エクソシスト ビギニング
悪魔の誕生。10.16 解禁! ババーン! モダンホラー名作『エクソシスト』(ウィリアム・フリードキン監督)今さらながらの続編、というか、前日談です。って確か続編『エクソシスト 2』(ジョン・ブアマン監督)にも前日談が含まれており、フリードキン一作目とはまた違った雰囲気の怪作でなかなか面白かったのですけど、ついでにご紹介しますが一作目の原作・脚本担当ウィリアム・ピーター・ブラッティが「正統な続編」として自ら監督した『エクソシスト 3』も、「恐さ」という点ですぐれておりました。それら諸作はなかったことにされて、今回アフリカの地で〜、若きメリン神父が出会った〜(下条アトム風に読んでください)悪魔との最初の戦いを描きます。ババーン!!
で今回、悪魔の呪いか(絶対ちがう)、製作過程でごたごたしたそうです。
当初、ジョン・フランケンハイマー監督で企画されたそうで、フランケンハイマーといえば、フリードキンもう一本の代表作『フレンチ・コネクション』続編を撮った監督、その『フレンチ・コネクション 2』は、「続編はつまらない」が定説だった時代にあって、握りこぶしに力が入る傑作、そういう「フリードキンの続編」作りでは実績あるフランケンハイマーは急逝(合掌)。
後をポール・シュレイダー(『キャット・ピープル』『MISHIMA』とか)が引き継ぎ、ほとんど完成させていたところ、なぜか解雇されて抜擢されたのがレニー・ハーリン!(『ロング・キッス・グッドナイト』『ディープ・ブルー』とか) 多くの追加撮影で完成されたそうです。
と、いう経緯を聞くと、なんだかよくわからない作品になっていそうなんですけれど、これがなかなか面白く、レニー・ハーリンといえばドカーン! 大爆発とか、いきなりドバーッ!! とか、を予想しますが、随分と抑えたタッチで、『フォード・フェアレーンの冒険』以来の自己ベスト更新、と言えるのではないでしょうか。
とはいえ、フランケンハイマー、シュレイダーが関わった後の登板で、どの辺がフランケンハイマー、どこがシュレイダーやらハーリンの功績なのかは定かではないのですが、一作目の何が面白かったのかを十分研究した感じ、最近ホラーにありがちな、恐怖シーンつるべ打ちとか、垂れ流し状態とは違ってて、70 年代的悠揚迫らざるタッチが実になかなか気色よいです。
少しづつ少しづつ、謎が謎を呼ぶ感じで、5 世紀のものと思われるキリスト教会遺跡がアフリカで発掘されたが、この時期にキリスト教はここまで伝播していなかったはず…とか、その教会遺跡は、建ててすぐ埋められたかのようでほとんど風化していない…とか、逆さキリストが発見される…とか。
さらに、映像がなかなか美しいのですけど、撮影監督はなんと、ビットリオだ!! え? ビットリオをご存じない? ガスマンじゃないですよ。ベルトルッチ諸作や『地獄の黙示録』の「光の魔術師」ことビットリオ・ストラーロです。最近ベルトルッチと仲違いしたのか、ベルトルッチは違う人の撮影になっててガックリなんですけど、ビットリオの方も、こんな映画の撮影をするまで落ちぶれていたとは……って失礼。『ラスト・エンペラー』などで見せたこれ見よがしな色彩効果は陰をひそめた抑えたタッチ、教会遺跡内部の光と影の具合など、やはりただもんではない感じですね。
そんなことはどうでもいいのですが、お話は、信仰をなくしたメリン神父が、悪魔との戦いを通じて信仰を取り戻すというキリスト教プロパガンダ映画、しかし、例えば「十字軍」を思わせる悲劇や、イギリス軍がクロスに祈りを捧げながらアフリカ人を虐殺するシーンなど、キリスト教信仰の負の面もちょこちょこ描いておりまして、信仰の善悪両面を見きわめた上での真の信仰とは? みたいなテーマ、色々あってメリン神父が信仰を取り戻し、悪魔と対峙して力強く呪文…じゃなくって祈りの言葉を唱えるシーンは感動的です。
メリン神父を演じるのは、マックス・フォン・シドーと同じスウェーデン出身のステラン・スカルスゲールド(『奇跡の海』『ドッグヴィル』)、って思いっきり地味、他の共演者も地味ですけれど好演でございます。
ともかく、『エクソシスト』は、『1』『2』『3』、そして『ビギニング』、それぞれ違った面白さでお楽しみいただけましょう。とりあえず、レニー・ハーリン監督+ビットリオ・ストラーロ撮影、冗談のような組み合わせの快作、オススメです。あまり恐くないので、ホラー苦手な方もぜひどうぞ。
☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)