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 Movie Review 2004・11月25日(Thu.)

海猫

 一度だけ、あなたに抱かれに来ました。バババーン!

 さて唐突ですが、シネマテーク・フランセーズ元館長アンリ・ラングロワはその昔、「映画に貴賎なし」とおっしゃったそうで、なるほどそれはともかく映画は見てみないことには話にならず、私もなるべく宣伝やら世評にまどわされず、先入観にとらわれず何でも見ようと思っておりますが、『の・ようなもの』『シブがき隊 ボーイズ & ガールズ』『家族ゲーム』『ときめきに死す』くらいまでは面白かったのですが、あ、『ハル』も面白かったですが、最近の森田芳光監督作品は何が面白いのかさっぱりわからないのですが、なるべくなら見ないでおきたいという希有な監督、それが森田芳光監督ですが。

 しかし、たまたま時間があいたのでつい見てしまった『海猫』、いやいやどうしてどうして『北京原人Who Are You?』『世界の中心で愛をさけぶ』には及ばないまでもツッコミどころ満載、楽しませていただき、ホッと胸をなでおろしたのでした。

 ロシア人と三田佳子の間に生まれた八頭身美人の伊東美咲、コンブ漁師(佐藤浩市)に嫁いでみたが、家業が思ったよりきつくて音をあげ、腹いせにこっそり義理の弟(仲村トオル)と寝て子供を作り、家出したけど旦那にひきとめられ、ええいと身投げして死んじゃった、義理の弟も死んじゃった…という、日本一の無責任女の物語です。

 そんなストーリーはどうでもいいのですが、まずは映画の冒頭、美輝(演じるはミムラ。サマーズじゃないですよ)は、フィアンセからいきなり婚約破棄を告げられ、そのショックで声が出なくなってしまいます。ガーン!

 フィアンセの言い分は、

「お前のお母さんは交通事故で死んだといっていたけど、そうじゃないじゃないか! 調べたんだぞ! お前も他の男の子供を生むんだろぉ!」

 ……そんなわけのわからないことをいきなりいうフィアンセ、そんなヤツぁおらんやろ! と、オープニング5分もたたないのに、ものすごいツッコミどころです。かつて、ここまで開巻後、間髪を入れずツッコミを入れさせる作品があったでしょうか? しぶしぶ見始めた『海猫』、いきなりの不条理コントに小さくガッツポーズをしたのでした。

「いきなり婚約破棄かよ! 誕生日にかよ! ケーキに顔つっこませるのかよ!」と、ツッコミどころが連打されるのに、絶句してしまう美輝を演じるミムラさん、完全に名前負けしてますよね。

 それはともかく美輝は、祖母・三田佳子に「お母さんに何があったの」と筆談で問いつめます。祖母・三田佳子が語る、母の死の恐るべき真実とは…?

 舞台は80年代の北海道、函館周辺。都会育ちの伊東美咲、バスに乗って漁師町へと嫁いでいきます。新郎は、無骨なコンブ漁師=佐藤浩市。「コンブ漁は、夫婦がやるものじゃけぇ!」(セリフはうろおぼえ)ということで、漁師の妻としてのきびしい労働、伊東美咲も細腕ながらがんばる日々。

 しかし! なまじ美人だったものですから、佐藤浩市の弟=仲村トオルが兄貴の嫁さんに猛アタック!! 仲村トオルは函館の鉄工所職工、趣味は油絵を少々たしなみ、キリスト教会の祭壇画を見て「なんだかここへ来るとホッとします」とごちる、文化の香り高い教養人です。

 この仲村トオルと伊東美咲、高台を散歩中、遠方に海を見て、

伊東
(ボソボソと)きれいな海の色! …クレーの絵みたい」
仲村
「!!! 姉さんもクレーが好きなんですか!」
伊東
(ボソボソと)ええ。見ているだけで楽しくなってくるから…」
仲村
(ムホーッ! っと鼻息あらく)「そ、それに、題名がいいでしょ! 『風景の中の家々』『世捨て人の庵』…」ポンポンと題名をあげる。
伊東
(ボソボソと)『黄金の魚』『高いC音の勲章』…」(題名は適当)

 …と、ガッツリ意気投合してしまうのであった。海の色を評して「クレーの絵みたい」と言ってのける伊東美咲もすごいですが、それに反応する仲村トオルもただものではありません。

 やがて伊東美咲は子どもを生んだりしますが、少しづつ佐藤浩市に愛想を尽かし、ついに仲村トオルに「一度だけ、あなたに抱かれに来ました」…という展開。

 いや、これが、江戸時代や明治・戦前が舞台というならわからんでもないのですが、舞台は80年代、伊東美咲も結婚した先でどんな生活が待っているのか事前に知っているはず、いや、知っていなければならないはずです。それなのに、コンブ漁の仕事をしんどがったり、義理の弟とできてしまったり、寝こんだり、お前、ふざけてるんとちがうか? なめてるのか? と義理の母ならずとも折檻したくなりますよね? というか、義理の母はもっとギリギリ折檻すべきではないでしょうか。

 嫁いでみたら、やさしかった佐藤浩市は暴力亭主に豹変したとかならわからないでもないですが、佐藤浩市は無骨・不器用でもやさしい方だと思います。『血と骨』の金俊平より100億倍マシです。って何と比べているのかよくわかりませんが、さらに、これが見合い結婚ならまだわからんでもないのです。しかるに伊東美咲と佐藤浩市は恋愛結婚、二人のなれそめを聞けば、どちらかといえば伊東美咲の方からアタックしたようですから恐れ入りました。

 そうそう、二人のなれそめシーンが、この『海猫』最大のツッコミどころですので、みなさん心の準備をお忘れなく。

 伊東美咲は、ロシア人と三田佳子の間に生まれたハーフという設定ですが、かつて銀行の窓口ではたらいていたとき、粗暴な漁師に因縁をつけられます。そこを救ったのが佐藤浩市なんですけど、

銀行窓口の伊東
(粗暴な漁師)に「(ボソボソと)あの…。ここに記入していただきたいのですが…」
粗暴な漁師A
「ハァ?? するってぇと何かい? ここの金額を書き直せと言うのかい?」
伊東
(ボソボソと)…は、はい」
粗暴な漁師B
「おう、おう、おう! お姉ちゃん、ちょっと顔がかわいいからって、なんちゅう口ぶりだい? それとも、目が青いと、わしらと違うものが見えるのかねぇ?」(セリフはうろおぼえ)
伊東
「…………(絶句)

 そこで、カメラはググーッと伊東美咲の顔にアップになって………私はツッコミました。

「目、青くないのかよ!!」

 あー、ビックリした。なぜ、眼が黒いのでしょうか? CGで画像処理するつもりが、うっかり忘れたのでしょうか。まったく森田監督、粗忽ものですね。答え=漁師がウソをついた。と、いうことでしょうか。謎です。

「映画に貴賎なし」、とはいえ、なるべく森田芳光監督作品だけは見ないでおこう、と改めて私は一人ごちたのでした。伊東美咲は、おどおどボソボソしたセリフ回しが、演技なのか素なのか判然としない好演、ロシア人とのハーフという難役を、八頭身(ビックリするほど手足が長い)で見事に表現、オススメです。

(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Nov-22