やさしくキスをして [☆☆☆★★]
私が信じるもの あなたが信じるもの。アイルランド人の音楽教師とイスラム系移民二世のDJ、二人がたどったあまりに切なく美しい愛の奇蹟。ババーン!
毎年のようにケン・ローチ新作が劇場で見られる私は、なんと幸せな時代に生きているのであろう、たとえそれが京都シネマのミニミニスクリーンだとしてもだ! ってよくわかりませんが、新作はラヴストーリー。舞台はグラスゴー。音楽教師ロシーンと、パキスタン移民カシムの恋物語を描きます。
筋立ては古典的、さながら『ロミオとジュリエット』のごとく、恋愛に、「家族」という障害がたちはだかりますが、それはイスラム教とキリスト教の対立という、アップツーデートな問題をはらんでおります。
これが類型的ラヴストーリーなら、「男女の恋愛」こそ至上のもの、「宗教的断絶」「親の反対」なぞ意に介する必要なし! と宣言しておけば普通に感動的なお話となるところ、ケン・ローチ作品では、そう簡単に結論が出るはずもなく、そこんところの宙ぶらりん感が素晴らしい…とごちました。
カシムはパキスタンからの移民一家長男、イスラム家族にあっては、一族郎党の紐帯が何よりも大切にされており、会ったことのない従姉妹をめとることが定められています。父親は、長男の結婚にそなえて住居を増築したりして。それが、あろうことか、長男は白人バツイチ女性とよい仲になってしまう! それは、長男の結婚を夢見てきた両親にとって、全人生を否定されてしまったようなものだ! バチアタリめが!! と、思わず父親に肩入れしてしまったのですが、冒頭、雑貨屋の看板に犬が小便するのを電気ショックで防ぐユーモラスなスケッチや、父親が双子兄弟と生き別れた話…など、パキスタン移民の生活・境遇・歴史が説得力もって描かれてまして、パキスタン移民に対して、並々ならず丁寧なリサーチがおこなわれたことがうかがわれるのであった。
監督ケン・ローチ+脚本家ポール・ラヴァティは、カシムが直面した「家族をとるか? 白人娘を選ぶか?」という難問に解答を与えるわけでなく、きっとカシムはフラフラと永遠に悩み続けるのであろう…と思わせる結末、価値判断は観客・私にゆだねられております。
結末がちょっと甘いかしら? 『ケス』『カルラの歌』『マイ・ネーム・イズ・ジョー』『ナビゲイター』みたいな、映画を見終わって味わう「どん底気分」が大好きな私には、少々物足りないかも? と思わないではないですが、観客・私に即答不能な問いを投げかけてくるのはさすが、ケン・ローチである。うーむうーむ、と私は茫然と考えこんだのでした。バチグンのオススメ。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
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