ドーン・オブ・ザ・デッド
それは 8 歳の少女から始まった。『死ぬまでにしたい 10 のこと』サラ・ポーリー主演最新作! ドドーン!オブザデッド ジョージ・A・ロメロ監督ゾンビ映画の代表作『ゾンビ』のリメイク、…『悪魔のいけにえ』に続いて、こんなカルトな映画のリメイクとは、アメリカ映画の「リメイク病」はますます深刻なようです。
それはともかく、監督ザック・スナイダー、CM ディレクター出身だそうですが、近頃の新人には珍しい、手堅い演出を見せます。
冒頭、主演サラ・ポーリーのバックに病院 ER 入口「EMERGENCY」の文字が、対角線上にガーン! と出て、なんだかよくわらかないけどドーン!オブザデッド と不安感を盛り上げるあたり、「コイツ、出来る!」って感じですね。
サラ・ポーリーが目覚めたら、世界がすっかり崩壊しており、ゾンビにギシャーッ! と襲いかかられ、大あわてでバスルームに逃げ込むその瞬間を真上のカメラがバーン! ととらえるのは『サイコ』調、その後、クルマで逃げ出し、もの凄い俯瞰でダーン! と街の全景、暴走車がキュルキュルキュルとガソリンスタンドにつっこんでドッカーン! と大爆発する様はまるで『鳥』みたい。いやまったく今どき珍しいヒッチコック・タッチ全開、ショッピングモールがズズズズーン…と不吉さを漂わせて現れるカットも、「待ってました!」と一人ごちたいくらい、最高に気色よいのであった。
転じて、ショッピングモールではノンビリムード、やはり映画、特にホラーは緩急が必要、キャラをじっくり立てていくのが近年まれに見る手堅さです。いよいよ装甲車を組み立て、ショッピングモール脱出をはかる展開は、『マッド・マックス 2』的盛り上がりをするに違いない! と期待が高まったのですが、クライマックスのアクション、カッコいいのですけど少々苦言を呈したい。
というのは、『プライベート・ライアン』『バトル・ロワイヤル II』でおなじみ「ストロボ効果」が使われており、やたら画面がカタカタして見づらくなって興をそがれることはなはだしいのです。画面をちかちかさせれば観客は緊張しますが、それは生理的な緊張で、頭の方ではどんどん弛緩。せっかく古典的ヒッチコック・タッチで盛り上げたのに、クライマックスで「ストロボ効果」を使ったのは、まったく勿体ないな、と。
とはいえ、ピンチな場面にもユーモラスなところがあるのが素晴らしいです。例えば冒頭、猛ダッシュでクルマを追いかけていたゾンビが、たまたま通りかかった人の方へダーッと方向を変えるのが、犬っぽくて笑えますし、また、チェーンソーで……というシーンは腹の底から笑った。大声で笑った。
また、ショッピングモールの向かいのビルに閉じこもっている男と、屋上でホワイトボードを使って離れてチェスをするシーンも良いです。いかに彼らが暇をもてあまして、いかに長い時間が流れたか、一瞬の描写で時間の経過を表現する、近来まれに見る見事な省略と言えましょう。脚本はジェームズ・ガン。『スクービ・ドゥー』『スクービ・ドゥー 2』(私は未見)の脚本も手がけておられますが、ひょっとして『スクービ・ドゥー』って面白いのかもー?
ゾンビが全然「死人」っぽくないのも面白いです。大群衆ゾンビが街を埋め尽くすのは、さながら LA の黒人暴動、はたまた発展途上国の人民蜂起の雰囲気が漂います。ある朝目覚めたアメリカ人は、もはや自分たちがマジョリティではないことに卒然と気づく。ショッピングモール(資本主義社会)に閉じこもってみたものの浪費するにもやがて飽き、新天地を求めても安住の地はもはや存在しないのだ、と、いうところでしょうか。
主人公たちが、映画が終わりそうになっても諦めず、ひたすら新天地を求めてアクションを続けるのは、アメリカの、周りが見えていない諦めの悪い性格を鋭く描き出した、と言えましょう。
『ドーン・オブ・ザ・デッド』は、アメリカ現在の孤立感、閉塞感を反映した物語です。って、ジョージ・A ・ロメロ版『ゾンビ』も、そういう感じだったと思うのですけど(大昔に見たきりであまりおぼえてません)、ここで描かれた孤立感・閉塞感・終末感は、アメリカ人ならたやすく共有できるでしょうが、日本人・私にとっては、むしろゾンビ側に肩入れしたい感じなのですね。アメリカ人が遊びでゾンビを狙撃するシーンも、現実世界のアメリカ軍の蛮行を想起させ、主人公たちに感情移入し続けるのが困難となって、ホラー感はどんどん消えてしまう。本来後味が悪くなるはずのラストも、妙に爽快、「夜明けは近い!」って感じなのが面白いのでした。
ともかく、冒頭ショッピングモールに立てこもるまでがバチグンにカッコいいのでオススメです。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)