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Movie Review 1999・9月07日(TUE.)

オースティン・パワーズ・
 デラックス

 前作に勝るとも劣らぬ傑作。この 20 世紀末に最もよく時代と切り結んでいる最高の映画の一本と断言しておこう。

 一般的に「おバカ映画」というレッテルを貼られているようだが、おバカ=道化(ワイズフール)という意味でならその通りなのだけれど、パンフレットに寄稿している高橋幸宏や川勝正幸などという「単なるバカ」が言っているような、無意味でオタッキーでバカ騒ぎの映画、という意味でのレッテルなら、それは違うであろう。先にも述べたように、これは現代という腐った時代と果敢に闘っている、志の高い映画なのだ。

 それは一作目からそうだった。一作目のラストでのドクターイーブルとオースティン・パワーズの対決シーンのセリフに、それは端的に表われている。ドクターイーブルは言う。君達のやった 60 年代革命は退廃しかもたらさなかった、現在の世界の荒廃ぶりを見ろ、と。それに対してオースティンは答える。いや、それは違う、確かに僕達は若かったから過ちも犯したがそこから責任という事を学んだ、現在は自由と責任の時代、素晴しいじゃないか! 世界を悪くする奴は昔から金と権力に妄執する連中だ! イエー!! と。

 正にその通り。90 年代末の現在は世界的に保守化が強まっており、特にアメリカでは 60 年代に行われた数々の革命、セックス革命やマイノリティの権利獲得、平和の下で若者達が自由に楽しむ権利、などを全否定しようとする声が強い。それに対してマイク・マイヤーズは闘いを挑んでいるのだ。鉄砲や核兵器などという無粋なものではなく、「笑い」という最大の武器によって。ほらほら、男がフリフリチャラチャラとした格好をしてお洒落に身をやつし、女はドキっとするようなミニスカートなんかでセクシー&キュートにキメて、警官までも巻き込んで道の真ん中で踊り狂うなんてのは素晴しいじゃないか!! これほど過激な映画はちょっとないんだぜベイビー、イエー!!

 今回の「オースティン・パワーズ・デラックス」でもその闘いは続行されている。基本的には前作と同じ事をしているのだが、よけいな説明をしなくてよくなった分、スピーディーで深くなっている。(その分、前作を観ていない人には分かりにくい部分があったかも)

 60 年代の沸き立つような自由の感覚と現在が対比され、お互いが鋭く批判しあって、過激な笑い=批評が行われるのだが、そのいちいちについて書くのは野暮でもあるし、ネタばらしにもなるのでやめておく。ただ、ひとつだけ述べたいことがある。それは性器を様々な物品できわどく隠したり、隠語を文脈をずらす事で次々と言っていったりするギャグの事で、これは前作から引き継がれたものだが、これを面白くないとか、しらけるとかいう意見が周りに結構多かったのだ。しかしここで誤解を恐れずにはっきり言うが、そんな事をいう人間は「鈍い」のだ。面白さというのは趣味の問題だ、と言う人もいるかと思うが、「趣味」など時代とその人の能力によって規定されている。つまり趣味の悪い人間というのは、時代に対する感性が鈍いか能力が足りないか、そのどっちかあるいは両方なのだ。その事について説明する。

「F**K」などという伏字を使った表現が多いことからも分かるように、アメリカは性に対するタブー意識が依然と強い。故にこのギャグはタブーに挑戦・揶揄する闘いなのだが、性に関するタブーがあまりない日本ではこの事は少し分かりにくいかもしれない。しかし性以外の事なら日本には驚くほどタブーが多いのだ。日本は実質的に自由な表現活動は出来ない国なのである。しかし完璧に自由な表現活動のできる国などないであろう。どの国にもタブーはある。そして良質な表現者はそのタブーと常に闘い続けているものなのだ。日本という国の恐ろしさは、意識的なごく少数の人を除いて、みんなその事実を分かっていないという事である。なぜなのか。伏字があればそこにタブーがある事はわかる。が、現在の日本には伏字がない。これはタブーがないからではなく、「自粛」という陰湿な制度のせいなのだ。「自粛」という陰湿な制度によって日本人は去勢され、「鈍感」にさせられてしまったのだ。

 現在、国民総背番号制につながる数々の恐ろしい法案が成立していっているが、この事に「鈍感」な人間が、オースティン・パワーズで笑えるわけがない。まだ「オースティン・パワーズ・デラックス」を観ていない人は是非観にいってほしい。そして面白さが分からなかった人は自らの鈍感さを鋭く恥じてほしい。「鈍感」な人間というのは、常に時代の犯す犯罪の共犯者なのだから。

 な〜んて真面目にキメちまったぜいベイビー、イエー!!

オガケン Original: 1999-Sep-07;

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