電車にて(その3) [生活]
イタリア語では車掌さんのことをコントロローレと言います。コントロール(=チェック)する人なのです。ということで今回は「電車にて」の最終回です。
ミラノまであと5駅、4駅、3駅…。まだ現れません。この感じからすれば今日はもう車掌さんは本当に来ないんじゃないでしょうか。あと2駅。いいぞ、この調子この調子。 だがその時!
ガラッ!
車両の引き戸が開き、「切符を拝見~」という声がしました。ドビーン。やっぱりさっきの人が車掌でした。
彼はすぐに私を見つけるなり両肩をすくめました。このジェスチャは「見つけちゃった」の意なのか、もしくは「年貢の納め時が来たな」でしょうか。それとも「ジャワカレー辛口、あれはやりすぎだ」を暗示しているのでしょうか。
しかし私は、さっさと財布を取り出して1.9+5.0=6.9ユーロを支払うなんてことはしませんでした。実はここからが勝負なのです。おしゃべりをどういう方向に持って行くか、これに全身全霊を傾けなければなりません。そして最終的に一つのフレーズ「ノン・ファ・ニエンテ(大丈夫だよ、いいよ、見逃しておくよ)」を言わせるのです!
彼の目をまっすぐに見つつ、私も両肩をすくめてみました。「そりゃあ規則なんだったら仕方ありませんし、手数料だか罰金だか知りませんが5ユーロを払ってもいいですけど、時間が無くて切符が買えないなら罰金を払えっていうのは何か変な感じがしますけど、これ、いかがなものでしょうか」という気持ちを込めて。
「規則だから仕方ないんだよねえ」
車掌さんは先程と同じことを繰り返しました。
「そりゃそうでしょうけど。でもねえ…。そんな規則知りませんでしたし…」
言葉を濁してみると、
「まあねえ、それより切符を先に買いだめしておいたらいいんだよ。ペラペラペラ」
「あ、そうなんですか。切符って何枚か買っておいてそれを使っていくこともできるんですか?」
「ペラペラペラ、そうさ。買った日から3ヶ月は有効なんだよ。だから、何枚か先に買っておいてそれをちょくちょく使えばいいんじゃないのかな、ペラペラペラ」
「あら、それは知りませんでした。3ヶ月間使えるんですか。意外に長いんですねえ!」
「ペラペラペラ。そうだ。3ヶ月だよ」
相手が勝手にお喋りする、いい雰囲気です。(ちなみに「ペラペラペラ」は、“あんまり分からないけど何か喋ったはる”部分です)
「で、往復の切符ってありますよね。あれの『行き』だけを使った場合は、『帰り』はどうなるんですか?」
と、会話を長引かせてみます。
「うん、その場合はね、『帰り』だけ取っておいて、有効期限の期間内に使えばいいんだよ、ペラペラペラ」
「へえー。それはけっこう便利ですね。毎回買わないといけないと思ってました。じゃあ次からは買いだめするようにしておきます。そうしたら今日みたいにならなくていいし」
「そうしたらいいね。ペラペラペラノンファニエンテ」
…ん?
「次からはちゃんと切符を持って電車に乗ってね、ペラペラペラ」
キター!!!!
車掌さんは妙に嬉しそうに去っていきました。1.9ユーロの乗車券代も取らずに。ミラノまで0ユーロ。Yeah!
イタリアってこういう交渉の余地があるところが、好き。
Text by power
Comments
投稿者 トモコ : 2008年10月24日 12:37
パワーくん、こんにちは。
車掌さんとのやりとりは、読んでいるわたしもドキドキしました。そしてこんな胸のすく様な結末が待っていたとは。
日本の生活にはない、この感じが好きです。いつもの電車に私も乗ってみたい。
投稿者 パワー : 2008年10月24日 13:40
トモコさん、こんにちは。
いつもがいつもこう上手くいくわけではないんですが、「ダメ」と言われてもこちらが焦らず、もじもじしていると、「仕方ない、こうしよう」に変わることが結構あるんです。面白いもんです。
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