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 Movie Review 2004・5月7日(Fri.)

真珠の耳飾りの少女

 謎の天才画家フェルメール…美的感性を持った使用人……心まで描くの…。ババーン!

 フェルメールといえば、圧倒的な描写力を持つ 17 世紀オランダの画家、室内画における照明法は、映画の照明・撮影においても、たびたび参照されてきたようです。太陽の自然光が左側から差し込む照明は、確か「フェルメール光線」と呼ばれる、と漏れ聞きます。ゴダールはよく「フェルメール光線」を使っておりますね。

 そのフェルメールの絵画を材に取り、あまり人となりに関する資料が残ってないらしいフェルメールの生活を大胆に想像し、一ヶの物語が仕上げられております。トレイシー・シュバリエの原作は、海外ではベストセラーになったとか。

 画家フェルメール(コリン・ファース)は入り婿で、奥さんに頭が上がらず、パトロンは俗物、身分の低いお女中(スカーレット・ヨハンセン)だけが、当時の「現代美術」であったフェルメールの絵画を理解しております。やがてフェルメールはお女中をモデルに、『真珠の耳飾りの少女』を描く…というお話ですが、そんなことはどうでもよくて、って、どうでもよくないのですが、この作品が凄いのは、フェルメールの絵画世界を、忠実に、完璧に再現することが目指されているところで、あたかもフェルメールの絵画が動き出し、ふと観客私は絵画に入り込み、フェルメールのアトリエを歩き回っているかのような錯覚におそわれたのでした。江戸川乱歩の『押絵と旅する男』に登場する押絵を覗き見たかのような、不思議な感じです。

『真珠の耳飾りの少女』の舞台裏が語られ、すべての映像と物語が、ワンカットに収斂していきます。スカーレット・ヨハンセンが頭に青いターバンを巻く、振り向き気味にカメラを見つめる、唇を半開きにする、真珠の耳飾りをつける……少しずつ『真珠の耳飾りの少女』の活人画が完成していく、その過程が圧倒的にスリリングであり、ここには、映像のスペクタクルが存在している、と私は茫然と一人ごちたのでした。

 と申しますか、完璧に仕上げられた映像を見る喜びがあります。タルコフスキーやキューブリックの映像を見るときのような感じ? 映像だけが美しい作品はよくありますけど、ストーリーと密接に結びついているのが気色よいです。

 私の場合、フェルメール絵画の実物は未見、画集の複製もあまりまじまじ見たことがないので、映画を見た後に『フェルメールの眼 赤瀬川原平の名画探険』を見返したりしたのですけど、あらためて映画『真珠の耳飾りの少女』における、アトリエ再現ぶりのもの凄さに恐れ入りました。窓枠から、家具の細部まで絵画そのまんま、そればかりかスカーレット・ヨハンセンが見上げた空の雲まで、フェルメールの風景画『デルフトの眺望』の雲にそっくりだったりして、私はほとほと感服つかまつったのでした。

 監督は、今作が長編デヴューのピーター・ウェーバー。フェルメールのアトリエの映像はフェルメール風ですが、街の民衆はブリューゲル風だったり、とにかく監督を始め美術、撮影スタッフの、絵画に対する愛が溢れまくった逸品でございます。ぜひ事前にフェルメールの絵画を、画集などで見返していただくとモアベターよ。バチグンのオススメ。

☆☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-may-5
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