レディキラーズ
今度のトム・ハンクスは“大悪党”!! ババーン! …と、おっしゃいますが、実際のところトム・ハンクスは“小悪党”、また、
「史上最強の犯罪エキスパート集団。彼らのカジノ強奪計画は、完璧なはずだった。ひとりの老婦人さえ、現れなければ…。」
というより、「新聞広告で集められたド素人犯罪者・烏合の衆、彼らの計画は穴だらけ、というか地下室でこっそり穴を掘りますが、ひとりの老婦人は最初から現れているじゃん?」…というお話。
そんなことはどうでもよくて、脚本・監督はジョエル & イーサン・コーエン、つい先日『ディボース・ショウ』公開されたばかりというに矢継ぎ早に新作を見られるとは何たる幸せ、今回『マダムと泥棒』(1955 ・アレクサンダー・マッケンドリック監督)のリメイク、『マダムと泥棒』出演はアレック・ギネス、ピーター・セラーズ、私、未見でよく知りません。が、イギリス的ブラックユーモアあふれる快作ではないか? とアタリをつけつつ、この『レディキラーズ』、ブリティッシュ犯罪コメディをアメリカ南部に舞台を置きかえ翻案して生まれたズレを楽しむ、みたいな映画通な楽しみ方も出来そうです。
アメリカ南部の音楽と、南部弁のしゃべりが素晴らしかった『オー・ブラザー!』同様、この『レディキラーズ』も南部テイストあふれてなかなかに面白い、のですが、黒人老婦人イルマ・P・ホールの圧倒的な存在感に比べて、小悪党トム・ハンクス、「一生懸命、役作りしてまっせ!」って感じ、役柄的にも、どうでもいいウンチクをダラダラ垂れる性根の腐った男で、黒人老婦人を小馬鹿にしている雰囲気ふんぷんムカつく感じ、「悪役を魅力的に演じる」のは、やはり難しいのですね、と私は一人ごちました。
しかし同情の余地ない犯罪者を、嫌悪感催すほどに描いて罰を与える、という点で、この『レディキラーズ』は倫理的な映画と言えましょう。
『ディボース・ショウ』で倫理なきアメリカを嘆き、笑い飛ばしたコーエン兄弟でしたが、この『レディキラーズ』では一転、アメリカに倫理を見出したのであった。アメリカの倫理は、黒人ビッグ・ママにあった! ババーン!
教会でゴスペルを聞くのが大好き、嫌いなのはヒッピ & ホップ、そういう黒人ビッグ・ママが、倫理をなくした者どもを懲らしめる、という物語で、懲らしめられるのは、人を見下すスノッブ白人、ヒップホップ黒人、少しオツム足りない白人、昔は黒人解放運動にかかわったものの、それを自慢げに語るだけで今は何もしてない元リベラル白人、愛煙家韓国人…など。
黒人ビッグ・ママが救いようのない小悪党どもをバッタバッタとやっつけるのがとにかく痛快…というか、悪党どもは勝手に自滅するのですけど、とりあえず、黒人ビッグ・ママ=イルマ・P・ホールのシャベリが素晴らしいし、彼女が大喜びで楽しむ、教会でのゴスペル演奏シーンは最高でございます。また、オープニング、ミシシッピ川に浮かぶゴミ捨て島を映し出すまでのカット割りがカッコいいし、ポーンと死体が捨てられるシーンも気色よいし。
コーエン兄弟にしては、イルマ・P・ホール以外のキャラの魅力が薄いし、阿呆な犯罪者たちによる、穴だらけの犯罪計画が破綻する当たり前の話、今ひとつピリッとしませんが、ところどころカッコいいシーンがありますのでオススメです。
☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)