バールにて [生活]
ヘッドホンで音楽を聞きながら仕事をしていたところにKKちゃんがやってきて、 「どうかな、これ」 と、新しく購入したらしい帽子を指さしました。見たところなかなか深い味わいのある帽子だったため、どう返答したものかと思い迷っていたら、出し抜けにカンカンになって去っていきました。
私がちょいちょい通るレプブリカ駅付近の道路沿いに、一軒のバールがあります。そこではルーマニア人のお姉さん、年の頃は30~40くらい、が一生懸命に働いています。
2ヶ月ほど前になるでしょうか、そのバールでコーヒー(Caffe')を飲みながら彼女と少し話をしました。
「どこから来ているの?」
「日本です」
「イタリア語、上手いじゃないの」
「ありがとう。すぐそこの語学学校に行ってるんですよ」
「そう。実は私も外国人なのよ」
「どこの国?」
「ルーマニアよ。10年くらい前、仕事のためにイタリアに移住してきたの。」
「仕事の調子はどう?」
「バールでの仕事が終わったら、家でも働いてる。人生って楽じゃないわ」
なんてことをお喋りしたのです。
そして今日、再びそのバールに入ってみました。
「チャオ!」
「チャオ!」
「マロッキーノを一つお願いします」
「マロッキーノね」
「僕のこと、覚えてますか?」
「もちろんよ。確か、日本人よね」
このように呼ばれた時、私は少しだけ返答の仕方に気を遣います。なぜならば、「日本人です」という表現は、「中国人ではありません」という裏の意味を持つ可能性があるからです。そこで慎重に、次のように返事してみました。
「そ。アジア人です」
これに対して彼女は、間髪入れずに言ったのです。
「アジアか。素敵なところね!」
アジア=素敵なところ。私は、のどが渇いて渇いて仕方ない時に一杯の冷えた水を差し出されて飲んだかのように爽快な気持ちになりました。
イタリアには衆多の中国人がいます。そのパワーがイタリアを席巻しているためか、彼らに対して複雑な感情を抱いているイタリア人も多くいるのです。はっきり言えば、差別している人も多くいるのです。ややもすれば、私たち日本人も 「顔は似ているかもしれませんけど、私は中国人なんかじゃないですよ、日本人なんです」 なんていう差別意識を持ちかねません。(私が思うに、中国人は日本人よりもよっぽどにこやかで温かくて気持ちのよい人たちなんですけど。)
私が黙っていると、ニコニコしながら彼女は、
「ねえ、オバマについてどう思う?」
と尋ねて来ました。
・・・・・・・
KKちゃんに謝らねばと思って話しかけに行ったら、さも楽しそうにブラックジャックを読んではりました。帽子のことは何も気にしていなかったみたいです。なぜ私は間髪入れずに 「おっ、素敵な帽子だね!」 と言えなかったのでしょう。
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