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 Movie Review 2004・3月15日(Mon.)

アップタウン・ガールズ

 今度のベビー・シッターは、子供っぽすぎる! ババーン!

 ちなみにアメリカでの宣伝文句は“They're about to teach each other how to act their age.”――彼女たちはお互い、いかに年相応にふるまうかを、まさに教えあおうとしています……ってヒネリなしそのまんま、今回は日本版宣伝文句の圧勝ですね!!

 ってよくわかりませんが、今は亡きロックスターの娘=ブリタニー・マーフィ(『8 Mile』エミネムの彼女役の人)、大金持ち生活を満喫していたところ、弁護士に親の遺産を持ち逃げされ一文無し、贅沢生活にすっかりスポイルされていたものですから生活力ゼロ、色々あってやっと見つけた仕事はダコタ・ファニングのベビーシッター! ババーン! 元・金持ちギャルと、現・金持ち子供さんのハートフルな友情物語で、何はさておき、ブリタニーとダコタの組み合わせ、わけてもダコタ・ファニングが素晴らしいです。

『アイ・アム・サム』でも、アッと驚く名演を披露したダコタ・ファニング、今回は、素直な感情表現が苦手な…というか、感情表現を軽蔑するハードボイルドな子供で、一方ブリタニーは甘やかされて育ったアダルトチルドレン。例えばブリタニーが「私は、あなたのママに雇われたのよ! あなたの指図はうけないわ! キィー!」と吠えれば、ダコタきわめてクールに「はぁ? もしもしー? 今、ここにママはいないでしょ? だから私が雇っているのと同じことでしょ? あなたは雇用主・私の言うことを聞かなければならないのよ。おわかり?」とブリタニーを小馬鹿にしまくって受け答えする、スーパークールな毒舌ぶりが最高です。

 で、みなさんご想像通り、ダコタとブリタニーは喧嘩しつつ心を通わせ、ダコタは子供らしさを獲得し、ブリタニーは自立を果たす…というお話なのですけど、私が「凄い!」と思ったのは、ブリタニーがダコタの心を開こうとした行為がとんでもないオチを迎えるいくつかのエピソードで、これがもの凄ーく残酷なのです。

 以下ネタバレ。

 ひとつはブリタニーが、無理矢理ダコタを遊園地に連れて行くシーン。表面上クールなダコタも、生まれて初めて遊園地に行くものですから内心ワクワク、まんざらでもない様子、しかし! なんと遊園地はオフ・シーズンで休園中! ブリタニー「…どうして人がいないの?」…って、遊園地が開いてるかぐらい調べてから行けよ! って一応開いてるけど、人が少なくて乗り物停止中の比叡山頂遊園地状態。ダコタの心は深く傷ついたはずです。

 さらにもうひとつ、ダコタの父親は事故で寝たきり植物状態でして、ブリタニーはダコタに言います。

ブリ
「どうしてお父さんに話しかけてあげないの?」
ダコ
「植物状態だから、何にも聞こえないのよ。話しかけても無駄じゃん!」
ブリ
「植物状態でも患者に、家族が一生懸命話しかければ、寿命が延びるのよ! これは統計的な事実よ!!」

 …真に受けたダコタは一生懸命、植物状態父に話しかけます。…次の日、いきなり父親死んでしまう!! 阿呆な大人のいい加減な言葉が、子供をとことん傷つけてしまう瞬間です。ダコタ可哀想過ぎ! いつもの私なら大笑いしてしまうところ、何せダコタ・ファニングが気丈にも取り乱さないもんですから、茫然と泣き濡れたのでした。

 子供が不幸で苦労するほど映画は面白くなる、と勝手に私は思っているのですが、この作品でダコタ・ファニングを見舞う「子供っぽすぎるベビーシッター」という不幸は、『アップタウン・ガールズ』を傑作と呼ぶにふさわしいものにしている……のですけど、監督は、見たことをすっかり忘れていた『タイタンズを忘れない』のボアズ・イェーキン、上記ダコタを見舞う不幸や、ブリタニーとその友人の仲違いシーンなど、何度も泣かせてくれるのはいいのですけど、ブリタニーが助平心を抱くロックシンガーの扱いは阿呆なコメディっぽいし、ブリタニーが最初、寝具店に勤めてついベッドで寝てしまってクビになるのは余りにも古典的で爆笑しつつ、何だかよくわからないうちに大団円を迎えて釈然としないものが残るのでした。

 そんなことはどうでもよくて、とにかくダコタ・ファニングが凄い! ラスト、バレエの発表会で披露するタコ踊りはご愛敬ですが、ひょっとしたら私は、グレタ・ガルボやマレーネ・ディートリッヒ(よく知りません)、あるいはオードリー・ヘップバーンやキャサリン・ヘップバーン級の、伝説的な大女優が誕生しつつある瞬間を目撃しているのではないかー? すくすくと育っていただきたいな、と一人ごちたのでした。オススメ。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Mar-12;