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 Movie Review 2004・10月25日(Mon.)

アイ,ロボット

 ルールは破られた、未来は守れるか。ババーン! さてウィル・スミス主演と聞けば、「ピリッとしないバカ映画」をあなたは期待されることでしょう。

『MIB』『MIB II』は傑作でしたが、『エネミー・オブ・アメリカ』『インデペンデント・デイ』『バッドボーイズ』『ワイルド・ワイルド・ウエスト』……まったく見事なフィルモグラフィ、しかし! 今回『アイ,ロボット』、実になかなかよくできた SF 映画でございました。

 原作(タイトルクレジットでは、Inspired by)は、SF 界の御大アイザック・アジモフの連作短編集『われはロボット』、というか、もともとはオリジナル脚本で構想され、アジモフ著作に重なる部分が多かったので、それなら権利をキッチリ確保して、ついでに原作のキャラクターも登場させて……、という感じみたいです。

 そこはウィル・スミス主演なんで CG ばんばん派手なアクションをまじえつつ、ご存知「ロボット三原則」……

  • 第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
  • 第二条 ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、第一条に反する場合は、この限りではない。
  • 第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのない限り、自己をまもらなければならない。

――『ロボット工学ハンドブック』(第 56 版 西暦 2058 年)

 ……をネタにした SF としてツボを押さえている…って、私も『われはロボット』は大昔に読んだきり、あまりよくおぼえていないし、最近は SF 小説を全然読んでいないので話半分に聞いていただきたいのですが、アジモフ原作は、「ロボット三原則」という「公理系」を導入し、その公理系に従ってロボットが設計され、ロボットも公理系に従うとしても、こんな問題が起こりうる……という数学的な思考実験の面白さがある、と思うのですけど、この映画『アイ,ロボット』も、一応 2035 年の設定ですけど、現代アメリカに「ロボット三原則」に沿って思考・行動するロボットが現れたら、どんな事態が起こりうるか? を描いており、その思考実験が「現代アメリカ批判」になっているところが馬鹿 SF とは一線を画しているゾ、と一人ごちました。

『スターウォーズ』以前の SF 大作映画といえば、『ウエストワールド』『猿の惑星』『オメガマン』『ソイレント・グリーン』など(チャールトン・ヘストン主演が多い)、必ず「社会批判」の面があって、この『アイ,ロボット』もそういう 70 年代 SF の雰囲気でグーでございます。結末が(一応)明るいものになっているのは今日的ですが、ラストシーンは、ロボットの「キリスト」誕生が暗示されているように見え(アジモフ『われはロボット』にも、そういう話がありましたね)、ちょっと奇妙な後味になっております。

 人間に服従していたロボットが「反乱」を起こすという大筋は、ついついロボット=「黒人」の寓意か? と深読み・裏目読みしてしまいそうなところ、人間側の主人公が黒人ウィル・スミスなので、「人間=白人」「ロボット=黒人」という図式が攪乱されており、他にも色々寓意が読み取れるようになっております。

 ロボットのデザインはアップル初代「iMac」を参考にした感じで、ここでのロボットは、パソコンやインターネットなど「テクノロジー」一般の寓意と見て取ることも可能でしょう。ロボットの名前は「SONNY」だったりするし。ふむふむ、「ロボット=日本人」という見方をすると面白いかも?

  • 第一条 日本はアメリカに危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、アメリカに危害を及ぼしてはならない。
  • 第二条 日本はアメリカに与えられた命令に服従しなければならない。ただし、第一条に反する場合は、この限りではない。
  • 第三条 日本は、前掲第一条および第二条に反するおそれのない限り、自己をまもらなければならない。

 …うーむ、現・小泉政権にピッタリあてはまってしまいました。

 つまるところ、「ロボット三原則」は服従者の行動を規定する一種のプログラム、(人間、ロボット)は変数で、そこには(人間、テクノロジー)、(白人、黒人)、(アメリカ、日本)、あるいは(神、人間)などが代入可能なのであります。しかしこの「服従者の三原則」は、支配者の行動を規定するものではないので、「人間=アメリカ」とした場合には、「アメリカは庇護(まも)るに足るべき存在か?」という今日的かつ倫理的なテーマを突きつけるのである。…と一人ごちました。

 そんなことはどうでもよくて、わたくしごとですが、私、CG が大の苦手、ところがこの『アイ,ロボット』、ウィル・スミスのキャラが「テクノロジー嫌い」に設定されているので、CG がばんばん使われていても大丈夫でした。その辺とか、探偵小説仕立てになっているところとか脚本がよくできておりますね。ロボット「SONNY」のキャラ立ちも見事です。

 監督は、『クロウ』『ダーク・シティ』のアレックス・プロヤス、ウィル・スミス主演大作でありながら、SF ごころをうまく盛り込んで、私のような半可通の SF 好きにはちょうどよい感じ、意外な拾いものって感じでオススメです。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Oct-24
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