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 Movie Review 2005年3月2日(Wed.)

セルラー

 1秒毎に襲いかかる危機! 息もつかせぬ謎の連続! 全米興奮のサスペンス・スリラー! ババーン!

「とにかく面白くて、見終わった後に何にも残らない(ただ、面白かったという記憶がだけが残る)、最高のひまつぶし用アメリカ映画が見たい!」のなら、予備知識一切なしで、この『セルラー』がオススメ、上映時間95分、スーパータイトかつ、トンチ満載ノンストップムーヴィー、たとえば『バード・オン・ワイヤー』(1990年/ジョン・バダム監督)、『ブレーキ・ダウン』(1997年/ジョナサン・モストウ監督)『ダブル・ジェパディ』(1998年/デボラ・ダルトン監督)みたいな、ヒッチコック的な無理のある筋立ての娯楽映画がお好きな方にバチグンのオススメです。

 以下、ネタバレあり。

 舞台はロサンゼルス。キム・ベイシンガー、突如、屈強の男どもに自宅に押し入られ、どこかの屋根裏部屋に拉致・監禁。屋根裏部屋には、電話機が一台。監禁時、大男(ジェイソン・ステイサム)は電話機をハンマーで粉々に破壊! …普通は、[電話線]をぶった切るもんだと思いますけど、それでは話が終わってしまうので仕方ないのであった。

 彼女は、実は小学校の理科の教師(字幕では「生物の教師」。小学校なのに「生物」は変だと思うのですが…。よくわかりません)、粉々に壊れた電話機をアレコレいじって、どこの誰かもわからない相手に電話をかけることに成功します。

「お願い! 電話を切らないで! 私の名前はジェシカ・マーティン。誘拐されて、どこかに監禁されているの!」…さては、いたづら電話か? あるいは「新手のオレオレ詐欺(改め振り込め詐欺)ちゃうか?」と大阪のオバチャンなら相手にしないところ、電話に出たのは、ビーチでナンパに夢中の盆暗青年クリス・エバンス! 電話から聞こえてくる「きゃー! きゃー! 何するの! やめてー!」などの叫び声をすっかり真に受け、キム・ベイシンガー救出のために大奮闘する…というお話。

 無理のある発端ですが、ロサンゼルスのナンパ青年なら、こういうことするかもしれませんね、と思わせるなど、随所にユーモアとトンチが散りばめられて、「無理矢理やな」と呆れつつ笑わせていただきました。

 原案はベテラン脚本家ラリー・コーエン(『刑事コロンボ』シリーズ代表作『別れのワイン』『野望の果て』原案、名作『探偵マイク・ハマー/俺が掟だ!』脚本など。監督としては『悪魔の赤ちゃん』とか)。『フォーン・ブース』に続く[電話ネタ]で、『フォーン・ブース』でも、「いきなりかかってきた電話を切れない」というシチュエーション、今回はそのバリエーションをクリエーション、ニューヨークが舞台で少々陰鬱な『フォーン・ブース』に対し、陽光輝くLAを根の明るいナンパ青年が駆けめぐって、明朗快活な作品に仕上がっております。

[電話が切れてしまいそうなピンチ]が続々繰り出され、それをどんな[トンチ]で切り抜けていくか? …の繰り返し、[キム・ベイシンガーは理科教師]など伏線もうまく張られて、よくできた脚本となっております。「うわわー! 携帯の電池が切れそう!」という大ピンチ! 主人公クリス・エバンスは、携帯屋さんに駆け込んで、電源を買おうとするが…というあたりの展開は、ちょっと不条理な味わいもあって、最高です。

 クライマックス、悪人ジェイソン・ステイサムにつかまった主人公クリス・エバンスが、なぜ一瞬のうちに殺されないのか? その辺、少々ゆるくなってしまうのがちょっと物足りないし、主人公が猛奮闘する内に色々人生の機微を学んで成長、彼女もゲット! …みたいな[冒険を通じての成長]がなくて、主人公のキャラ造形がいまいち平板ではございますが、演出+役者さんの好演で押し切った感じ、ラスト、ついに初めてクリス・エバンスとキム・ベイシンガーが顔を合わせるシーンでは、茫然と感動してしまいました。

 アメリカは個人主義の国、ともすれば人と人とのつきあいが薄くなってしまう国、そういう国ですから、人は[家族]をとことん守ろうとするし、一度つながった人と人の絆を、そう簡単に断ち切るわけにはいかないのだ…、そんなことをこの映画の作者は訴えたかったのかも知れませんね。いやー映画って本当に素晴らしいですね! それじゃまた! …「水曜ロードショー」水野晴郎風にコメントしてみました。

 そんなことはどうでもよくて、意地悪な上司・姑息な小市民を得意とするウィリアム・H・メイシー(『マグノリア』とか)が、[その日、退職するという刑事]役で登場、この刑事さん、どことなく『刑事コロンボ』を彷彿とさせつつ、ダーン! と拳銃をぶっ放す超カッコいい場面もあって、ウィリアム・H・メイシーのキャリアの中でも最高においしい役どころでございます。どういう事件が進行しているか、少しずつ気づいていくのが、たまらなくワクワクで、これこそが映画である! と私は深い満足を味わいました。

 監督はちょびっと面白かった『デッドコースター』のデビッド・エリス監督、今回も大忙しの展開ですけど、スリル・サスペンス、笑いとトンチのある見事な娯楽傑作をものにしました。映画にひまつぶし目的以外の何物も求めない方にバチグンのオススメです。

☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA
Original: 2005-Mar-1;