スクール・ウォーズ/HERO
俺は今から、お前たちを殴る。ババーン! ポカッ。大映ドラマヒット作『スクール・ウォーズ』(私は未見)、題材となった伏見工業高校ラグビー部、奇跡の実話が、『プロジェクト X』〜「ツッパリ生徒と泣き虫先生」の巻(これは見た)になって好評を博したからか、堂々の映画化です。
「なぜに今さら?」という企画、さてできあがった映画は、もの凄いコテコテ、製作に吉本興業が加わり中川家・剛と礼二、宮川花子、間寛平らが出演しているのもコテコテ感アップ、いまどき希有なコテコテの青春ドラマでございます。
例えば、元全日本ラグビー選抜日本代表の山上修治先生、ツッパリ生徒だらけの伏工、ラグビー部顧問に就任、最初の京都府高校総体で、初戦で強豪校と対戦。当然のごとく 112 対 0 というボロ負けにもほどがあるボロ負けを喫した試合の終了直後、
山上先生「悔しいやろぉ。同じ高校生に 112 点も取られたんやからなぁー」
生徒・小渕「悔しいーーっ!! 俺らは甘かったよっ! 先生っ! 殴ってくれっ! 俺らの根性たたきなおしてくれっっっ!!」
とおいおい泣き崩れ、ラグビー部全員「俺も、悔しいーーーっ!」とグラウンドに突っ伏し、そして山上先生「俺は今から、お前たちを殴る!!」、おいおい泣きながらポカポカ殴る! これはまさに前世紀的青春ドラマの黄金パターン、しかし 21 世紀にはパロディにしかなり得ぬと思われたシチュエーションが、堂々と、臆面もなく、ストレートに、真剣に、一生懸命の熱演でスクリーンに炸裂し、私は、思わず大爆笑してしまいそうになりながらも号泣している自分に驚かれぬる。
他にも全編ボロ泣き名シーンの連続です。
例えば生徒の一人・信吾君、父親が間寛平で酒浸り、母親は家出して家庭は崩壊している。さてラグビー部最初の遠征試合のランチタイム、信吾君がチームの仲間から一人離れて食するはアンパン、さては、かつて「八坂の信吾」と恐れられたワルも、一人だけのアンパン食は恥ずかしいのでありましょうか、そこへ山上先生。
「うちの女房が『信吾君に』ゆうて作ったんや! 食え!」
と弁当を差し出し、信吾君ジッと見つめるは蛸ウインナー! 信吾君の目にはうっすらと涙が浮かび、再び私は爆笑してしまいそうになりながらも号泣してしまいました。ええ話や。
何といいましても山上先生を演じるのは照英、元槍投げのスポーツマンだったそうで、これがドン! ピシャリのはまり役、スポーツの力、そして「One for All, All for One」(=戸田奈津子氏の訳なら「我らは銃士、結束は固い」)のラガーマンシップを信じて、ツッパリ諸君に「ラグビーの素晴らしさ」を知ってもらおうと猛突進しつつ、しかしツッパリ諸君から「うっとぉしいんじゃ、ボケェ!」とはねつけられてションボリしたり…という激しい喜怒哀楽表現が最高です。「なぜに今さら?」という企画ですが、この物語は、照英という俳優を今まで待ち続けていたのであった、と言っても過言ではない好演。
しかも、熱血でありながら、やっぱり笑かすのがよろしいです。
山上先生、ちょっと知り合いのツッパリ新入生・荒井君にいきなり「お前、ラグビーやらへんか!?」となれなれしく肩を抱いて勧誘、新入生・荒井君「ボケェ! 誰がラグビーなんかやるか! 殺すど!」とののしられながらも、惚れ惚れと「ええケツしてるなぁ!」と一人ごちるメゲなさぶりが爆笑を誘い、若干「熱血体育教師」像が相対化されているのであった。
また、山上先生を拒否しまくっていた信吾君が、ラグビー部に入部するキッカケは、飲んだくれ父が漏らした一言なのですが、その重要かつ感動的なセリフをしゃべるのは寛平ちゃん! ギャグすれすれで観客・私は笑いそうになりながら泣きながら、「反則やで」とつぶやきました。
監督は関本郁夫、『極道の妻たち』シリーズなど東映をベースに活躍されてきた監督さん…って未見作ばかりなのでよく知らないのですが、ツッパリ生徒のツッパリ描写は、さすが東映出身の監督さんって感じ、しかも関本監督、伏見工業高校の卒業生だそうで、「やかぁしぃんじゃぁ!」「いてこましたろか!?」などの京都ヤンキー言葉がスクリーンに見事に再現されているのが素晴らしいし、思い入れたっぷり、迷い無し、オーソドックスかつストレートな演出、少し老人力も感じられて「いつの時代の映画やねん!」とツッコミつつ笑いつつ涙を流し、しかし「学級崩壊」みたいなことがゆわれる現代にこそ語られるべき物語ではないでしょうか? と一人ごちたのでした。
ラスト、ネタバレですがマネージャー“フーロー”君が白血病で死んでしまいます。枕元で、せいぞろいチームメートが代わりべんたん心情を吐露する段取り芝居はいかがなものか? と思わないではないですが、ジックリ、淡々と描かれるラグビーシーンはリアリティ満点、ツッパリ生徒を演じる若手俳優のみなさん力一杯、素晴らしい熱演でした。
最近、MOVIX 京都というシネコンで鑑賞することが多いので、「松竹映画」を意識して邦画を見ることが少なくなっているのですけど、2004 年は、『クイール』『釣りバカ日誌〜ハマちゃんに明日はない!?』、そしてこの『スクール・ウォーズ』、松竹映画でボロ泣きさせていただいており、今、松竹映画が熱い! と言わせていただきましょう。
余談ですが、人と人との関係で、深い意味はなくともまず「おはよう」という挨拶が大事なんじゃないかしら? …というのは小津安二郎監督名作『お早う』(1956 年)に繋がるテーマで、監督は東映出身でも、やはり見事に松竹大船の伝統を今に引き継いだ作品でございました。適当です。
京都・伏見ロケが敢行されており、カフェ・オパールのすぐ近所の京都市役所も登場しますのでバチグンのオススメです。
☆☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)