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 Movie Review 2004・11月5日(Fri.)

トスカーナの休日

 新しい生活、新しい出会い、新しい“私”…。10 日間の休日はいま、永遠になる――。ババーン! 名作『リトル・ロマンス』14 歳少女も今や 39 歳、ちかごろ『陽だまりのグラウンド』『運命の女』と好演続きダイアン・レーン主演最新作、主人公はサンフランシスコ在住の女性作家、夫の浮気で離婚、ガックリ失意に沈んでいたところ、友人のススメでイタリア・トスカーナに旅行することに。トスカーナの地で〜、ダイアン・レーンが〜、出会った〜(下条アトム風に読んでください)、みなさんご想像のとおり、陽気なイタリア人と親交を結んで恋もして生きる気力を取り戻していくというお話。

 誇張されている面も多々ありましょうが、寒々・殺伐としたアメリカと対比されるトスカーナ地方が最高に魅力的です。いつの日か 住んでみたいな トスカーナ。おっと、思わず一句ごちてしまいました。

 紋切り型イタリア人が多数登場、いい女を見かければお尻をおいかけずにはいられず、口説くことは礼儀と考えているみたいな? しかしたとえ紋切り型であっても、アメリカ人より(そして日本人より)はるかに「人生を楽しむ」すべを知っているように見え(それも紋切り型ですが)、近所づきあいが濃密、知り合い総出でオリーヴを収穫し、夕食は大テーブルでわいわいと、昼食もワインを飲みつつわいわいと、まったくもってうらやましいぞ、こんちくしょー、紋切り型でもトスカーナに住みたい。みたいな? ってよくわかりませんね。

 さらにトスカーナが凄い! と思ったのは、トスカーナの映画館ではブレンダン・フレイザー主演『ジャングル・ジョージ』イタリア語吹き替え版が上映されており、なんと! 観客席は満員なのですよ! 日本ではパッとしない興行成績だったと思いますが、このあたり、すぐれた芸術が庶民レベルで享受されているイタリア人の底力、センスの良さを痛感しました。

 少しネタバレですが、ダイアン・レーンはトスカーナ地方の築 300 年の家を衝動買いしてしまい、そのリフォームで散々苦労します。夜に激しい嵐に見舞われ、庭に落雷してぎゃあぎゃあ騒いだり、ふと見れば壁にサソリが、ぎゃー! とか、あわわわ、でかい蛇が家に入っちゃいましたよ! …などの数々のトラブル、それらに対するダイアン・レーンのリアクションが素晴らしく、見事なコメディエンヌぶりである、うむ。と私は満足の笑みを浮かべました。

「トスカーナは幸せいっぱい」な面ばかりではなくて、残酷というか、裏にひそむ悲しみをかいま見せる描写も少しあります。自分はフェフェ(フェリーニ)と友だちだったと思いこんでいる(真偽は定かではない)中年美女が、町の広場の噴水で、『甘い生活』の有名なシーンを再現するシーンがありまして、野次馬の子供が「キチガイ女が噴水に入ってるゾ!」(意訳)と心ないことをいうとか。

 あるいは、ダイアン・レーンの屋敷の窓から見える塀に、マリア様のレリーフ(お地蔵様みたいなもの?)があり、毎日花を供えに来る老人がおりまして、ダイアン・レーンが明るくあいさつしても知らんぷり、果たしてこの老人、イタリア人なのにどうしてあいさつしてくれないの? ムカーッ! というか、どのような過去ありや? その謎は謎のままなのですが、トスカーナにも何やら悲しい歴史があることを感じさせるスパイスとなっております。

 みなさんの予想通り、この老人は、最後の最後にダイアン・レーンにちょこっと挨拶してくれるのですけれど、その挨拶の具合が最高に素晴らしく、やはり、映画はラストシーンがよければすべてよし、と思いました。

 監督はオードリー・ウェルズ、だいぶんゆるめですけどテンポよろしく、なんでも『Sall We ダンス?』米国リメイク版の脚本担当の方みたいです(ちなみに『ジャングル・ジョージ』脚本も担当)。花を供えにくる老人の挿話とか、住みだした最初はひからびていた水道の蛇口から…とか、ちょっとした点景の使い方がよろしく、ちょっとビリー・ワイルダー風の、クラシック、オーソドックスな演出・脚本でございますね。

 とにかくダイアン・レーンがテンション高めで楽しませてくれますし、トスカーナの美しい風景は美しいし、生活にお疲れの方は、リフレッシュ休暇をとらねばなぁ、行ってみたいな住んでみたいなトスカーナ、という感じでオススメです。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Nov-4