スパイダーマン2
/Vol. 2
さて。「正義の味方」業に疲れ切ったピーター・パーカー、ストレスが高じ、スパイダーパワーを失ってしまい、「もう、スパイダーマンにはならない! No more!」と決心、すると、いきなり“ミーイズム”に転向するのであった。「ミーイズム(meism)」とは、「自分以外のものには目を向けないという、自己中心主義。一九六〇年代のアメリカの社会活動世代に対し、七〇年代の風潮を背景に生まれた考え方」(『広辞苑 第五版』)でございます。
ピーター・パーカーは、ミーイズムで自分の生活を立て直したのはいいけれど、市民が暴漢に襲われている現場に通りすがっても、見て見ぬふりをする始末。「大いなる力を持つものは、大いなる責任を負う」のならば、「力がない者は、無責任でいいはず!」というわけですね。
この、ピーター・パーカーがミーイズム生活を満喫するシーンのバックに、ご存じ『明日に向かって撃て!』の主題歌『雨にぬれても』が流されるのが、皮肉っぽくて可笑しいですね。なるほど、『明日に向かって撃て!』とは、ワイルド・バンチの残党が、市民の責任が求められる近代社会から逃げ続けるお話、ミーイズム・リベラル映画なのであった。
閑話休題。ミーイズムに転じたピーター・パーカーでしたが、やがて卒然と、やむにやまれず、「本当の正義」を発見する。非力であっても、たとえば決死の覚悟で火事場に飛び込み、子供を救おうとするのが「正義」なのではないか? すなわち、「大いなる力を持とうが持つまいが、市民一人ひとりが大いなる責任を負わねばならない」。
ピーター・パーカーは、愛する MJ (キルスティン・ダンスト)に危機が及ぶに至り、猛然とスパイダーパワーをよみがえらせ、悪役ドック・オク(蛸博士)にたち向かいます。
悪役ドック・オクが、電車を暴走させ、スパイダーマンは捨て身で市民を守ろうとするシーンがあります。ボロボロになったスパイダーマンの素顔を見て、電車に乗り合わせた市民たちは、「まだ子供じゃないか!?」「うちの息子とそんなに変わらない!」と大いに感銘を受ける。
この後に続くのが、この続編で最も感動的なシーンではないでしょうか。スパイダーマンは気絶しまっており、無名市民たちは、迫り来る悪役ドック・オクに対し、「ここは通さないぞ! まず、私を倒せ!」「私も、ここを通さないぞ!」と、次々に立ち上がる! 私は、茫然と感動の涙を流したのですが、市民たちは一瞬のうちにドック・オクに倒されてしまう! …大笑いしてしまいました。
スパイダーマンを守るため立ち上がった市民たちは、その瞬間において「ヒーロー」となった。力のあるなしに関わらず、名もなき市民一人ひとりが、ヒーローになれるのであります。その姿は美しく感動的ですが、非力さは否めず結局コメディとなってしまう……。確かに、「力無きヒーロー」は無力である、というのがリアリズムであります(トートロジーか?)。しかし、力が無くても、立ち上がった市民の姿は尊いのだ、と私は一人ごちたのでした。
ネオコンとは、そもそもアメリカ左翼が「力無き正義は無力」と挫折し、「力を得てこそ正義がおこなえる」と産軍複合体に接近、共和党に潜り込んだ一派だそうですが、この続編では、前作が提示した「大いなる力を持つ者は、大いなる責任を負う」というネオコン擁護の論理を批判し、力の有無と、正義は分離して考えるべきだ、と主張するのであった。
この『スパイダーマン 2』は、「正義」とは何なのか? そもそもヒーローは、何のために存在しているのか? など、ヒーロー物語を語る上で避けられない問いに正面からぶつかり、思考を深め、今日的な説得力あるヒーロー像を描きだすことに成功しております。
そんなことはどうでもよくて、色んな読み方のできる、大作アメリカ映画にしては近年まれに見る含蓄のある脚本で、脚本は、なんとアルヴィン・サージェント! 1931 年生まれ超ベテラン脚本家、日本で言えば新藤兼人が『CASSHERN 2』の脚本を書くようなものか? ってよくわかりませんが、アルヴィン・サージェントは『ジュリア』(1977 年:フレッド・ジンネマン監督)、『普通の人々』(1980 年:ロバート・レッドフォード監督)、『ナッツ』(1987 年:マーティン・リット監督)などの脚色・脚本を担当、「リベラル」というよりは社会主義的な左翼と推察いたします。この『スパイダーマン 2』は、社会主義左翼が、ネオコンとリベラルをまとめて批判した作品と言うことができます。か?
ちなみにアルヴィン・サージェントが製作総指揮をとった、『靴をなくした天使』 (1992 年:ダスティン・ホフマン主演/スティーヴン・フリアーズ監督)は原題「The Accidental Hero」、これまた「現代におけるヒーローとは?」という問いを追及した作品でしたね。と、いうことはおいといても、『靴をなくした天使』は隠れた傑作、バチグンのオススメ(☆☆☆☆★)。
閑話休題。CG アクションも、『ハリー・ポッターとアズガバンの囚人』同様、俳優の生アップがうまく挿入され、前作よりは随分マシとなっている、とはいえ CG 丸出しなところは萎え萎えです。思うに、スパイダーマンがぴょんぴょん飛び跳ねるなら、カメラはなるべく固定した方がよいのに…と、素人目には思える。
と言いつつ、例えばスパイダーマンがピザ宅配に奮闘するのは「ペプシマン」っぽくて笑えますし、コスチュームをコインランドリーで洗ったら…というのもペーソスあふれてグーでございます。
また、さすがは『死霊のはらわた』のサム・ライミ、悪役ドック・オクが某研究所を襲うシーンなど、ホラー演出バリバリで結構恐いです。約一ヶ所、全身が総毛立ち、思わず劇場から逃げ出したくなったシーンがありまして、ネタバレですが、MJ (キルスティン・ダンスト)が「チュウして…」と唇突き出しドアップで迫り来るカットは本当に恐かったです。サム・ライミはついに映画史上最高の恐怖シーンを生み出してしまったのではないかーー!? と一人ごちました。
さらにネタバレですが、MJ は宇宙飛行士と婚約、しかし式当日にウェディングドレス姿で逃走します。ピーター・パーカーは『明日に向かって撃て!』的ミーイズムを脱したというのに、やれやれあんたは、独り『卒業』(1967 年・マイク・ニコルズ監督)ですか? と、そのズレ方にズッコケました。ピーター・パーカー=スパイダーマンと知るや、宇宙飛行士をあっさり見限る MJ の冷徹な行動原理は、元ハイスクール・クイーンの面目躍如、この辺は、サム・ライミの怨念が表れているに違いない、と一人ごちたのでした。
よくわかりませんが、近年続々と作られるコミック・ヒーロー映画、ついに金字塔が打ち立てられた! …かも? そんな感じでバチグンのオススメ。
☆☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)
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