リトル・ヴォイス
今回は思いっきり内容に触れているので注意。『リトル・ヴォイス』ってなんでしょ? 大好きな父親が死んで以来誰ともしゃべらなくなった主人公のあだ名で、略して LV 。淫乱な母親にスポイルされ続ける LV にも取り柄があって、父親がコレクションしたレコードを繰り返し聞くうちに、それらを恐るべき正確さで歌うことができるようになったのであった…。
とにもかくにも、LV の歌が凄いのである。驚くべきことにジェイン・ホロックスという女優さんがすべて自分で歌っている。ジュディ・ガーランド、マリリン・モンローらの名曲を歌い、『オズの魔法使い』『お熱いのがお好き』のセリフをモノマネするのであるが、メチャクチャうまい。寒気がします。これは一見の価値あり。原作は「The Rise And Fall Of Little Voice」という舞台劇で、なんでも作者が J. ホロックスのモノマネの才能に惚れ込んで書き上げたものらしい。さもありなん。ビックリしまっせ。J. ホロックスのステージを見逃すなかれ。
LV の淫乱な母親を演じるのは『秘密と嘘』でスーパーリアリズムな演技を見せたブレンダ・ブレシン。今回も凄いぜ。子どもの才能を一切認めない、男の尻を追っかけ回すという典型的ダメ母なのだが、B. ブレシンが演じると「そのような性格に生まれついてしまった悲しみ」のようなものが立ち現れ、たまらん。LV の心を開いていくことになる内気な鳩好きの青年を演じるのは、はははははははは。笑ってしまいましたがユアン・マクレガー。七三分けがナイス。おまけに LV の才能を発見し、なんとか芸能界デビューをさせようと奔走する落ちぶれマネージャーを演じるのがマイケル・ケイン。…と、具合に考えようによっては見どころ満載の豪華キャストだ。
監督は『ブラス!』のマーク・ハーマンで、『ブラス!』といい、今作といい、「あんたはイギリスの山田洋次か?!」とツッコミを入れたくなるくらいシミジミとワーキング・クラスの悲哀を描きます。
ラストが少々あっけない気がする。物語としての構成を優先させたためだが、中盤の LV のステージが全体のバランスを壊しまくるくらいのインパクトなのだから、エンターテンメントに徹して最後にもう一節聞かせるべきであろう。LV =ジェイン・ホロックスというのは、例えばダーティ・ハリー=イーストウッド、ジェームズ・ボンド=ショーン・コネリー、車寅次郎=渥美清クラスの当たり役だと思うので、ぜひシリーズ化していただきたい。その際には向かいのおばちゃんも絶対出演してね。ともかくオススメなれど、オリジナルのモンロー(マット・モンローぢゃないよ)、ジュディ・ガーランドくらいは聞いとく方がベター。
BABA Original: 1999-Sep-15;