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 Movie Review 2004・11月24日(Wed.)

砂と霧の家

公式サイト: http://www.sunatokiri.jp/

 世界中を嗚咽させた、今世紀、最も美しい悲劇が遂に幕を開ける! ババーン!

 主人公=ベラーニ(ベン・キングズレー。『ガンジー』とか)は、アメリカ在住イラン移民。イランでは、大佐として軍用機輸入にかかわり裕福な生活を送っていましたが、ホメイニ革命でアメリカへ亡命、現在はサンフランシスコで道路工事、コンビニでアルバイト、そういう仕事を奥さんに隠しているのか、仕事が終わるとホテルのトイレでパリッと上等の背広に着がえて帰宅する…という日々。

 もう一人の主人公キャシー・ニコロ(ジェニファー・コネリー。『ホット・スポット』とか)、アル中・ヤク中だったらしいのですが現在はリハビリに成功、しかし夫に家出され、海が見える家(父の遺産)でダラダラ過ごしていたら、いきなり郡の役人がやってきて、「あなたは所得税500ドル滞納してますね、この家は差し押さえられました。競売(けいばい)にかけます。とっとと出ていってください!」と、追い出されてしまい、ジェニファー、大ピンチ!

 ベラーニ大佐の奥さんナディ(ショーレ・アグダシュルー)は、どうにもアメリカでの生活になじめず、イランでの贅沢な暮らしがなつかしく、大佐に、「あなた、いつになったらイランに帰れるの? こないだなんかアラブ人あつかいされたのよ! ぷんぷん」と不満をぶつけます。ごく普通のマンション住まいですが、イランから持ち出した先祖伝来の家具調度がやたらと豪華で、イランではかなりの上流階級であったことがうかがえます。

 ベラーニ大佐には、密かに計画があった。道路工事+コンビニのバイトでこつこつ稼いだ金で、住宅の競売物件を格安で購入し、リフォーム→転売してボロ儲け、のし上がってやろうというもの。みなさんご想像の通り、ベラーニ大佐はキャシーの海が見える家を競売で購入。ベラーニの奥さんナディも「あなた、素敵!」と大喜び、二人は息子が寝ているのを確かめ、いそいそとベッドルームへ、久々に……。

 しかしそれでは面白くないのがキャシー・ニコロ、たった500ドルの滞納で、父がのこしてくれた家をむざむざイラン人風情に渡せるものか! と弁護士を雇い、さらに持ち前のナイスバディで郡保安官レスター(ロン・エルダード)を味方につけて、海の家を奪還しようと奮闘します。

 イラン亡命軍人・ベラーニ大佐と、アホでマヌケなアメリカ白人キャシー・ニコロの、一軒の家をめぐる攻防の結末やいかに…というお話。

 長々とお話を紹介してしまいましたが、要約がむずかしく、要約してしまうと大事なものがポロポロこぼれ落ちる感じ、ってよくわかりませんが、監督・脚本ヴァディム・パールマンはCM・MTVの監督として活躍された方だそうで、今回が長編デビュー、CM・MTV出身というと、映像だけこりまくって魂のない作品しか作れない監督が多いですけど、そんなヤツらとは一線を画して、キャラクターたちが置かれた状況を的確、無駄なく描き出す手腕は初監督にして巨匠の風格を漂わせ見事でございます。

 素晴らしいのは、ネタバレですが、救いようのない悲劇で話が終わるところ、アメリカ映画のパターンからいうと、ベラーニ大佐とキャシー・ニコロがなんとなく和解してめでたしめでたしになりそうで、実際、そういう雰囲気になりますけれど、急転直下、アホでマヌケなアメリカ白人の面目躍如、とんでもない悲劇が起こります。偉大な魂の存在を感じさせるイラン移民家族に比べ、アホでマヌケなアメリカ白人の、なんたるアホでマヌケぶりでしょうか。それにしてもベラーニ大佐、かわいそう過ぎ! 悲劇に直面して、猛然と神に祈りを捧げるベラーニ大佐に、私は茫然と涙したのでした。

『砂と霧の家』の、イラン移民と、アメリカ白人が争う「家」とは、アメリカそのものであります。…って、なんでもそういう風に見て取るのも飽き飽きしてますがともかく、「移民の国」といわれても、非・白人の移民は結局冷遇され、アメリカ白人の愚行の巻き添えを食って酷い目にあう。白人も勝手に自滅していく。もはやホーム(=アメリカ)は誰にとっても存在しえない砂上の楼閣、霧の中の風景なのであった……か、どうかはご覧になったみなさんに判断していただくとして。

 撮影はコーエン兄弟作品の名手ロジャー・ディーキンス、『ヴィレッジ』に続き、的確・見事な撮影です。この人の撮影ならば、安心して見ていられますね。

 救いのない話ですが、それがアメリカのリアルなのでありましょう。か? バチグンのオススメ。

☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Nov-22