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Movie Review 1999・11月05日(FRI.)

恋の秋 四季の物語シリーズ
 エリック・ロメール

 もう 70 代も半ばを過ぎたロメールの最新作は、四季の物語シリーズの完結篇にあたる『恋の秋』。相変わらず、愛だの恋だのについてぺらぺらと喋りまくり、目を覆いたくなるほど簡単に浅はかな行動に走る登場人物たちが、どうってことのない日常の中で小さな胸を痛めたりドキドキしたりするという、「ロメール節」全開の一本だ。

「恋人募集の広告で知り合った男とも、真のロマンスが生まれ得る」という、独身中年の夢をくすぐる内容で、かっこわるくもたもたと立ち回る登場人物達にはらはらさせられ、おなじみちょっと御都合主義の「ロマンチックな偶然」で締める、という、「いつものあれ」状態。ロメール好きの私にはたまらない…筈なんだけど、なぜかピンとこない今作、その理由をロメール映画の本来の魅力と併せて考えてみようと思う。書いているうちに好きになってくると言うこともありえる。ロメール映画は、すぐに甲乙つけられるような類いの映画ではないからだ。事実、最初はその地味さにがっかりさせられた『冬物語』が、時が経つにつれ、私にとってのロメールベストとなってしまったということも過去にはあるしね。

 そもそもロメール映画の魅力とは何か。なぜ私はロメール映画がこんなに好きなのか。

 その理由は、ロメール自身が「パスカルの賭け」と呼ぶところの、登場人物たちが持っている「希望」にある。ロメール作品の登場人物たちはいつも、程度の差こそあれ、日常生活の物事に、半ばうんざりし、斜に構えて生きている。でも、心のどこかに、ぱちんとはじけてしまいそうなロマンチックな希望を膨らませているのだ。そこが私の、ロメールを見ると必ず元気になるというからくりの素だ。そりゃ、おじさん、ただの男の勝手な妄想じゃないかよ、と時々うんざりさせられたりもするが、う〜ん、やはり女の子はかくあるべし! と嬉しくなってしまうロメールの女の子賛歌には、いつも単純に元気づけられてしまう。

 ちょっと蛇足になるが、『魔女宅』って、ロメールの影響あるよね、と以前友だちが言っていた。ちょっと恥ずかしいが、実は『魔女宅』も、落ち込んだときの常備薬としてこの 10 年間、いく度となく私を助けてくれた映画だ。共通するのは、自然や女の子の描写だけでなく、登場人物たちの生き方であるような気がする。ちょっと乱暴を承知で分析すると、両者とも、タッチは軽いながらも、「近代社会の中での自分の生き方というものを、孤独と戦いながら模索していく人間を描いている映画」だといえる。それも、近代になって初めて自由を獲得したのに、なぜか近代にどこか馴染めない(現代では古風とされる慣習や感情を持て余してしまう)(の子)たちの静かな奮闘に、目を向けている映画ではないかと思うのだ。私は一度はフェミニズムを勉強した人間だが、こんな明らかに男のエゴ丸出しのロメールの方が、パワーゲームに夢中なフェミニストのおばさん達よりもはるかにリアルに、愛情をもって、現代の女(の子)の戦いを見れているとさえ思ってしまう。なんて、単に個人的なリアリティの差なのかもしれないけど。

 蛇足が長くなってしまったが、今回『恋の秋』を見ていて、どうしても、実家で独り住まいの母や、子どものころからわが子のように可愛がってくれている独身の叔母のことを考えてしまった。二人とももう 50 を迎えてはいるが、誠実で魅力があるし、何と言ってもカワイイ人たちだ。彼女達にぜひ新しい恋愛を望んでいる私なのだが、やはり問題は「出会いの少なさ」。かといってこの映画のように「広告」を出したってうまくいきっこないんだろうな〜。と考えるうちに、本作がなぜピンとこなかったのかが分かってきた。きっと、単に身近な問題過ぎて、純粋に映画として見れなかったのだ。でもまあ、あのヘンなバランス感覚で嘘っぽさとリアリティを混在させた、にやにや笑いでごまかすしかない「ロメール節のこっ恥ずかしさ」は完全に健在だったんだし、それで良しとしよう、という気になってきた。これって、すっかりロメール中毒の症状なんだろうな。そして、彼に「転身」はありえないので、きっと次も似たような映画だろう。だからせめて、次はあたしの好きなあの子(名前は忘れた)を使ってね。『海辺のポーリーヌ』から『夏物語』のマルゴまで、彼女がいるだけで画面までの心的距離がぐぐっと縮まる。ほんとにカワイイのだ。いつか知り合えないかな〜。とバカな偶然を夢見ちゃったりして。

*『恋の秋』は残念ながら終了しました(みなみ会館)。ビデオで見てね。

Nyagobitch Original: 1999-Nov-05;

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