キル・ビル Vol. 2
これでいいのか!? ババーン! 残念なことに、私はダメでした。以下ネタバレ有り。
ダメといっても『Vol. 1』を面白く見過ぎてしまい、そうなると『Vol. 2』に期待が高まるのが世の常人の常、面白さの予想を下回ったからといって映画に罪はないのです。そもそも映画に何らかの期待を抱いた私が阿呆なだけでございます。と、申しますか、『Vol. 1』がダメだった人はお楽しみいただけるのではないでしょうか。
と、ゆっても、『Vol. 2』も大方のところは楽しく拝見させていただき、特に主人公ザ・ブライドがカンフーの達人パイ・メイの下で修行するシーンは、こめかみがキーン! とするほどの興を催したのでございますが、やはり、映画はクライマックス、ラストが面白ければそれでよし、しかしこの『Vol. 2』、ザ・ブライドがいよいよ宿敵ビルと対決! ババーン! と大盛り上がりして欲しいのにですね、迎え出たのは娘と遊ぶマイホーム・パパ!! これでいいのか!?
しかも、ビルと来たらいきなり「スパイダーマン、あるいはバットマンとスーパーマンの違いがわかるか?」と、どうでもいいシャベクリを始める始末。これでいいのか!?
…って、登場人物がどうでもいい話をするのは、タランティーノの持ち味、また、アンチクライマックスな作劇法もタランティーノらしいのですけれど、『Vol. 1』は、エクスプロイテーション映画にオマージュを捧げまくった、エクスプロイテーション映画の定型に乗っ取った作品でしたのに(よく知らないけど)、『Vol. 2』はいつものタランティーノ節に戻ってしまった、という印象です。
『パルプ・フィクション』以降、映画の中の人が無駄話をするケースが増大した、と感じるのですけれど、無駄話はやはり無駄ですから、出来るだけ削って映画は 90 分以内にまとめていただきたいと思うのです。映画の中の人が、映画の中でダラダラおしゃべりをするとは、授業中に生徒が好き勝手におしゃべりする「学級崩壊」みたいなもんで、いわば「映画崩壊」、映画の中の人が無駄話をしてしまう「映画崩壊」の引き金を引いたのがタランティーノだったわけですね。
『Vol. 1』は、無駄話を極力排して、アクションでストーリーを繋いでいくのがタランティーノにとっては新機軸で素晴らしく、タランティーノも、これまでの無駄話を反省し、映画の原点回帰を果たしたかのように見えたのですが、結局我慢できずにべらべらしゃべり始めてしまった…という印象です。
というか、『パルプ・フィクション』でのトラボルタやサミュエル・L ・ジャクソンのシャベクリは、「話芸」として成立していましたから、無駄話は無駄ではなく、それこそが見せ場のひとつだったのですね。トラボルタもサミュエルも、ちゃんと観客の反応を確かめながらしゃべっている感じでした。また、タランティーノ(+ロジャー・エイヴァリー)による脚本のセリフを、あたかも俳優自身が勝手に変えて、アドリヴでネタをかましているかのような感じが良かったわけです。
しかるにデヴィッド・キャラダインや、ダリル・ハンナはそこまでの余裕がなく、いかにも「タランティーノが書いたセリフ」のまんま、って感じで、面白いけれども少々つらいのでした。
また『Vol. 1』のころころ変わる映像スタイルは、観客にあの手この手で楽しんでいただこうとのサービス精神を感じさせるし、タランティーノの普段のスタイルを覆い隠す効果があったわけですよ。しかるに『Vol. 2』は、スタイルの変化が徐々に乏しくなり、セリフがやたら増えて結局いつものタランティーノ。
いや、いつものタランティーノなら、まだ良いのです。ビルのシャベクリはいつものタランティーノらしからぬシャベクリではないでしょうか?
『パルプ・フィクション』のチーズ・ロワイアル談義、あるいは『レザボア・ドッグス』マドンナ論争などは、凶悪なギャングどもがそういう阿呆な話をしているところに、おかしみが生まれていたのですが、『キル・ビル Vol. 2』のアメコミ談義は、ザ・ブライドに対するビルの心象表現となっており、アメコミの話で婉曲に表現したつもりでしょうけど、ザ・ブライドに対する感情が熱く語られてしまっております。タランティーノらしからぬどころか、前作で「冷酷無比」として立てられていたビルのキャラクターが、ぺしゃんと崩れていると思うのですよ。
『キル・ビル』物語の柱=「復讐」はどこかへ行ってしまい、結局「ラヴ・ストーリー」にまとまってしまっているのであった。って別にかまわないのですけど、ザ・ブライドとその娘がうきうきドライヴするシーンで終わってよいのか? 語はまだ終わっていないのではないか? ザ・ブライドは『Vol. 1』冒頭、ヴァニータ・グリーン母娘の幸せな家庭をぶちこわしているわけで、自分だけこれから楽しく娘と余生を過ごすなんて許されないはずです。ヴァニータ娘は復讐する権利を持ち、ザ・ブライドは復讐されなければならないのでは? ネタ元のひとつ梶芽衣子主演作のように。……と釈然としないわけでございます。
復讐が、新たな復讐を生む、憎悪の連鎖をいかに断ち切るか? そのへんに『キル・ビル』のアクチャルなテーマ性がある、と勝手に思っていたのですけど、結局、アメリカの自分勝手さ・傲慢さ・鈍感さが勝利を収める、ってことでいいのか!? と一人ごちたのでした。
そんなことはどうでもよくて、中国での修行シーンは最高! ダリル・ハンナ扮するエル・ドライヴァーのビッチな感じ、マイケル・マドセンのダメ男ぶりも素晴らしいのでオススメです。
☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)
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