『戦争論妄想論』
宮台真司他(教育史料出版会)
小林よしのりの『戦争論』に対抗すべく出された本。個人的にはやはり宮台が一番よい。実際今のすぐれた若い読者に一番よく届くのは、宮台のような論理的文章ではないのか。ダメな若い読者に届くのが小林のような情緒的文章(というか語り)であるのと対称的に。
私は小林の『戦争論』は読んでいないが、オパールにくるお客さんを含めて周りの人間は結構読んでいるみたいだし、メディアでも騒がれているので、最近の政治の右傾化・保守反動化とも考えあわせて、やばいんじゃないのかと危惧の念を持つ一方、本当にそうか? という思いも強かった。私も『ゴーマニズム宣言』は読んでいたので小林の論法は知っているが、あんな露骨なデマゴギーにのせられる若者がそんなにたくさんいるというのはどうにも信じられなかったし、実際に『戦争論』を読んだ周りの人達に感想を聞いても一様に否定的だ。やはりスガヒデミが言っていたように、あれはキッチュとして読まれているのではないか。この本の執筆者達も『戦争論』の影響力は自明のこととして論をすすめているが(そうでなければ敢えて反論など書かないだろうが)、宮台はこの点でも皆と違って『戦争論』の影響力などないに等しいといいきる。『戦争論』の発行部数 50 万部のうちから、書店の棚などに滞留している分・神社本庁や遺族会などの「組織票」・年長世代を差し引けば、若い世代( 10 代後半から 20 代後半)に売れたのは最大 15 万部。若い世代( 10 代後半から 20 代後半)1700 万人からみれば 1 %以下。さらに読んだなかで肯定派となればさらに減るはずで、ほとんど無視してよい数字だという。きわめて明快で納得のいく説明だ。
それでも宮台があえて『戦争論』批判をするのは、たとえ『戦争論』に否定的な若者であっても、なぜそうなのかと問われれば、それに答える論理を持っていないからではないだろうか。それは違う! と思いながらも、なぜ違うのかを説明できなければ、結局声の大きい奴に圧倒されてしまうだけ。そういうことから、梅野正信の提案する「良心的兵役拒否」の審査を学生らに試してみるというのは良いと思う。「良心的兵役拒否」とは、みずからの良心に従って兵役を拒否する権利のことで、審査に通れば兵役を免除される。つまり兵役を拒否するだけの確固とした信念と論理を持っているか、が問われるわけである。先進国では広くひろがっている制度だ。さてここにその審査の一部をこの本から転載するが、みなさんはどう答えるだろうか。無事審査を通れるか?
1 強盗に襲われて他に方法のない場合、父親(母親あるいは許婚)の生命が脅かされる場合は、あなただって闘うのではないか?
2 君は祖国の共同体生活から大きな利益を享受している。その祖国を防衛しようとしないのは利己主義的ではないか?
さて?
オガケン Original: 1999-Aug-18;