マッチポイント [☆☆☆☆]
愛に負けるか。欲に勝つか。それでも人生は、運が決める——。ババーン!
淀川長治氏なら「完璧!」と涙したに違いない。…かどうかは確かめようがないのでどうでもいいのですが、ウッディ・アレンはあたかもヤング監督諸君に「キミたち、これが映画というものだよ。ふふん」と言わんがばかりの古典的演出を駆使し、ひとりの成り上がり者の物語を語るのであった。
『さよなら、さよならハリウッド』は「あんたはハワード・ホークスか?」と思わずツッコミを入れたスクリューボール・コメディ、今回はヒッチコックとかアンリ=ジョルジュ・クルーゾー風。すいません。知ったかぶりです。ともかく、これがめちゃめちゃ良い!
映画の冒頭、テニスコートの中央ネット上を行き来するボール、ネットにあたって垂直に跳ね上がるストップモーション。「向こう側に落ちれば勝ち、こっち側に落ちれば負ける、勝敗は運が決める」とナレーションが流れる。このボールの運動は映画の後半、主人公がテムズ川に向かって「指輪」を投げるシーンで反復されます。
で、私も思わずアッ! と(腹の中で)声を上げたどんでん返しにつながる。なんたる巧さか! O・ヘンリー短編を思わせるオチの見事さ。私もスレてますのでちょっとやそっとでは驚かないのですが、これにはたまげました。名人芸のミスディレクション。
ウッディ・アレン新境地…なんですけれど、いつものごとく主人公はやはりウッディ・アレンの強烈な投影で、がんがん言い訳しまくるのであった。ウッディ・アレンの「言い訳芸」、最高ですね。
主人公は、窮地におちいって素晴らしく自分勝手な解決法を取ります。その巻き添えになった被害者に詰め寄られ、「戦争でも関係のない人達がたくさん巻き添えになる」と、とんでもない言い訳をする主人公は、まさしくウッディ・アレン本人である! と、私は爆笑しつつ一人ごちたのでした。
また主人公は、アイルランド労働者階級出身、イギリスのブルジョア階級でぐいぐいのし上がっていきます。主人公はドストエフスキーを読みドストエフスキーの入門書を読み、オペラを愛する。この辺に、主人公が人種(民族?)コンプレックスの固まりであることが表わされており、そのへんもウッディ・アレンっぽい。…と思うわけです。
ここで描かれる浮気も犯罪も、主人公の身から出た錆です。それをあたかも、すべて「運が決め」たように語るところに、ウッディ・アレンのウソで固めた告白が見え隠れする…かどうかはどうでもよいのですが、老いてますます盛んウッディ・アレンさんには、こんな感じのクラシックな傑作を末永く撮り続けていただきたいと思うのでした。バチグンのオススメ。
Comments
投稿者 sawa : 2006年09月21日 14:12
ホント最高でした~!一秒たりとも気を抜かずに観た映画もひさびさ。最後の指輪のシーンにはまんまとはめられました~。水野晴郎もこれぐらいの大どんでん返しを作ってから、豪語してほしいものです。
投稿者 Ryo : 2006年09月23日 22:14
最近、レビューが続いて掲載されているので、嬉しくて、またコメントしてしまいました。
良質のサスペンスなのに、ウディ・アレンが撮ると、何故かコメディタッチになりますねえ。いや、いつも通りで安心して楽しめました。
スカーレット・ヨハンソンも綺麗に撮られていましたし、女優冥利に尽きるんじゃないでしょうか。
投稿者 baba : 2006年09月24日 22:56
>sawaさん
イヤホンと。最近の映画には珍しいくらい、最初から最後までくまなく面白かった! です。どんでん返し、鮮やかでしたー。
>Ryoさん
いやほんと、微妙なユーモアの具合が素晴らしかったです。スカーレット・ヨハンソン、久々に(『ゴーストワールド』以来?)良い、と思ったのでした。
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