京都三条 カフェ・オパール Cafe Opal:Home

Home > Reviews > 99 > 1007_02
Movie Review 1999・10月07日(THU.)

鴛鴦(おしどり)歌合戦

 京都映画祭「1930 年代の明朗時代劇」特集のプログラムの一貫で上映された。戦前のこの時期に底抜けに明るい時代劇が量産され、それらはこれまでまともに評価されてこなかった、という問題意識を持つ特集だが、この日は『丹下佐膳餘話 百萬両の壺』との 2 本立てで、「明朗時代劇」の中でも比較的知られているものだ。考えようによっては史上最強の 2 本立て。京都文化博物館や RCS でも上映されたことがあるので、絶賛しても何を今さらって気もするが、ご存じない方もあろうから絶賛しておこう。

 この日の上映は英語字幕つき。英語題名は「Samurai Musical」である。歌いまくるのはディック・ミネ、志村喬、市川春代などなど。

 なんせ黒澤明映画での思慮深い侍というイメージが強い志村喬が「そーれそれそれこのちゃわん」と歌いまくるソコツな骨董趣味のお父っつぁんを演じるのだからそれだけでもう参った、って感じだ。1930 年代の志村喬ってのは、後に黒澤明と共同で作り上げたイメージとは 1 万光年くらいかけ離れた、笑かす役が多かったのだ。ちなみにあまりの歌のうまさにテイチクレコードがスカウトに来たそうです。澤地久枝著「男ありて」という志村喬の伝記のような小説があるんだけど、それによると志村喬は楽譜もちゃんと読めたそうだ。ちなみにこの本、この映画で志村喬が歌う歌詞が収録されているので資料価値大。(何に役立つのかは不明)

 この志村喬の貧乏な傘張りの娘、市川春代は隣に住む素浪人片岡千恵蔵が好きなのだが、どうにかこうにかするうちにディック・ミネの骨董バカに見初められ、てんやわんや、というお話。どうでもいいような話であるが「この世で本当に大切なものはお金ぢゃないんだよ」との普遍的なテーマも立ち現れる。片岡千恵蔵の「金持ちは嫌いだ!」のセリフで私、涙が出ました。ただのキッチュ趣味だけで見るのはもったいないってなもんだ。でも英語字幕が付くとめちゃくちゃキッチュなんだけどね。

 早撮りの名手マキノ正博監督作品に共通のタッチと思うのだが、細かいことはいいっこなしでズンズン話を進めていくのが素晴らしい。片岡千恵蔵の出番が少な目だが、たった 2 時間で出演シーンをすべて撮ったというから驚きだ。マキノ正博自伝『映画渡世』を読むと、28 時間で一本映画を撮った(!)エピソードも紹介されており、ともかく量産、量産で山のように映画を撮った経験を持つ監督には誰も勝てない。

 故・宮川一夫氏撮影によるモノクロ撮影が素晴らしい。しかし、この日のプリントは英語字幕を付けるプロセスでどうかしたのか、以前見たときよりピントが甘かったぞ。1939 年日活京都作品。

BABA Original: 1999-Jan-07;

レビュー目次