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Movie Review 1999・12月30日(THU.)

ターザン

『リトル・マーメイド』あたりから復活を遂げたディズニー・アニメの最新作だ。『ポカホンタス』、『ライオン・キング』のような愚作もあったが概ね傑作ぞろいであり、最近は CG の利用が進んでエラいことになっている。「ディズニー? ケッ、アホか!」という方もいっぺん見といた方がいいと思います。

 ディズニーのアニメは、1950 年代あたりに息の根を止められたハリウッド映画の雰囲気を今に伝える伝統工芸みたいなものだ。観客を飽きさせないために全力を投入し、脚本を練り上げ、ディテールを作りこむ。世に「細部に神がやどる」と申しますが、全てを人間が作り上げなければならないアニメーションにおいて、ここまでの作りこみを実現するのは並大抵のことではない。なんせ、アフリカ・ロケ(?)までやったらしいからね。映画製作にかこつけてスタッフがアフリカに行きたかっただけぢゃん! というツッコミはおいといて、その成果は画面ににじみ出ている。

 ハリウッド映画をホウフツとさせるのはディズニー・アニメが唯一スタジオ・システムを維持しているからだ。他のメジャーはなんだかんだでスタジオを売却したりしたのだが、ディズニーの場合はディズニーランドの収益でスタジオを存続させることができ、スタッフの教育・育成システムが成立している。おかげで数年がかりの、時間も人員も潤沢に投入したアニメ製作を行える。オーランドのディズニーワールド内 MGM スタジオではアニメ制作の現場を見学できるのだが、一人あたり四畳半以上のスペースでみなさんのんびりとやっておられました。

 今回は、エドガー・ライス・バローズの望んだターザンを作ろう、というコンセプトがある。原作に忠実なターザンというと『グレイストーク』というヒュー・ハドソン監督、クリス・ランバート主演の「文芸」大作があり、原作に忠実なんだろうが冒険活劇としてハリウッドが発展させたターザン映画のアンチテーゼでしかない。インテリな方々は『グレイストーク』を喜ぶだろうが、血湧き肉踊る映画を求める我々には(って誰?)物足りないモノだった。

 バローズは生前、「ハリウッドのターザンはワシのターザンぢゃない!」とか言って、アニメ化を計画していたらしい。「作るんだったらディズニーみたいなアニメだ!」って言ってたから、まさにバローズが望んだターザンが 1999 年に誕生した、ということなのだ。

 この『ターザン』、ディズニー・アニメ特有のミュージカルの要素が普段より少なく活劇味が増している。オープニングの 10 分間足らずでターザン誕生の経緯を見せるテンポは圧倒的で「これが映画だ!」と私は言いたい。もちろんハリウッドの伝統を受け継ぎ、強烈な娯楽で観客の判断力を奪い、様々な教訓を大衆に注入することを忘れていない。異文化の対立への対処法、父を乗り越える息子の心意気、生みの母より育ての母、家族を家族たらしめているモノは何か? などなどの物語の原型ともいうべき要素が 90 分に手際よくブチ込まれ、「ディズニーなんて、お笑いだぜ!」って方もおられましょうがワタクシ泣いちゃいました。やれやれ。

 とにかく『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の 10 万倍はテンポがいいのでオススメだ。

BABA Original: 1999-Dec-30;

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