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 Movie Review 2005年3月10日(Thu.)

ボン・ボヤージュ

 1940年6月14日、騒乱のパリから激動のボルドーへ。時代が変わる36時間、愛がはじまる。そして運命が旅立っていく。ババーン!! もの凄く久しぶりな気がするフランス・ベテラン監督ジャン=ポール・ラプノー(『コニャックの男』『うず潮』『炎のごとく』とか)新作、「さすが! これが映画だ!」って感じで、近年まれに見る面白さのフランス映画でございます。

 1940年ナチ侵攻直前パリ、イザベル・アジャーニ扮するは有名映画女優、彼女の主演映画プレミア上映、劇場中の賞賛を浴びている…というのがオープニング。

 すべての客が拍手喝采する中で、ただ一人、中年男だけが憮然とアジャーニをにらみつけている……不安におびえるアジャーニ、そこへ大臣ジェラール・ドパルデュー登場、階段を踏みはずしていきなりスッテンコロリン!! …吉本クラスのベタなツカミですが、私は一気に映画に引き込まれたのでした。

 アジャーニをにらみつけていた男は何者? …など、全然わからないままに映像の積み重ねで話を進めていく演出が素晴らしいです。さすがベテラン、ラプノー!!

 アジャーニの映画で面白かったのは『アデルの恋の物語』(トリュフォー)くらい? あんまり面白い映画に出てないしー…とのご心配はご無用、今回アジャーニ演じるは、どちらかといえば脇役、男どもを翻弄しまくる、天然・アーパーな映画スターという役柄、セルフ・パロディかもしれないバッチリのはまり役、見え見えのウソ泣きで男どもを懐柔する…というコメディエンヌぶりをついに発揮、ひと皮むけた感じでございます。

 アジャーニは、とある窮地におちいって、主人公オジェ(グレゴリ・デランジェール)を呼びつけます。アジャーニとオジェは幼なじみらしい…って、人間関係を説明するのもすっとばして、がんがん物語を大急ぎで進めていく、疾走感・駆け足感が気色よろしく、登場人物たちは常に小走り状態、この、混乱・激動感こそが1940年6月のフランスなのであろう…と茫然と感動しました。

 主人公オジェはあれよあれよと運命に翻弄され、投獄→ナチ侵攻のどさくさに紛れて脱獄→逃亡、ナチから逃れてフランス政府はボルドーに移転、女優アジャーニ、大臣ドパルデュー、さらにギャングの顔役イヴァン・アタル、理科系女学生ヴィルジニー・ルドワイヤン、彼女の師・原爆製造の鍵を握るユダヤ人物理学者ジャン=マルク・ステーレ、怪しげな新聞記者ピーター・コヨーテなど、戦時下大河ドラマ的キャラクターが続々登場、「一体全体、こんなに続々キャラクターを登場させてどう収拾をつけるつもりか! ワクワク」と茫然と途方にくれる、[映画的な快楽]を私は久々に味わったのでした。

 ドラマチックな物語の背景に、ナチス・ドイツの傀儡政権、ヴィシー政権成立の[歴史]が織り込まれます。登場人物それぞれは、ヴィシー政権やナチスに対してフランス人が取った様々な立場の典型を表しているのでしょう。

 主人公・作家志望の青年は、[無責任・放埒な女優アジャーニ]と、[真面目・愛国の娘ルドワイヤン]の間で揺れ動く…という、図式的な展開でございますけど、それぞれのキャラは、登場した瞬間からダーン! とキャラ立ちしており、「大河ドラマはこう撮れ!」って感じです。『北の零年』とはえらい違いである、うむ。

 なんでも1932年生まれのラプノー監督、幼少期に体験したパリ陥落、ボルドーへの首都移転のゴタゴタを映画にしたいとズッとあたためていたそうで、まさしく渾身の一本、脚本も練り上げらて、しかし鈍重・深刻にはならずに物語は疾走、『コニャックの男』『うず潮』などで見せた洒脱なユーモアも健在。

 パリ陥落で人は様々な立場を取り、それぞれ異なる人生の旅に出発、それらすべての者に対しラプノー監督は「ボン・ボヤージュ!(道中、お気をつけなすって!)」とエールを送っているのだ…と私は一人ごちたのでした。

 クラシックな筋立て、久々に素晴らしく面白い、フランス映画らしいフランス映画、主演グレゴリ・デランジェール、ヴィルジニー・ルドワイヤンも良い感じ、バチグンのオススメです。

☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA
Original: 2005-Mar-9;