丹下左膳餘話 百萬両の壺
(たんげさぜんよわ
ひゃくまんりょうのつぼ)
1935 年日活京都作品。山中貞雄のたった 3 本現存する監督作品のうちの一本だ。この映画を見ずして「日本映画ってつまんない」とかいうヤツは信用しない方がいいです。
戦前の 1930 年代ってのは日本映画の黄金時代であり、その頃に作られた映画ってのはどれも近頃の映画にはなかなか見受けられない「勢い」のようなものがある。「黄金時代」ってのは単に名作がどかんどかん作られた時代ってことだけぢゃなくて、もちろん愚作も山のように作られたけど、とにかく観客がどかんどかん押し寄せた時代ってことだ。この頃の日本はインド人もビックリの映画量産大国で、普通上映期間は 1 週間、大ヒットしてやっと 2 週間の続映、というサイクルだったそうだ。
日本人はみんな毎週映画館に通っており、毎週新しい映画が上映されるという眼もくらむ素晴らしい時代だったのだ。よって監督たちも一本や二本の失敗作はものともせず、たまには客が入らなそうな実験作も今よりも気軽に試すことができる。
この映画は林不忘の原作をもとに伊藤大輔+大河内伝次郎が生み出した隻腕隻手のニヒルな剣士、丹下佐膳の大ヒットシリーズの完結編として企画された、とのこと。ところが山中貞雄は丹下佐膳を喧嘩にゃ強いが子どもと女性には弱い矢場のいそうろう兼用心棒として、結構アットホームな野郎として換骨奪胎。原作者も試写を見て怒り狂ったらしい。ということでこの作品も相当な冒険作だったわけだ。とはいえ、この『丹下佐膳餘話 百萬両の壺』もめでたく 2 週間上映の大ヒットを記録。
脚本が素晴らしい。省略の美学。この映画が製作されてから数十年、映画はとりあえず作られ続けているけれど、それらは皆、映画史の蛇足のように思えてくる素晴らしさである。
ちなみに京都映画祭での山根貞男氏の前説によると、この作品も一部、宮川一夫氏が撮影している、とのこと。京都文化博物館で大体 2 年に一回くらい上映されているので、また見る機会があったらぜひ見てください。
BABA Original: 1999-Jan-08;