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 Movie Review 2004・3月12日(Fri.)

エヴァとステファンと
すてきな家族

 パパとけんかしたママが、ぼくらをつれてたどりついたのは、とびっきり個性的(すてき)な人々が、一緒にくらす〈コミューン〉だった…。ババーン!

 …ということで、宣伝は『ロッタちゃん』的スウェーデン発ほのぼのドラマ風ですがとんでもない話で、〈コミューン〉で暮らす人びとは確かに「個性的」ですが「すてき」かどうかは大いに意見が分かれるところ、「一体、どこか『すてき』やねん!」と観客が大騒ぎ、暴動がおきやしないかと冷や冷やしながら鑑賞したのですが、大丈夫でした。

 冒頭、コミューンメンバー約一名が、ラジオニュースを聞き「フランコが死んだ!! フランコが死んだ!!」と大喜び大騒ぎ、すなわちこの映画の時代設定はスペインに長きにわたって君臨したフランコ大統領が死んだ 1975 年、場所はスウェーデン。スウェーデン人がなぜ「フランコが死んだ!!」と大喜びされるのかよくわかりませんが、パパとけんかしたママが、ぼくらをつれてたどりついたのは、ヒッピー、共産主義者、フリーセックス論者、ゲイセクシャルらが一つ屋根の下で暮らす共同体だったのです! ババーン! つまり、フランコ大統領が死んで大喜びされたのは共産主義者なのでした。ふむふむ。

 こういう、家族制度を性急に解体し、老若男女が平等・対等な個人の共同体として生活するコミューンは、最初はなかなか楽しいけれども、末路が悲惨なものになるのは洋の東西を問わない、と思うのですけど、このスウェーデン・コミューンは最初から終わってる、というか、超悲惨で、例えば朝の食卓から口喧嘩です。

「どうしてあんた、食器を洗わないのよ! 当番でしょ!」「いや、私はおととい洗ったわよ!」「私は、そんなことからは解放されているのだ」「それより、なんでお前、下半身すっぽんぽんやねん!」「性病の治療のためよ」「朝からそんなもん見たくないぞ!」「見たくなければ見なけりゃいいじゃん!」「そんなら俺のディックも見せてやる! かちゃかちゃ」……うーむ、すてきな家族です。

 コミューンの隣家のオヤジは、コミューンに対して「おかしな連中の集まり」と批判的、しかしその息子はコミューンに出入りするようになり、…なんて感じは『アメリカン・ビューティ』風、説明的なセリフを排して、俳優の瞬間瞬間の表情・演技をとらえるタッチは、ジョン・カサヴェテスを意識されたそうで、シニカルな視点はフランソワ・オゾン風。コミューンに連れてこられた少女は隣家の息子に淡い恋心を抱くのですが、その恋の結末の意地悪さはまさしく私好み、大笑いしてしまいました。

 監督は 1969 年生まれ弱冠 35 歳ルーカス・ムーディソン、長編デビュー作『ショー・ミー・ラヴ』が「スウェーデン国民の 10 人に 1 人が観る大ヒット」になったそうです(『ショー・ミー・ラヴ』も見てみたいんですが、いつの間に日本公開されていたのやら)

 それはともかくスウェーデンについては、所得税・消費税が死ぬほど高くて福祉・医療が滅法充実しているらしい、としか知りませんが、そんな国でもヒッピー的というか、左京区的(?)コミューンが存在したのですね。なんでも『エヴァとステファンとすてきな家族』は「スウェーデンで 3 人に 1 人が観た大ヒット作」(『ショー・ミー・ラヴ』の 3.33333...倍)で、日本人・私が見てもコミューンメンバーのステレオタイプな言動の数々はなかなか笑え、きっとスウェーデンの方々は腹を抱えて大笑いされたのではないか? と想像するのであった。

 暴力亭主とその妻はコミューンに触れて対等の立場の男女となり、ラストはなんだかよくわからない内に全員、庭でサッカー大会! コミューンとはスウェーデン国家の縮図、それぞれが個を主張する共同体は、ともすればバラバラになってしまいそうなところ、サッカーが共同体を存続させる役目を果たします。すなわち主義・主張が入り乱れるスウェーデン国家国民は、サッカーによって共同体意識を持ち、国家を存続させているのだ、とルーカス・ムーディソンは喝破するのであった。スウェーデン人は色々大変だけれども、みんなサッカー好きでめでたしめでたし、みたいな? 適当です。

 ほのぼのコメディを期待すると肩すかしかも知れませんが、シニカル・意地悪・辛口(というか、酸っぱい)コメディ好きな方にはオススメです。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Mar-12;