラー財団による20世紀の石油利権に対する批判だ。
突然、目が見えるようになった伊勢谷友介(日本人)はムーアに心酔しきっているから死ぬまで何も疑わずに付いてゆきそうな感じだけど、ナレーションは、再び目が見えるようになることを「本当に目覚める」とか言っていたね。
食料と住居が確保されていたからムーアには誰も反発できなかったけど、目が見えることによってムーアが食料を独占していることがわかれば反旗を翻すことができると言っているんじゃないかな。
対等に食料を得ることができたらムーアに付いて行かなくてもいいってことなんだ。
ラストでムーアが白い空を見たとき、一瞬、自分も見えなくなった!
と思うシーンは、ちょっとした脅しだろうね。
オマエの時代は「もうすぐにでも終わるゾ」ってネ。
- 子
- だから、ロックフェラーを批判しているから、これもいいんじゃないの?
- 父
- いや、これはロックフェラーをモデルにしてアメリカの石油メジャーを批判することによって、地球温暖化問題のPRになっている巧妙なプロパガンダなんだよ。
環境問題っていうのは20世紀の石油ビジネスに代わって、既に新たなビジネスになっているんだ。
ロックフェラーも(また)アフリカで環境事業に進出しているから、そうなるともうロックフェラーとロスチャイルドの二極対立という話では済まなくなる。
なってもいない地球温暖化の認識が庶民に浸透したころには払わなくてもいい税金を払わされたり、企業も二酸化炭素排出を制限されたり、税金をかけられたりするから、無駄に物価が上昇することもあるだろう。
まったく害のない二酸化炭素を悪者にするより、ホントは自国や自分の地域の本物の有害排気ガスや産業廃棄物汚染や身近な自然破壊から人体や食料資源への実害を無くすことだけを考えたらいい。
それで同時に環境も良くなるってもんだろう。
個人主義が勝ることだってあるんだよ。
- 子
- ボクがオトナになるころにはどうなっているんだろうね。
温暖化どころか懐が冷え込んじゃいそうだね。
- 父
- 年寄り臭いこと言うんじゃないよ。
今はインターネットの発達で生まれつき頭の悪い父さんみたいな庶民でも学問への関心が貪欲になったし漢字も読めるから、本もたくさん読んで、情報を発信する。
そんな人達が増えるほど真実の勝利に導くことができると思うんだ。
あとは日本にもそろそろマシな指導者が現れてもいいんじゃないかな。
- 子
- そういえばムーアといっしょにいた眼帯の黒人はあの中ではいかにも真の指導者っていう感じだったね。
「ここにみんなでいることよりも、愛する人といることの方が大切だ」って言ってたから、盲で、しかも片目なのにいちばん物事が見えているってことだよね。
いい指導者になりそうだね。
オバマさんもそうなるのかなぁ?
- 父
- 無理だろうね。
あの選挙もやっぱりマスコミの勝利だ。
たぶん脇を固める閣僚たちはネオコン系だろうから操り人形だよ。
さっそく環境事業に乗出す意向を見せているし、アメリカ国内にも原発をガンガン建設するんだろうな。
- 子
- ……
- 父
- どうした、マサユキ?
- 子
- 今回はオトせそうもないんだけど。
- 父
- 別に芸人じゃないんだからオチなんて無くてもいいんだよ。
- 子
- ……
目の前が真白になってしまって……
- 父
- 今なんだか横から母さんのササヤキが聞こえたような……
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