恋の秋」
エリック・ロメール
原題は「秋物語」。良い出来だと思う。それほど多くの作品を見ているわけではないが、エリック・ロメールは好きな映画監督ではなかった。今でも好みからは随分とはずれているんだけど。
しかしこの映画の完成度が高いのは、たいへん脚本がおもしろく、しかも俳優の演技がよかったと思ったからなのだが、(良く知らないけどアルメニア出身のインテリを演じたおっちゃんの演技は素晴らしかった)そうすると凄いものが出来上がってくることになる。何故なら彼の用いる映像自体はいつも傑出して興味深く、ちょっと他には真似のできない空間がひろがっているからである。豊かな色彩、瑞々しい花、風のかおりさえも画面に定着しているように感じる瞬間があるのは偶然ではない。これはとても心地の良いことだよなあ。
ロメールによる映画空間がとびぬけて建築的であることは注目に値すると思う。その点においては、ジャック・リヴェットや現在のゴダ−ルよりずっと自由なのである。ともかく定義のしようのない自由な空間、非常に緩やかな、切れずにつながっている、流れのある空間をつくることのできる人だ。結局、都市にしろ田舎にしろ、「その場所」というものを上手に摘み取って見せることができているからして、その空間が捏造された感じがしないのだ。
そういう意味でロメールがジャン・ルノワール的な空間の融通無碍さを受け継いでいるのは間違いないだろう。現在、ルノワールの系譜と言えるのは他にはキアロスタミぐらいじゃないだろうか…最近キアロスタミ不安だけれども。
さて、この『恋の秋』も画面に都市や風景の触感が宿っているのがすばらしい。その構成的自由さによるものであると感じるのだが、画面そのものは書き割りに限り無く接近していくお人だけれど、無造作にカメラを構えてしゃべっている人達を撮り、それをつなぐだけ、という一切人工的なにおいはしないにもかかわらず、圧倒的な新しい視線が常にある。まあでも『木と市町と文化会館』ほど極端ではないけどね。あれは傑作だった。これも多分傑作かもなあ。相変わらずめそめそしたりする中年女性が主役だが、落ち着いて魅力的な女性像だったし、マンネリにも程遠く、70 超えてもまあ‥と感嘆しきり。もう秋は過ぎ去りそうだけど、季節に即した爽やかなものを見て感動できる人や、ロメール好きや嫌いな人にお薦め。どうでもいい人は適当にどうぞ。
ヤマネ Original: 1999-Jan-31;