新体操世界選手権大阪大会
9 月下旬から 10 月初旬にかけて、アジアで初めての新体操の世界選手権が大阪で開かれた。2000 年のシドニー五輪の予選を兼ねており、史上最多の 59 カ国が参加した。私は今まで新体操は、演技会に何度か行ったことはあるが、競技会は初めて。しかも世界選手権で、五輪の予選も兼ねているということで独特の緊張感がある。
近年の新体操界はルールの変更により、私が新体操にハマリ始めた約 10 年前に比べて大きく様変わりしている。そのルールの変更とは、基本技術・身体技術の重視である。バランス、ピルエット、ジャンプなどの必要要素をバランスよく演技に取り入れないと高得点が取れない。ルールによってガンジガラメになってしまい、個性的な選手が少なくなってしまった。
そんな中でも、この大会には 3 人の個性的な選手がいた。ロシアのアミーナ・カバエバ、ウクライナのエレーナ・ビトリチェンコ、ブルガリアのテオドラ・アレクサンドロバの 3 人である。まさに彼女達はエンターテイナーであった。
では「エンターテイナー」とは何であるか。それは、自分自身の個性を充分に理解し、その個性を充分に発揮することによって観衆を楽しませる人のことである。
各々の選手の個性とは? まずカバエバは『柔軟性』である。とにかく柔らかい。後屈して頭が股の間から出るのは彼女にとっては当たり前。とにかく圧倒される。そして昨年と今年のヨーロッパ選手権を連勝して、最もチャンピョンに近いといわれていただけに自信に満ち溢れていた。その演技には何の不安もためらいも感じなかった。ribbon での MG キックを見ただけでこの選手がチャンピョンになる、と確信が持てた。それくらいの勢いがあった。10 点満点を連発してチャンピョンになる。
次に、ビトリチェンコの持ち味はその『正確性』『表現の深さ』である。今大会参加選手中最年長の 22 歳であるビトリチェンコは、前回の世界選手権のチャンピョン。デビュー当時からその演技の正確性には定評があったが、さらに歳を重ねて表現に深みが増した。個人総合で 5 位に甘んじて表彰式で涙を流した彼女であったが、その悔しさをぶつけた種目別の rope と hoop は、物凄い迫力と意気込みを感じた。まさに女王の意地であろう。両種目とも 10 点満点を出す。
最後にアレクサンドロバは『かわいらしさ』『器用さ』『ピルエット』である。手具(← ribbon などの道具)の操作はナンバー 1 。大技を次々に繰り出す。そして圧倒されるピルエット。ポジションを変えながら 7 回転くらいは当たり前。もぐり回転と組み合わせたりして、充分に魅せてくれる。順位は 8 位であるが、一番観客を盛り上げ、拍手をもらい、応援されていた選手。とにかく観客と完全に一体化していた。
hoop や ribbon での 3 回連続のもぐり回転というリスクのときは、うなり声のような観客の歓声で会場の空気を変えてしまっていた。私も思わず身を乗り出して拍手した。最高!まさに私が理想としている新体操である。
日本選手も健闘する。団体の演技構成は世界一といって過言でない。たくさんのオリジナルの技と曲の使い方で盛り上げる。団体決勝、種目別ともに 4 位に入る。個人では松永里絵子選手が 10 位に入る。これは 1989 年の秋山エリカさん以来のベスト 10 入り。松永選手はトップの選手と比べると多少身体能力は劣るが、地元開催というプレッシャーを全く感じない堂々とした演技は頼もしかった。
結局、2 日間で 15 時間も新体操を見続けた。多少疲れはしたが、その場でしか味わえない選手、観客との一体感を味わえたのは、私にとって宝である。また、「エンターテインメント」について自分なりに多少なりともまとめられたのも良かった。
ハラショー! 新体操! である。
ベチンスカヤ Original: 1999-Jan-31;