レンタカー「AVIS」のリーフレット

　オラ。まずお断りしておくと、恥ずかしながら筆者私は 4 輪車の運転ができないのだ。マリョルカ島横断ドライブの運転は T 子さんにおまかせするしかない。彼女は国際免許証を持っているとはいえ、海外で運転するのは初めてだ。おまけに、クラッチ操作をともなうマニュアル車の運転は、彼女にとって教習所を卒業して以来初めての体験なのだ。

　オートマ車は借りられないのでしょうか？　スペインはほとんどマニュアル車なのでした。交通法規については「車→右側通行」くらいしか知りません。…無謀でしょうか？　結論をいえば無謀でした。

　バタンとレンタカーに乗り込み、エンジンをかける。ぶるるん。おや、T 子さんが小声でつぶやいています。「…えーっと、これがアクセル、これクラッチ？　…と、いうことはこれがブレーキ？　指示器は……あらこれワイパー」。…かっちゃこーん、かっちゃこーんと左右に揺れるワイパーを見ながら、私は漠然とした不安に駆られる。

「あれー、バックにギアが入らへんわ、……ぎこぎこ……入らへんわ。ちょっとオバサンに聞いてくる！」…不安。

　オバサンやってきて、これがこうでこれこれこう、と説明を受け、「オッケー。バッチリ。出発！」……ぐわわわーん、ぐわわわーん。…なんか停止したままものすごくエンジンが回ってるんですけど…。がちゃ。ききききーきゅるきゅるきゅるとタイヤから白煙を吹き出して猛発進。なんだか焦げ臭いや。

　一路パルマからポルトクリスト Port Cristo をめざす。しばらくは快調に走るも、上り坂にさしかかって、がくがく、ぷっすんエンスト。うわーい、坂道発進ですね！　うーむ、スリリング。……こんなことなら私も、クルマの免許を取って、マニュアル車での坂道発進くらいお茶の子さいさい状態にしといたらよかったかな？　…この瞬間、私は無力の王となった。われとわが身のふがいなさを呪い、ジッと手を見る……はっ。生命線が薄い。…最後に生命線を見たのはいつだったでしょう？　あれはおととし寒い冬の朝でした…と呆然と回想にふけりつつマリョルカ島横断ドライブは続いたのであった。…レンタサイクルにしといたらよかった。

　次回「ドラック洞窟」。アスタ・マニャーナ。