黒猫・白猫」
エミール・クストリッツァ監督
最近、ネガごと地面に埋めてしまってください、といった映画が多かったが、本作はちょいと出来が違った。回転ブランコの下をスクーターで駆け抜ける絵に心躍るおどる。ガキんこがおっちゃんのハゲ頭をしばく場面にほほが緩むゆるむ。ドナウの旋律にのってゆっくり進む客船が宇宙船とだぶり、思わずガッツポーズの連続。そうか、時空を越えていたのは『マトリックス』じゃなかったんだ。はは、なんだかね。素晴らしい。
とにかく脱帽、白旗。参りましたの面白さ。まあかなりの人が絶賛してるようだけれども、期待に違わなかった久々の映画だったし、何度も観たくなるような傑作だと個人的にも思う。監督はあのヴィンセント・ギャロも出ていたという『アリゾナ・ドリーム』という訳の分からないものも撮り、『パパは出張中』、『アンダーグラウンド』で2度カンヌグランプリも取ったヴァチカン半島の道案内人ことエミール・クストリッツァ 44 歳ユーゴスラビア人。
何とも筆舌に尽くしがたい過剰さやいい加減さがとても活き活きとした人々と音楽そして豊かな色彩によって溢れるように描かれており、黒や白といった表面的な色分けによって区別しがちな社会に対する皮肉が、相次ぐ笑いのなかで巧みに表現されているなという感想。前作『アンダーグラウンド』にあったような豊饒だけれども暗さを引きずっているような感じもない。サーカスのような軽さと言いたい。それじゃフェリーニなのかというと、なんとなく『アマルコルド』や『そして船は行く』なんかと重なったり、監督の嗜好は似てるのかなとも思ったけど、ジプシーそのものに私のアイデンティティーがあると公言してるクストリッツァとは立ち位置が違うだろうしなあ。しかし同じ雰囲気はある。フェリーニも「私の幸せは野蛮から。不幸せは文化から」とか言ってるしね。
それにしてもこの映画の舞台となった場所が先日 NATO の空爆に晒されたときくと胸が悪くなる。この過剰なまでの陽気さも、そういったゴタゴタした外側から聞こえてくる砲弾の響きをかき消そうとでもしているかのように思えるから複雑な気分だなあ。
いや、ともかく『黒猫・白猫』は、むかむかするほどウキウキする傑作だ。また観よう。でも、弥生座 2 は音が良くなかったから、出来れば、ナビオでみることをお奨めします。
ヤマネ Original: 1999-Sep-06;