「アクロス・ザ・ユニバース」 [☆☆☆★★★]
Text by Matsuyama
- 子
- 北京オリンピックやっと終わったね。
- 父
- あぁ、夏も終わりだし、寂しくなったねぇ。
- 子
- えぇっ?
ボクは中国なんて嫌いだし、オリンピックも早く終わって欲しかったよ。
開幕式だってあんな大勢の人の動きがピッタリ揃ってて気持ち悪かったじゃん。
あんなこと中国か北朝鮮しか出来ないってみんな言ってるよ。
- 父
- なぁマサユキ、そういう根拠のない批判をするのはよくないぞ。
あれがピッタリ揃ってなくてバラバラだったら、それはそれでまたバラバラだったって笑うんじゃないのか?
やっぱり中国人は雑だって、雑技団だって。
そうじゃないんだ。
世界中の人に見せるから恥ずかしくないようにって、あれだけ完成度の高いモノを作ったんだ。
日本もちょっと前までそうやってたし、入場行進もピッタリ揃ってた。
日本人だってああいうのは得意だったサ。
やれCGだクチパクだって、マスコミは一斉に揚げ足を取るばかりで、誰一人り少しも褒めようとしない。
父さんはそっちの「ピッタリ揃っている」方が気持ち悪かったぞ。
- 子
- わかったよ。
で、けっきょく何が言いたいのさ?
- 父
- 「愛こそはすべて」だ。
- 子
- そこから話を「アクロス・ザ・ユニバース」に繋いでいくの?
強引すぎない?
- 父
- うん、ちょっとな。
でも、この映画まぁまぁ良かったから、父さんが書くことなんてあまりないんだ。
他のサイトでいろいろ書いてる。
気になる人はそれ見たら十分だと思うんだけど、この映画には、役のキャラクターやエピソード、背景から小物にいたるまで、元ネタがあったりして、それを思いながら観るのも楽しいから、いちいちそれを説明するのは野暮なんだよ。
何も知らないで観に行くのが新鮮でいいと思うんだ。
観てる最中はわからなくても、800円でパンフレット買えば“トリビア”が細かく書いてある、野暮なくらいに。
- 子
- それだけ?
なんか面白い観方はないの?
- 父
- ないよ、やっぱりこの映画は普通に楽しんだ方がいい。
ビートルズが好きな人だけじゃなくて、60年代のファッションやアート、思想が描かれている。
ゴダール的なアプローチもあるし、寺山修司の「田園に死す」なんかが好きな人にもいいと思うよ。
- 子
- なんか歯切れが悪いような気がするんだけど……やっぱり言いたいことがあるんじゃないの?
- 父
- ……
実はな、この映画に怪しいヤツが紛れ込んでいるんだ。
- 子
- もしかして、ユ……
- 父
- あぁっ、ダメダメ言っちゃだめだ。
とりあえず“グラサン”とだけ言っておこう。
映画初出演らしいんだけど、なんで出て来たのかわからない。
こいつはロックフェラーのところのチンピラだからな、ホントのワルだ。
恐ろしい。
- 子
- どうして恐ろしいのさ?
- 父
- 恐くて言えないが、平和の使者のフリして「ナイロビの蜂(2005年フェルナンド・メイレレス)」や「ブラッド・ダイヤモンド(2007年エドワード・ズウィック)」の黒幕(のパシリ)みたいなヤツだ。
- 子
- じゃぁこの映画も恐ろしいの?
- 父
- いや、ゼンゼン生温い。
使い古されたネタで適当に自国批判しているだけだ。
アメリカ帝国主義と一緒に「“いちご”白書(1970年の映画)」で描かれたような学生運動、大学紛争の暴力も批判されているけど新しくはない。
今、学生運動やベトナム戦争ネタを持ち出すなら、あんな批判の仕方じゃダメなんだ。
冷戦構造の裏側や、学生を操ったヤツらがすでに明らかになっているのに、そこにまったく踏み込んでないから、単に音楽を利用して無知な民衆のガス抜きをしているだけなんだ。
自由だ、反戦だ、平和だ、愛だってメッセージの羅列が、どうも“グラサン”のキャンペーン映画っぽい。
だから政治的な要素と“グラサン”の存在をまったく無視して、単なる“オシャレ映画”として観たらいい。
紋切り型の青春ドラマだけど、ちょっと泣けるし、みんな歌も上手いし、相変わらずジュリー・テイモア監督の映像表現は素晴しい。
- 子
- じゃぁオススメ?
- 父
- あぁ、絶対のオススメだ。
「崖の上のボニョ」くらいオススメだ。
- 子
- ボニョじゃないよ、ポニョだよ。
- 父
- ボ〜ニョボ〜ニョボニョ……
- 子
- ボニョじゃないよ、ポニョだよ。
- 父
- ボ〜…………
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