死に花
もうひと花ふた花 ボクらの花を咲かせましょう。なんだかワクワクしてきましたよ。ババーン! 傑作『ジョゼと虎と魚たち』の犬童一心監督の新作は、高級老人ホーム、悠々自適・静かな余生を送るはずの老人たちが、大銀行の金庫破りをたくらむ、というお話です。
さてその老人たちを演じるのは、山崎努・宇津井健・青島幸男・藤岡琢也・谷啓・長門勇・松原智恵子と、戦後日本映画を主演・助演で支えてきた目も眩む豪華メンバーです。作戦を指揮する山崎努の役柄が元映画プロデューサー、と、いうことは「もうひと花ふた花ボクらの花を咲かせましょう」の「ボクらの花」とは日本映画そのもの、と見ることができます。
先に逝った藤岡琢也が遺した金庫破り作戦シナリオにもとづく犯罪は、映画を撮る行為に似ております。ってよく知りませんが、一日の作業の終わりにビールで乾杯したり、不測の事態を現場の底力で切り抜けて、現場がどんどん祝祭の雰囲気を帯びてくるところとか。『死に花』とは、「映画を撮るような気分で行われる犯罪」を描く映画、なのであった。
老人自ら、ツルハシをふるって穴を掘る姿が感動的です。私には、CG ルームで作られる最近の日本映画(『イノセント』とか? 『キャシャーン』とか? よく知りません)に対して、土にまみれてものを作る「現場の喜び」を、老優たちが教えようとしている、と思えたのでした。…って、この映画にも CG が使われてて、なかなか良くできておりますね。いやー、CG って、ほんと便利ですね。
それはともかく、老人たちは高級老人ホームの住人たち、そのホームに入居するにはウン千万、ウン億円という超高額の入居費が必要、そんな金持ち老人たちに、観客・私が感情移入するのは誠に困難、その橋渡しとして老人ホーム新人職員=星野真理が「紅一点」ならぬ「若一点」として好演、あるいは長門勇は「貧一点」、しかし、「年寄りの道楽」的・趣味的な犯罪の印象があって、その点はちょっと面白くないです。
しかしながら、遂行される犯罪はやがて、「日本人は、太平洋戦争の記憶を掘り起こし、調子に乗り過ぎの銀行を打ち倒さねばならない」という、きわめてまっとうな世界観の表明へと変化していきます。「前代未聞の手口」と報道され、私は、誠に痛快な気分を味わったのでした。
犬童一心監督のタッチは、悠然と、日本映画の老優の表情、シワの一本一本を永遠の記憶にとどめんと、彼らの演技を丹念に丁寧に写し取り、日本映画に対する深い愛情がにじみます。この『死に花』は、また、ある老優の「昔の顔」を発見するための物語でもあります。彼ら老優の若き日々= 1950 〜 1960 年代の日本映画こそが、この世でいちばん面白い! ということを、私は改めて思い出し、茫然と感動したのでした。
「昔から 穴掘り映画に 駄作無し」(詠み人知らず)との言い伝え通りの快作と申せましょう。観客席はご老人ばかりでしたが、ヤングの方がご覧になっても充分お楽しみいただけるのではないかしら? オススメいたします。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)